6.5 ライフサイクル・アセスメント
企業などの組織における環境評価の方法には様々なものがある。評価方法は、主に次の3種類に分けることができる。
(1)記述による評価
企業の環境に関する活動が貨幣や物量値で数値化できない場合、記述による評価が行われることになる。具体的には、法規制の遵守状況、技術革新への取り組み、環境に関するボランティアへの参加、環境マネジメントプログラムの策定、リサイクルへの取り組み、IS014001の取得、環境に関する表彰や訴訟などである。
(2)物量値による評価
物量値による評価では、企業の環境に関する活動を、エネルギーや二酸化炭素の排出量などの物量値で評価する。これらの物量値を総合的に評価する手法には、エコバランスとライフサイクル・アセスメントがある。
(3)貨幣による評価
6.5.1 ライフサイクル・アセスメントの目的と調査範囲
ライフサイクル・アセスメント(Life Cycle Assessment;LCA)を始める際、最初にすべきことは目的と調査範囲の設定である。すなわち実施目的を明確に設定し、記述することである。通常、LCAにおける目的設定では、①LCA実施の背景や理由、②報告対象者、③LCA結果の用途、などの項目を記述する。
LCA結果の用途の例として、次のような事項が挙げられる。
(1)製品仕様と製造方法について、環境負荷低減という面から改善点を洗い出す。
(2)流通・処理・リサイクルなどについてシステムを検討する。
(3)環境目標や基準に対する達成度を把握する。
(4)より環境負荷を低減する代替製品を選定する。
目的を設定した後には、LCAの目的に合った調査範囲を設定する必要がある。調査範囲を設定することは、LCA調査の詳細さ・精度・信頼性などについて、レベルを決めることに繋がる。調査範囲の設定は以下の視点に基づき実施することが一般的である。
(1)対象とする製品
対象とする製品を決定し、製品が持つ機能について明示する。特に、同じような機能を持つ製品との比較を行う際には、前提条件として対象製品の詳細設定が必要になる。
(2)基準とする単位
インベントリ分析を行う際に基準とする単位を決定する。製品1kgでも製品一個あたりでも可能である。製品一個あたりを例にとると、その製品一個を得るために必要な量として、環境負荷データを作成することになる。
(3)対象とする環境負荷
対象とする環境負荷を決定する。最も多い対象はCO2であるが、あらゆる環境負荷物質や消費資源・エネルギーを対象とすることが可能である。
調査範囲の設定と同時に、LCAで用いる手法を決定する必要がある。現在、LCAの手法としては、産業連関法と積み上げ法という二つの方法が広く用いられている。また、産業連関法と積み上げ法を組み合わせた、ハイブリッド法も考案されている。
産業連関法の基礎となるものは、産業連関表である。産業連関表は、経済システムにおける財の取引を、400~500の財分類、または産業部門分類について、行列形式に整理したものである。産業連関表により、必要となる部品や材料の関連やその環境負荷を把握することができるため、最終的には、対象とする製品の環境負荷を計算することが可能となる。
しかし、産業連関表に取り入れられている項目はそれほど多くないため、個々の製品を分析するには不十分である場合がある。また、新技術やリサイクルのように、産業連関表に取り入れられていないものは分析できない。
一方で積み上げ法とは、ある財の生産の各段階で与えた環境負荷を積み上げることによって、生産にかかった環境負荷の全体を把握するものである。ここでは、各段階で直接的に要した環境負荷とともに、サブシステムにおける環境負荷も考慮する必要がある。
ISOの規格は、基本的に積み上げ法によっていると言える。
積み上げ法を用いて厳密にLCAを実施しようとするならば、より詳細にこのシステムの連鎖について調べなければならない。これらの連鎖を詳細に調べれば調べるほど、複雑性が急速に高まり必要なデータを把握することが困難になるため、把握できる環境負荷の種類も限られたものとなる。しかし段階やサブシステムの連鎖を単純なものに限定すると、多様な環境負荷をとらえられるが、発生させている現実の環境負荷を捨象してしまう可能性が出てくる。これは、LCAにおける簡素化の必要性と結果の正当性との間に発生したトレードオフの問題であると言える。このため、LCA実施の目的を達成する範囲で簡素化し、現実的に調査可能な範囲設定を行うことが重要となる。
6.5.2 ライフサイクル・インペントリ分析
LCAの第二の要素であるライフサイクル・インペントリ分析(Life Cycle inventory Analysis ; LCI)は、ISOが基礎にしている積み上げ法によるLCAにおいて、一つの重要な柱を構成している。 LCIでは、各段階やサブシステムにおける環境負荷を定量的に把握・整理して表示する。
LCIの目的は、ある製品が製造から消費、廃棄に至る各段階において発生する環境負荷の把握である。しかし、製造工程が副生産物を生み出す場合や、一つの工程から複数の生産物が生産される(結合生産)場合には、環境負荷がどの製品に帰属するのか単純には分析できない。その他に、リサイクル工程が関係している場合も、帰属の分析は単純に行えない。両者とも、環境負荷の対象とする製品への配分方法に関する問題である。
配分に関しては多くの意見があるが、本質的に正しい配分手法はないのが実態である。
前者の副生産物に関する環境負荷の理論的な配分方法として、①重量比で環境負荷を配分する、②熱量比で配分する、③経済的価値の比率で配分することが考えられる。これらの方法は、現実の工程と無関係に計算されてしまうという弱点もある。この点を解決するために、主生産物と副生産物の工程について十分な理解を持っている技術者から、該当工程がそれぞれの生産物に対してどの程度の割合で貢献しているかについて、直接聞き出す方法も行われている。結合生産については、一般に上記のいずれの方法で処理しても、恣意性を完全に排除することはできない。そのため、出力される複数製品を全て評価対象として、システム境界内に取り込むことにより、配分を回避することもある。
後者のリサイクル工程が関係している場合では、リサイクル工程で発生する環境負荷の配分が問題となる。つまり、リサイクル工程にリサイクル資源を供給する側の負荷とする捉え方と、リサイクル工程から生産された再生資源を利用する側の負荷とする捉え方の双方が存在する。一方、リサイクルは大きく2種類に分けることができる。一つは、LCIの対象とする製品に関わる廃棄物が、同じ製品の生産に用いられるクローズドループ・リサイクルであり、もう一つは、廃棄物が違う製品の生産に用いられる形でリサイクルされるオープンループ・リサイクルである。前者の場合は、帰属させるべき製品が一つしかないために本質的な配分問題は発生しない。
オープンループにおける負荷配分については、①2つの製品に50:50で配分する、②一次製品に全て配分する、③二次製品に全て配分する、④経済的価値に応じて配分する、という処理方法が提案されている。
6.5.3 影響評価と結果の解釈
LCAにおける影響評価では、インベントリ分析で得られた結果を、自然環境、人間の健康、資源などの環境影響項目と関連付けて、製品の環境影響度に関する評価を実施する。この影響評価の段階では、分類化、特性化、重み付けという三つの要素が区別されている。
(1)分類化
インベントリ分析で得た環境負荷データを、環境影響カテゴリーに振り分ける。
カテゴリーには、地球温暖化、オゾン層の破壊、砂漠化、酸性雨、土壌汚染、騒音、水質汚濁、振動など様々なものがある。
(2)特性化
カテゴリー内の、環境負荷データの数値化及び合計を行う。カテゴリーに当てはめた環境負荷データを、各カテゴリーに共通する単位に数値化することで、カテゴリー内での環境負荷データの数値化及び合計を行う。
(3)重み付け
それぞれのカテゴリー毎に数値化した影響、及びそのカテゴリー毎の影響合計に基づいて総合評価を行う。
特性化のステップでは、ある一つの環境影響項目内に含まれるいくつかの環境負荷項目が、各々その環境影響に対して相対的にどの程度の寄与を持っているか調べるために、正規化というステップを踏む場合がある。正規化では、ある共通の基準値を設定して、それを基準にして各環境負荷項目の寄与度を算出することになる。
重み付けでは、次の3つの方法が用いられる。
(1)専門家が構成するパネルで決定する方法
専門家の意見を統合して、重み付けを決定する方法である。本方法では、重みは構成者の主観に基づくこととなる。アンケートによって環境カテゴリーの重要度を決定する方法も、パネル法の一つと言える。
(2)目標値と実際の数値との比較
カテゴリー毎に目標値を定め、実際に得られた数値と比較する方法である。例えば、換算後の排出量目標を10kgと定めておき、それより実際の排出量が多いか少ないかで評価する方法が用いられる。各カテゴリーで得られた数値にポイントを付与すれば、その合計で全カテゴリーの総環境影響を評価することが可能である。
(3)経済価値への換算
Dose-Responseモデルといった自然科学的手法の他に、支払意志額など人が意識するコストを算出する経済学的な手法が用いられることもある。また、コンジョイント分析が用いられることもある。
LCAにおける影響評価の次の段階では、結果の解釈を実施する。結果の解釈では、大きく分けて以下の2つの実施内容がある。
(1)インベントリ分析の結果や影響評価の結果から得られる結論をまとめる。
(2)得られた結論に基づき、LCAの実施目的に応じた提言について検討する。
結論をまとめるステップでは、得られたデータを整理し、大きな環境負荷を示す部分を見つけることが主な目的となる。また、得られたデータの整合性について、感度分析や誤差分析などの分析法により確認を行うことも重要である。
得られた結論から提言を行う際の例として、新製品の開発における環境影響の把握を目的としてLCAを実施した場合を考える。この場合、製品設計の見直しをすべき設計プロセスの指摘などが提言の例として挙げられる。この提言は、次項で示す環境適合設計のための基礎資料として利用される。
6.5.4 環境適合設計
環境適合設計(Design for Environment; DfEもしくはeco design)とは、環境負荷の少ない製品の開発・設計に関わる活動を意味する。日本ではリサイクル関連法令の制定など、拡大生産者責任の方向にあるため、メーカーなどの生産者は前もって環境適合設計に基づいた製品生産を行うことにより、負担を軽減することが可能となる。また、製品に関するLCAで得られた環境側面データをベースとして、コストや技術的側面のデータを加えることで、組織の生産活動における環境適合設計のプロセスにフィードバックすることが有効である。
UNEP(国連環境設計)の環境適合設計に関するマニュアル「Eco Design」では、環境に適合した製品を設計開発する際の組織行動について、以下のように段階的に示している。
(1)エコデザインプロジェクトの組織化
(2)製品の選定
(3)エコデザイン戦略の構築
(4)製品アイデアの作成と選定
(5)コンセプトの詳細化
(6)広報宣伝と製造
(7)フォローアップ活動
環境適合設計を実施する際には、その結果として提案された製品の環境適合性を評価する手法が必要となる。前出のUNEPのマニュアルでは、チェックリストが用意されており、その大項目は以下のとおりである。
(0)(新製品の概念設計)
(1)低環境負荷材料の選択
(2)材料使用量の削減
(3)製造技術の最適化
(4)流通システムの最適化
(5)使用時の環境負荷の削減
(6)製品寿命の最適化
(7)製品使用後(廃棄システム)の最適化
参考:日本技術士会
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