経済性管理(その2)

元町
目次

2.2 品質管理

品質管理は、もともと米国で生まれた手法であり、顧客や社会の要求に合った品質の品物またはサービスを経済的に作り出すための手段の体系と定義することができる。今日では、一部の技術者の活動を指すものではなく、品質方針や責任者を定めた品質管理システムの中で、品質計画を立案して実践し、品質保証や品質改善までを実施する経営機能全ての活動のことを指す。別な表現を用いれば、あらゆる組織が継続的に維持、発展させるべき活動である。また、ここでいう品質とは、設計品質、製造品質、製品品質など全ての生産活動段階での品質を含むものである。
 日本では、昭和40年頃までは生産者が主導権を握り、生産者主導で生産され販売されてきた(プロダクトアウト)が、それ以降は消費者に主導権が移って(マーケットイン)きている。今後はますます消費者を優先した顧客重視の発想が要求されるが、品質管理の基本となる理念もそこにある。
 第二次世界大戦前の日本製品は、「安かろう、悪かろう」と言われていたが、戦後初期段階では、統計的品質管理(Statistical Quality Control ; SQC)の導入によって製造品質の改善に実効をあげた。その後、生産活動が活発化し市場の要求水準が高まる状況になると、開発・設計、生産準備(購買管理や外注管理)、流通・サービスといった製造部署以外の業務改善の必要性が増し、全社的品質管理(Total Quality Control ;TQC)として展開されていく。 TQCは部署・職位の両面で範囲を拡大し、全社に及ぶ意識改革と具体的活動として大きな効果を挙げた。その活動要素の一つがQCサークルである。            
 90年代に入ると、TQCを質的に発展させたに全社的品質管理(Total Quality Management ; TQM)への転換が図られた。その背景には日本で発展したTQCを西欧諸国が取り入れるにあたり、経営レベルまで発展した品質管理を正確に表現する名称として採用し、国際化していった事実がある。 TQCが発展した30年の間に、概念の幅も品質の定義も手法も変化し、製造関連分野の一手法であったものが、組織経営に直結する管理技術として認知されている。 TQCからTQMへの転換には、従来の枠からの脱却の意図が込められている。

2.2.1 全社的品質管理

SQC(Statistical Quality Control)から始まった品質管理は、TQC(Total  Quality Control)として主に日本で発展していった。 TQCはその30年程の時間経過の中で質的な発展を遂げ、TQM(Total Quality Management)と呼ばれるようになったのである。両者の違いは、ControlかManagementであるかである。全社的な取り組みを必要とする技術となった品質管理活動においては、トップから末端までの全従業員が参加する活動であり、その活動は経営そのものである。そのために、品質管理の一般的な表現としてTQMが定着している。
 TQMとは、顧客や社会の要求に合った品質の高い商品やサービスを経済的に生産し、顧客の満足する価格で最適のタイミングで提供するための品質を中核とする組織経営の方法のことである。組織活動におけるTQMの特徴は、以下のような活動項目として整理される。
(1)経営層主導による全社的なQC(Quality Control)活動の推進
(2)経営層による品質重視の徹底
(3)方針の展開とその管理
(4)QCの診断とその活用
(5)企画、開発、販売、サービスなど全ての段階での品質保証活動
(6)QCサークル活動
(7)QCの教育訓練
(8)QC手法の開発と活用
 品質に関わる問題を解決する必要に迫られたとき、QC的問題解決法と呼ばれる方策を適用することが一般的である。以下にそのステップを示す。これらは、QCストーリーとも呼ばれている。
(1)テーマの選定
(2)取り上げた理由
(3)現状の把握
(4)解析
(5)対策
(6)効果の確認
(7)歯止め(標準化)
(8)反省と今後の計画

2.2.2 品質計画

品質計画とは、品質管理活動全体の基本方針である品質方針に基づいた計画のことであるが、固定的なものではなく、日常の活動を進めていく中で見直しを行うべきものである。基本的な役割は、顧客や社会からの品質に関する要求事項に対して、組織の能力が要求事項を満足し得ることを確かめ、効率的な業務遂行を行うための計画を策定することになる。また、品質計画は全ての品質管理システム及び品質方針と合致しなければならない。
 以下では、一般的な品質計画の策定の流れを見ていく。まず、組織全体としての品質方針が経営層から示される。この品質方針は、方針管理の考え方に基づき、部門毎の品質方針へと展開されることになる。この展開された品質方針に基づいて、部門毎もしくはプロジェクト毎の品質計画を策定する。品質計画では、大きく分けて次の2つの内容を定める必要がある。
(1)品質に関する要求事項を明確化し目標と方策を定めること
(2)品質管理システムをどのように適用するかを定めること

 (1)に関して重要なことは、顧客や社会からの要求を考慮した品質を企画することであり、品質方針に基づいた品質の目標とそれを実現するための方策を定める。この目標と方策は現場の具体的活動へと展開されることになるため、組織としての能力が足りているかどうかをチェックする必要もある。(2)は組織活動やプロジェクトにおける効率や確実性を上げるために、品質管理システムをどのように適用するかを計画することである。

 また、品質に関する要求事項を満たすための運営方法を検討した後、品質計画書として文書化することが一般的である。品質計画書は、組織活動やプロジェクトを効率的かつ確実に実行するための計画書であり、現状での問題点やリスク、活動目的などを明確にすることが必要である。また、組織活動やプロジェクトを推進するにあたり、準拠すべき基準・法令なども併せて明確にする必要がある。プロジェクトにおいては人員体制を定め確保する必要もあるため、品質計画書においては、活動項目や作業工程毎の担当者を明らかにし、責任の所在を明確にすることが必要である。

 品質に大きな影響を及ぼす設備などを使用する場合は、設備名称、管理番号、検定書有無、仕様・数量などを明確にする必要がある。そして、設備の管理責任者と連携し、関連する資機材などを確保するとともに品質計画書に明記することになる。

2.2.3 品質管理(QC)の実践

古典的なSQCにおいては、生産工程における品質のばらつきを把握・分析し、改善していくことが主眼であったため、統計的な手法を用いて品質管理を実践していた。代表的な手法には実験計画法がある。その後のTQCやTQMの展開により、技術部門から管理部門にまで手法に対する需要が広がり、QC7つ道具や新QC7つ道具として、数値データに留まらず、非数値データも取り扱える手法が一般化した。
 また、品質管理活動を組織全体の取り組みとして実施するための仕組みとして、QCサークルを挙げることができる。QCサークルとは、第一線の職場において品質管理活動を行う小グループのことである。職場により名称が異なるこどもあるが、参加者が自主的に運営を行い、各自の自主性を尊重して活動することに特徴がある。また、自己啓発や相互啓発による人的資源開発の側面もある。
 以上で述べた手法や仕組みを利用しつつ、QC的問題解決法のステップを継続的に実践していくことが、品質管理システムとしてPDCAサイクルを回すということである。
継続的に品質管理を実践していくことにより、問題解決能力が向上し、解決できる問題レベルが高度化していくスパイラルアップが期待される。
 また、実際に品質管理活動を実践する際には、重要な内容を現場で徹底するために、覚えやすい標語がしばしば利用される。有名なものには、現場で徹底すべき基本的な内容を表現した5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけの頭文字Sをとったもの、しつけを除いて4Sとする場合などもある)、無くすべきものを表現した3ム(ムリ・ムラ・ムダ)などがある。コミュニケーションの基本として、ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)といった表現も広く一般化している。

2.2.4 QC7つ道具と新QC7つ道具

以下に示すQC7つ道具は、主として数値データを扱うことに適しているとされる。
(1)層別
   母集団となるデータをいくつかの層に分けて再集計し要因を探る方法
(2)パレート図
  項目別に層別して出現頻度の大きさの順に並べ累積和についても示した図
(3)特性要因図
  ある結果(問題点)に対して要因を大骨・中骨・小骨として並べた図
   (魚の骨のように表現された図から特に重要な要因を見つけることが目的)
(4)ヒストグラム
  データが多い場合に利用され、度数分布図とも呼ばれる図
(5)散布図
  2組の母集団からサンプルを取り、原因系と結果系の関係を表現した図
(6)グラフ・管理図
  生産工程の安定性を評価するためのグラフや図
(7)チェックシート
  一連の作業のやり方や結果、設備などの点検・検査記録を記載するシート
 
新QC 7 つ道具は、主として言語データの分析に適しているとされている。
(1)連関図
  問題とその原因となる項目を抽出し、項目間の因果関係を矢印で表示した図
(2)系統図
   目的を達成するための方法と実施手段を抽出して樹形状に表現した図
(3)マトリクス図
  問題の切り口を変えた時の項目間の関係を2次元的に表示した図
(4)過程決定計画図(Process Decision Program Chart ; PDPC)
  対策を進めていくプロセスを表現したフローチャート
(5)アロー・ダイアグラム
  矢印を用いて日程計画を図示したもの
(6)親和図
  言語データを関連事項ごとに分類・集約した図
(7)マトリクスデータ解析
 複数の特性を測定し、グラフの縦軸・横軸・プロット値などにより特性を記述し、複数の特性を総合的かつ定量的に解析するための図

2.2.5 品質保証

品質保証とは、顧客や社会から要求される製品やサービスが、品質要求事項を満たすことについての十分な信頼感を供するために行われる計画的かつ体系的な活動である。
 その目的は、消費者が安心して製品を購入でき、購入後も消費者が期待する期間中その製品が確実に機能することを保証することにある。つまり、真の意味での顧客満足(Customer Satisfaction ; CS)を与えるため、提供する商品やサービスに全体として満足してもらう必要がある。
 そのため、企業などの生産側か行う品質保証活動は、企画、開発・設計、生産準備、生産、流通、販売・サービス、廃棄・リサイクルなど全ての生産活動の段階に関係するものである。消費者に安心して製品を購入してもらうためには、まず消費者の要求に合致した品質の製品を提供することであるが、それに加えて、ビフォアサービス(製品を正しく使用し整備してもらうための取扱説明書や保守・点検マニュアルなどの整備や説明)とアフターサービス(万一故障した場合に迅速かつ簡便に修理や取替えができるサービス体制を整えておくこと)を実施する必要がある。
 確実な品質保証を行うためには、顧客重視の考え方の下、全組織において活動を徹底することが重要となる。方法としては次のようなものがある。
(1)開発・設計における品質保証
   生産段階だけではなく、その源である企画、開発・設計での設計品質の作りこみに重点を置く方法である。
(2)工程管理による品質保証
  「品質を工程で作り込む」という言葉に代表されるように、工程管理を厳格に行うことにより製造品質を保証する方法である。
(3)検査による品質保証
  検査により不良品を取り除くことにより、後工程に不良品が流れないようにし、 最終的には市場での製品品質を保証する。

2.2.6 品質改善

品質改善とは、品質管理を実践していく中で明らかにされた、品質不良の問題を改善するための活動である。品質不良は、設計品質、製造品質、製品品質の不良という形で把握されるものであるが、原価(コスト)や納期の不良にも波及し、顧客や社会の要求を満たさなくなることにより、結局は自らの損失に繋がるものである。
 品質改善活動は継続的活動として実施することが重要であり、その意味では品質管理システム全体と同様に、PDCAサイクルとして運用されることになる。つまり、まず品質不良の問題を明らかにして、その改善の目標または望ましい状態を明確にする。そして、目標を達成するための計画を策定し、実施し、その結果を確認し、必要な是正措置をとることを、組織的かつ継続的に実施するということである。一般的には、技術部門のQCチームなどで知恵を出し合いながら進められることが多い。この過程で習得された知見は、他の組織へ水平展開することや他のプロジェクトで活用することにより、更なる波及効果を生むことも可能となる。
 品質改善を実施する場合、まずは品質不良の把握を行うことが最も重要である。一般的には、コストや納期への影響という形で現れる設計品質の不良、工程管理の問題に起因する製造品質の不良、最終的な消費者への直接影響を生じる製品品質の不良の3つの面から行うことになる。もちろん、品質不良が正しく把握された後に、それを低減する意識が生まれ、その責任が自覚されなければ品質改善の実効性は望めない。
 また、品質改善においては、正しい認識を共有することが重要であり、そのための手段として統計的方法の活用が重視されている。特に工業製品を生産するような場合、生産活動が繰り返し行われるため、統計的に処理できる有意なデータを比較的簡単に得ることができるからである。統計的方法が品質管理において最も有効に機能するのは、次のような場合である。
(1)一般に事実を把握するための手段としての統計的方法
(2)製造品質を管理し解析するための手段としての統計的方法
(3)設計品質を確保するための手段としての統計的方法

2.2.7 製造物責任と消費者保護

製造物責任(Product Liability ; PL)とは、製品の購入者が製品の欠陥により身体的・財産的な損失を受けた場合に、その製品の生産者など(製造業者、加工業者、輸入業者などが含まれる)に責任があり、その損失を補償する義務を負うというものである。米国において、消費者保護の立場から法律で定め定着した考え方であるが、日本でも1995年7月に製造物責任法(PL法)が施行され、製品安全に対して大きな関心が示されるようになってきた。
 その背景として、コンシューマリズムと経済のグローバル化か挙げられる。コンシューマリズムとは、売り手と買い手の関係において、買い手の権利と  勢力を高めるために、関心を持つ市民と政府によって組織化された運動のことである。
 従来は、消費者が製品の欠陥により損失を受けて訴訟を起こしても、生産者などに重大な過失があったことを証明しなければならなかった。 しかし、PL法により消費者が証明すべきことは、次の2つに限定されることとなった。
 (1)製品に欠陥があったこと
 (2)その欠陥によって損失を受けたこと。つまり、生産者などにより大きな責任と負担が求められることになっている。
 また、消費者保護を目的とした消費生活用製品安全法が制定されている。科学技術の発展に伴い、日常生活にも高性能の製品が使用されるようになっており、このような製品は複雑な構造となっているものが多い。そのため、一般消費者にとっては、製品の安全性を自分で判断することが難しい。消費生活用製品安全法はこのような実状から、消費者が日常使用する製品によって起こす怪我、火傷、死亡などの人身事故の発生を防ぎ、消費者の利益を保護することを目的として制定された法律である。
 この法律に基づき、日常生活に使用される製品の安全性確保を図るため、財団法人製品安全協会が1973年に設立されている。この協会では、SGマーク制度とPSマーク制度を運用している。
 SGマークは、Safety Goods (安全な製品)の略号で、製品安全協会が、構造・材質・使い方などからみて、生命又は身体に対して危害を与えるおそれのある製品について、 安全な製品として必要なことなどを決めた認定基準を定め、この基準に適合していると認められた製品にのみ表示されるマークである。なお、SGマークの貼付された製品は、万が一の製品の欠陥に備えて人身事故に対する対人賠償責任保険が付いている。 SGマークを表示するためには、事前に認定基準に適合しているかどうかの検査を受け、この検査に合格する必要がある。この検査の方法にはロット認定と工場等登録・型式確認の2つの方法がある。ロット認定とは、製造事業者、輸入事業者または販売事業者がロットごとに検査を受ける方法である。工場等登録・型式確認では、継続して認定基準に適合する認定対象製品を製造する能力があるとして登録を受けた製造事業者(工場等登録製造事業者)が、製造しようとする認定対象製品について型式確認を受ける。その後、社内検査に合格した製品は、その都度検査を受けることなく、SGマークを表示することができる制度である。
 PSマークのPSはProduct Safety、製品安全の略号である。消費生活用製品のうち、消費者の生命又は身体に対して特に危害を及ぼすおそれが多いと認められる製品を特定製品として政令で指定し、国で定めた技術上の基準に適合し、PSマークを表示していないものは、その販売または販売目的での陳列が禁止されている。

2.2.8 製品安全

製品安全は、製造物責任を果たすための品質保証における一つの目標と言える。つまり、幼児から高齢者までどんな人がどんな使い方をしても事故を起こさない製品を作ることが目標となるからである。安全な製品をつくるためには、消費者に損害を与えるリスクの回避・低減に努めるため、使用者がどのような行動をとるかといった人間工学的なアプローチも必要になる。また、開発・設計段階から安全性に配慮した製品作りを考慮しなければならない。また最近では、対消費者ばかりでなく、環境に対する安全性も重要な視点となってきている。
 生産側としては、製品安全を確保するために、開発・設計、生産、販売・サービスなどの各段階で、欠陥を発生させないための予防措置を講じることが必要である。
(1)開発・設計段階
  ① 消費者がどのような環境でどのような使い方をするかの検討・予測
  ② 製品安全にかかわる事故の予測(被害規模と発生確率)
  ③ 事故のメカニズムの解明と製品ライフサイクルでの安全性評価の実施
(2)生産段階
  ① 作業標準に基づく工程管理と検査
  ②量産試作品や量産品についての試験・評価の実施
   ③製品保管中の劣化防止のため、先入れ・先出しを原則化
(3)販売・サービス段階
   ① 警告表示(製品本体や取扱説明書など)
  ② 表現の検討(取扱説明書、カタログ、広告など)
 またその他に、欠陥が発生してしまった場合の危機管理対策として、訴訟対策準備やPL保険への加入などが考えられる。そのためには、検査結果を保管しておくことなど品質保証として重要なデータを整備しておくことが必要である。ただし、PL法や消費生活用製品安全法は消費者保護のための法律であることを念頭に置き、顧客重視の視点を持つことが重要である。
参考:日本技術士会

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