平成25年度技術士総合技術監理部門必須科目
問題
現在,我が国では,笹子トンネルの事故や,首都高速の保守の問題,森林保全,さらにはプラントの老朽化問題,業務内容の変化や新たな技術の出現に伴うメンテナンス方法の変化,情報システムのように技術革新の速い領域におけるメンテナンスの問題等,メンテナンスに関する多様な問題が顕在化している。この問題の解決のためには,メンテナンスの不備は他の業務との兼ね合いで発生する問題もあるとの認識に立ち,メンテナンスの問題を業務全体の最適化の視点で考える必要がある。
したがって,このメンテナンスの問題を総合的に検討し,最適な対応案を検討することは,総合技術監理部門の技術士に要求される重要な業務の1つである。また,事業においては,その課題をライフサイクルとして捉えることは必須であり,製品開発や特定のコンサルティングのようにその業務自体は限られたステージであっても,業務遂行においてその対象のライフサイクルを鑑みた視点が重要なことは言うまでもない。
あなたが対象とする事業又はプロジェクト(以下「事業等」と記す。)におけるメンテナンスの課題及びその対応について,総合技術監理の視点から(1),(2)の問いに答えよ。 なお,ここでいう総合技術監理の視点とは,「経済性管理」,「安全管理」,「人的資源管理」,「情報管理」,「社会環境管理」の5つの視点をいう。(問いごとに答案用紙を替えて,それぞれ指示された枚数以内にまとめること。)
(1)本解答におけるあなたの立場とあなたが取り上げる事業等の内容を簡潔に記述して, 以下に定めた要領に従ってメンテナンスの課題を整理せよ。
メンテナンスに関する課題としては,メンテナンス技術の他にも,製品・施設のライフサイクルにおけるメンテナンスの考え方,設計・製作技術,運用制度,人材,コスト等,多くの課題が存在するので,幅広い視点で検討すること。
なお,事業等の設定やメンテナンスの課題に関して,(2)の問いに解答することを前提として,以下に示す要領で答案用紙2枚以内にまとめよ。
1)あなたの立場は,他者に判断や責任を転嫁できないものとする。
2)対象とする事業等の記述に際しては,課題や対策の妥当性を判断できる内容を含む こと。
3)メンテナンスの課題は,事業等の
a.「計画・設計時」,b.「施工・製作時」,c.「運転・保守・維持管理時」
の3つのステージに分けて,以下の要領に従ってそれぞれ2つ記述すること。
この課題の記述に際しては,課題とその課題に対応することが難しい原因をステージごとに以下に示すとおり,1つ目の課題は課題1の視点で,2つ目の課題は課題2の視点で記述すること。なお,定められた視点で記した課題の原因が他の総合技術監理の視点をも含む場合は,その内容も記述すること。
a.「計画・設計時」
課題1:情報管理, 課題2:人的資源管理
b.「施工・製作時」
課題1:経済性管理,課題2:安全管理
c.「運転・保守・維持管理時」
課題1:経済性管理,課題2:社会環境管理
答案の記述のうち,課題に関する記述形式は,以下の例のとおりとする。
a. 「計画・設計時」の課題
① 課題1:○○○○○○(課題名) ・・・・・・・・・
② 課題2:□□□□□□(課題名)・・・・・・・・・
(2)対象事業において,(1)で記述した各ステージにおいて検討すべき課題への具体的 な対策について,うまくいかない原因を考慮に入れて,ステージごとに答案用紙を替えて、それぞれ1枚にまとめよ。
具体的な対策は,課題ごとに記述すること。 1つの課題に対して,複数の対策を記述してもよい。ここでいう具体的な対策とは,その対策効果の程度が明確に判断できるものをいう。 また,そのメンテナンスへの課題の対策が,直接の対象としている課題に関する管理事項以外の管理事項に及ぼす正・負の影響があれば,記述すること。
さらに,その対策が,以下に示す影響・効果があれば,記述すること。 ・対策が,同一事業等の他のステージに与える効果・影響
なお,複数のステージに影響が関係する内容に関しては,どちらかのステージで記述をすること。
・対策が,本解答の対象とする事業等を越えて,組織の活動や事業等の改善につながる効果・影響
答案の記述は,以下の例のとおりとする。
(2)-a「計画・設計時」
① ○○○○○○((1)のa.「計画・設計時」の課題1の課題名)への対策・・・・・・・・・
② □□□□□口への対策・・・・・・・・・
(2)-b.「施工・製作時」(答案用紙を替えて記述)
考察
平成25年度の問題の特徴を次に列記します。
○メンテナンスというキーワードが設定されている
○事業内容は自分で設定(例年は設問から選定する)
○設問が(1)(2)の2本立て(例年は3本立て)
○記述形式(タイトル付け)が指定されている
○3つのステージに分けて課題を設定
メンテナンスというキーワードは例年通りサプライズもどきの手法になります。この問題ではメンテナンスとはインフラの維持管理ではなく事業継続の変更管理になります。問題文よんでメンテナンスの意味がよく分からなければ、無視して読み飛せてかまいません。
ここ2~3年の総監記述式の問題は総監の5つの管理の視点がなくても、問題文に忠実にタイトルをつけ要求されている記述があれば6割の得点はできました。
今年度の問題は設問でタイトルの付け方が決められています。課題とその対策について5つの管理の視点で記述するのがポイントになります。このとき5つの管理を正しく理解していることをアピールできれば確実に6割の得点が取れます。
今年の問題は例年よりも書き方の自由度が広がっています。例えば5つの管理の理解が完璧なひともいれば、4つは完ぺきだが1つが少しあやしいひと、とりあえず5つの管理を正しく理解しているようだが全体的に少しあまいひとなど合格レベルではあるが色々な答案が出てきます。
色々な答案が出てくるので、合格レベルの答案でも点数の付け方が難しくなります。採点者は総監の場合20名以上いるので、点数の付け方の統一性も難しくなります。どのように採点されているのか、多くの受験生の記述答案と択一式の得点から分析してみました。
その結果25年度に限っては択一式で6割以下の得点の人は不合格になっています。例年ならば択一式で5割程度でも筆記試験に合格しているひともいましたが、今年はほとんどいませんでした。これは記述式で高得点が出ないような採点をしていることになります。
記述式が合格だと判断されれば得点が6割になり、それ以上は得点が出さないようにしていると考えられます。この採点方式だと試験官の点数の付け方も統一性が保てます。そして合格ラインの6割を取るには、5つの管理を正しく理解していることをアピールできればいいだけです。
今年に限って言えば択一式試験の得点を6割取れるか否かが生命線になりました。択一式試験の得点は6割以上とっても何の足しにもなりませんが、6割以下だと今年に限っては合格が難しいことになります。
模範解答①
(1)私の立場と取り上げる事業の内容
1)私の立場
私の立場はプロジェクトの全フェーズにおいて、主体的に管理を行うプロジェクトリーダーとする。
2)取り上げる事業の内容
取り上げる事業は、高さ300mの複合用途ビルを建設し、維持・運営するものとする。事業の目的は拡散して中心市街地が空洞化している地方都市において、都市機能を集約し、地域住民の利便性を向上させることである。本ビルは都市のシンボルとなるため、品質・安全・環境に配慮した先進性が求められる。
3)メンテナンスの課題
a・「計画・設計時」の課題
①課題1:情報管理
ライフサイクルにわたるメンテナンスを最適化するには、計画段階から建設・維持管理段階に発生する問題を抽出し、対策をたてておくことが重要である。
そのための情報を多方面から収集・分析することが必要である。
情報を効率的に収集・分析することが課題である。
②課題2:人的資源管理
計画段階からライフサイクルにわたる問題を抽出し、対策を策定するには、高度なスキルが必要である。
しかし、スキルの高い人材は組織内に多数いないため、スキルの高い人材の確保が課題である。
b・「施行・製作時」の課題
①課題1:経済性管理
維持段階のメンテナンスを軽減させるため、構造物の耐震性を強化した場合、鉄筋の組み立ての作業が複雑になる。その影響で作業手順が増える。工程に対し、作業量がふえるため、輻輳作業が発生し、品質が低下する可能性があることが課題である。
②課題2:安全管理
輻輳作業が発生した場合、クレーン等大型重機の転倒といった大規模災害が発生する可能性がある。
重大災害の防止が課題である。
c・「運転・保守・維持管理時」の課題
①課題1:経済性管理
維持管理段階に、東日本大震災と同規模の地震が発生し、構造物の耐震基準が変更されることが考えられる。維持段階において、強化された耐震基準に対応するには、コストがかかるため、本ビルの維持・運営が困難になる。
②課題2:社会環境管理
世界的な環境保護の高まりから、維持管理段階に温室効果ガスの排出基準が強化されることが考えられる。
強化された環境規制に対応したメンテナンスをしなければ、所定の環境性能を確保できないため、企業の社会的信用が失墜する。強化された環境規制への対応が課題である。
(2)検討すべき課題への具体的な対策
(2)-a・「計画・設計時」
①情報管理への対策
情報管理の視点からは、情報の活用による意思決定が重要である。
・情報を活用するため、情報管理部署を創設する。
・広範囲から情報を収集し、意思決定するため、他分野技術者と連携する。
[直接対象以外の管理に及ぼす正・負の影響]
情報の活用により、ライフサイクルにわたる最適な計画を立案することでライフサイクルコストを減少させることができる。(経済性管理への正の影響)
②人的資源管理への対策
人的資源管理の視点からは、人の活用が重要である。
・OJT、OFF-JT、講習会への参加といった人的資源開発を行う。
[直接対象以外の管理に及ぼす正・負の影響]
・情報を活用するには、スキルが必要であるため、情報管理と人的資源管理はトレードオフとなっている。
人の活用により、スキルが向上するため、情報を活用することができる。(情報管理への正の影響)
・人的資源開発により、コストが増加する。(経済性管理への負の影響)
[同一事業の他のステージに与える影響]
・他のステージでスキルアップした人材を活用可能。
(2)-b・「施行・製作時」
①経済性管理への対策
経済性管理の視点からは、QCDのバランスが重要。
・バックワードスケジューリングにより、ボトルネックを抽出し、リソースを重点的に投入する。
・輻輳作業間の調整を確実にするため、各リーダー参加による調整会議を週に1回開催する。併せてリーダーへの教育訓練を実施する。
[同一事業の他のステージに与える影響]
上記対策により、スキルが向上することで、本ステージにおいてQCDのバランスを確保できるとともに、維持管理段階においてスキルの高い人材を活用できる。
②安全管理への対策
安全管理の視点からは、安全の確保が重要である。
労働災害を防止するため、下記の対策を実施する。
・作業手順書の各作業員への周知・徹底。
・各リーダーにより、チェックリストを活用し、不安全行動をチェックする。
・OJTにより、各作業員へ教育を行う。
[同一事業の他のステージに与える影響]
上記対策により、スキルが向上する(人的資源管理)。
その結果、本ステージで安全を確保できるとともに、維持段階の保全工事において、スキルの高い人材を活用することができる。
(2)-C・「運転・保守・維持管理時」
①経済性管理の対策
経済性管理の視点から重要であるQCDのバランスを確保するため、下記の対策を実施する。
・計画段階から、取替え・更新が容易な構造を採用する。
[同一事業の他のステージに与える影響]
上記対策を行うことで、計画段階におけるコストが増加する。しかし、ライフサイクルにわたるメンテナンス費用を減少させるには、計画時点からの対応が重要であると考える。
②社会環境管理への対策
社会環境管理の視点からは環境への負荷低減が重要。
維持管理段階での環境負荷を低減するため、壁面緑化・自然換気設備といった環境負荷低減技術を積極的に採用する。
上記対策を行うには、コストとの調整が必要となる。
(経済性管理とのトレードオフ)企業の社会的責任を考慮して、可能な限り社会環境管理にリソースを投入することが重要と考える。
[本事業の対象を超えて組織活動改善につながる効果]
上記対策により環境負荷を低減し、更にその情報を積極的に広報することで、組織の社会的信用を向上させることができると考える。―以上―
模範解答②
1)わたしの立場
計画から維持管理まで総括的に意志決定を行う立場
2)事業の内容
主要地方道における建設から維持管理に至る一連の運営
3)課題
a)計画・設計時
課題1:情報管理
「メンテナンスについての情報不足」
計画・設計者がメンテナンスについて情報不足のため、計画時にメンテナンスを見据えた設計ができない。
課題2:人的資源管理
「メンテナンスを知る技術者の育成」
将来を見据えたメンテナンスを知る設計技術者が少ない。
b)施工・制作時
課題1:経済性管理
「メンテナンスを優先した施工」
経済性を重視するあまり、メンテナンスに配慮する施工ができない。
メンテナンスに配慮した施工を使用とすると、手間や費用、工期がかかり、経済性を圧迫することもある。
課題2:安全管理
「メンテナンスを重視した施工」
安全性を重視するあまり、メンテナンスに配慮した施工ができない。
メンテナンスを重視した施工をしようとすると、慣れない施工やより危険を伴う施工をすることもある。
c)運転・保守・維持管理時
課題1:経済性管理
「計画的な維持管理」
維持管理は事後保全のため、予算的な計画がしづらい。また、制度上、次年度へのプールが容易でない。
課題2:社会環境管理
「社会的な環境負荷増大」
維持管理段階で工事を行おうとすると、通行止めの支障のほか、騒音や振動など、社会環境負荷が増大する。それらを社会が受容できないことがある。
(2)
(2)― a 計画・設計時
課題1:情報管理「メンテナンスについての情報不足」への対策
(計画・設計者がメンテナンスについて情報不足のため、計画時にメンテナンスを見据えた設計ができない。)
原 因:設計思想がバラバラである。メンテナンスの程度が現地状況によって異なる。過去の経緯が分からない。
対 策:統一的な基準を整備、データベースの構築により現地状況に即した対策の把握。WEB利用、モバイル技術の活用。費用と労力がトレードオフとなるため最適を見据える必要有り。課題2:人的資源管理「メンテナンスを知る技術者の育成」への対策
(将来を見据えたメンテナンスを知る設計技術者が少ない。)
原 因:知の断絶(過去の経緯が分からない)、使い勝手がわからない。
対 策:OJT、OFF-JT 知の移転 長期間に渡り関与しよく知る人材を育成。経済性管理とのトレードオフが発生。
(2)― b)施工・制作時
課題1:経済性管理「メンテナンスを優先した施工」への対策
(経済性を重視するあまり、メンテナンスに配慮する施工ができない。
メンテナンスに配慮した施工を使用とすると、手間や費用、工期がかかり、経済性を圧迫することもある。)
原 因:メンテナンスに配慮した施工に対するインセンティブが働いていない。
対 策:インセンティブ付与。メンテナンスに関する発注金額に上乗せ、評価制度や表彰制度の導入。経済性管理のトレードオフが発生。インセンティブを過剰に付与すると、そのために安全性が低下することもあるため注意が必要。
課題2:安全管理「メンテナンスを重視した施工」への対策
(安全性を重視するあまり、メンテナンスに配慮した施工ができない。
メンテナンスを重視した施工をしようとすると、慣れない施工やより危険を伴う施工をすることもある。)
原 因:慣れない施工を行っており、危険性が増大している。
対 策:点検・チェックリストの作成による安全管理。新規入場者講習やKY活動による人的資源管理。細かすぎると経済性管理のトレードオフ、情報管理とのトレードオフが発生。
(2)― c)運転・保守・維持管理時
課題1:経済性管理「計画的な維持管理」への対策
(維持管理は事後保全のため、予算的な計画がしづらい。また、制度上、次年度へのプールが容易でない。)
原 因:事後保全となりメンテナンス時期について予想できない。
対 策:アセットマネジメントなどの予防保全、予算の柔軟性、複数年で活用できる予算の創設。制度設計の際に経済性管理のトレードオフが発生。
課題2:社会環境管理「社会的な環境負荷増大」への対策
(維持管理段階で工事を行おうとすると、通行止めの支障のほか、騒音や振動など、社会環境負荷が増大する。それらを社会が受容できないことがある。)
原 因:道路について自分たちのものという意識がなく、工事などに対して社会的な受容度が低下している。
対 策:非公式組織の人間関係の考え方を活用した住民理解の醸成、アダプトロードなど住民が主体の維持管理。それらが地域の活性化につながることもある。秘匿情報の情報漏えいなど情報管理とのトレードオフになることもある。以上
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