企業などの組織は、生産の4Mに代表される経営資源を戦略的に活用・消費して、製品やサービスを生産・販売している。このような組織活動における自らの経営資源の消費量を、原価(コスト)と言う。市場における価格的な差別化を図るためには、この原価の低減が重要である。原価管理(コスト管理)とは、原価低減という目標を通して、経営活動や管理活動の効率化と経営業績の向上を図るものである。 原価管理では、議論の共通の尺度として貨幣金額を用い、組織活動で消費される人、物、金、技術、情報(データ)など様々な経営資源を貨幣金額で表現する。原価管理では、事業計画、工程管理、設備管理などで発生する経費を貨幣金額で表現するため、組織内の複数の計画や管理方法などについての比較や評価を行うことが可能となる。また同時に、社外の取引相手や競合相手との繋がりのなかで、自他及びその関係を比較・評価するための手段としても有効である
2.4.1 原価計算と標準原価
原価計算とは、企業などにおける組織活動で消費される経営資源の消費額を計算することである。原価計算の結果は、製品価格の計算、財務諸表の作成、管理会計の計算、予算の編成、事業計画の策定などの組織活動の報告や経営判断に活用することになる。
原価計算は、大別して以下の3つのステップに分類できる。
(1)費目別計算
原材料費、労務費、経費などの形態別の原価要素に分類すること
(2)部門別計算
費目別計算により把握された原価要素を、組立部門、管理部門などの組織上の区分毎に集計すること(3)製品別計算
原価要素を製品単位に集計し、製造にかかる製品原価を算定すること
具体的に原価計算を実施する際には、消費量と単価の積により原価を計算し、各ステップでの項目毎に集計を行うことが基本となる。そのための方法として、実績を基に計算する方法と将来の目標または予定に対して計算する方法がある。
(1)実際原価計算
実績ベースで計算を行うため、財務諸表のような過去の企業活動の報告に関する資料の作成に適している。 しかし、結果の情報提供にすぎないため、消極的な原価計算であるともいえ、原価管理の目的である原価低減のためには、組織内に対して情報を提供して原価低減を別途推進する必要がある。
(2)予定原価計算
将来の目標または予定に対して積極的に原価計算を行う方法である。この場合、予定消費量及び予定単価を基に予定原価を設定し、予定原価を達成するための統制を行うことになる。予定原価は、過去の実績や組織の状況を考慮し、達成可能で合理的なレベルを設定する必要がある。そのために、組織活動の分析に基づく合理的な予定原価として、標準原価を設定することになる。組織活動では、出てきた結果を受け入れるだけでなく、具体的な目標を設定して結果を管理していくことが重要であり、標準原価はそのために利用される。
標準原価は、目標のレベルによって分類される。例えば理想標準、正常標準、現実的標準が挙げられるが、標準原価には実際に達成可能で(現実的標準に対応)、かつ具体的な原価低減が期待できる(理想標準に対応)範囲内であることが求められる。そのため、組織の実情や原価管理の目標を考慮して適切なレベルの設定を行うことが重要である。
このようにして設定された標準原価を基に生産活動は行われ、実際に消費した原価発生額が結果として把握される。そして、目標として設定した標準原価と、実績値としての原価発生額が比較され、大きな乖離がある場合には乖離に対する分析が行われ、将来の生産活動に反映していくこととなる。
2.4.3 原価企画
企業などにおける組織活動は、事業企画に始まる一連の活動から構成されており、原価はこれらの活動を通して消費された経営資源の合計として計算される。つまり、企画、開発・設計、生産準備、生産、流通、販売・サービス、廃棄・リサイクルなどといった段階を経る実際の生産活動と同様に、原価計算においても上流側に位置する企画、開発・設計段階が全体に与える影響が大きい。企画、開発・設計によって、生産のための各種仕様や部品の種類、流通における輸送手段などが決まるためである。例えば、製品の原価が、設計図が書かれた時点で通常約70~80%、製品によっては100%近くが決まってしまう場合もある。
このため、企画、開発・設計段階から原価管理を行うことが原価低減のためには重要であり、そのための原価企画という概念が重要視されるようになった。ここで言う原価企画とは、事業の企画・設計段階を中心に、一連の生産活動を通して総合的な原価低減を行うための活動である。効果的な原価企画を行うためには、一連の生産活動において、原価という視点から作業の最適化を図る必要がある。以下に、製品製造を行う際の原価企画のプロセス例を示す。
(1)製品企画
(2)目標原価の設定
(3)目標原価の構造毎の展開
(4)目標原価の部品毎の展開
(5)設計上の原価低減検討
(6)製造への移行
(7)原価企画活動の改善
また、原価企画を推進していく中では、価値工学と呼ばれる方法論が適用される。これは、最低の総コストで、必要な機能を確実に達成するため、組織的に、製品またはサービスの機能の研究を行う方法のことである。製品やサービスの価値とは、機能とライフサイクルにおけるコストの比率と見ることができるため、その比率を企画、開発・設計段階から高めていこうとする考え方である。
原価企画は、原価を発生させる要因を製品の企画、開発・設計段階から徹底的に検討し、目標原価を達成することを目指すものである。日本の輸出企業が強い国際競争力を身に付ける過程では、この方法が大きな役割を果たしてきたと言える
2.4.4 経済性工学と価値工学
経済性工学(Engineering Economy ;EE)とは、将来に向けた意思決定を行う際に、経済的に有利な案を選択するための考え方と手法の体系とされる。ここで経済的であるかどうかは、収益と費用に関して、キャッシュフローに着目して比較されることになる。
実際は、意思決定上の選択を迫られた際の単一案の採否だけではなく、複数案を組み合わせた選択、不確実な状況での意思決定に関する考え方などを含むものである。設備計画段階で計画された複数の設備投資案からどのように選択すべきか、工事計画において複数提案された工法からどのように選択すべきかなど、経済性工学の概念を適用できる範囲は広い。
以下では、投資案を資金回収期間で評価する例により、経済性工学の考え方を示していく。投資の計算では、収益と費用の発生時期が通常異なるため、金利の影響を考慮する必要がある。現在の資金額(現価)P、年利i,n年後の元利合計(終価)S、n年間の毎期末の均等資金額(年価)Mについては、次の関係がある。
このMを求める式は、現在の資金額Pをn年間で回収するために必要な毎年末の均等資金額Mを求めるための式と解釈できる。
このとき、毎年一定額Rの収益が見込まれ、初期投資額がPであるとすれば、単純にはP÷R年で資金を回収する期間を計算できることになるが、年利率iを考慮することにより変わってくる。上述の式でMをRと置き換え、iを既知とすることにより、nを求めることができる。このnが資金回収期間であり、この値が小さい、つまり資金回収期間が短いものが優れた投資案であると判断することができる。
価値工学(Value Engineering ; VE)における価値とは、顧客や社会から要求されている「機能」と製品やサービスのライフサイクルでのコストとの比率と言い換えることができる。価値工学が要求する活動項目を、(社)バリューエンジュアリング協会の定義に則して以下に記述する。
(1)最低の総コスト
製品やサービスの企画段階から廃棄・リサイクル段階までのライフサイクルでのコストを最低にすることである。
(2)必要な機能を確実に達成
顧客や社会が要求する機能を実現するため、機能の把握と達成手段を検討することが要求される。
(3)製品またはサービス
この言葉に代表させているが、ハードやソフト、人が関与する販売や流通などを含むあらゆる活動段階に適用される。
(4)機能的研究
価値工学では、「機能」に着目して研究し、最適手段を講じることを求めている。
(5)組織的活動
対象に関与する全ての専門分野の結集(チームデザイン)が必要となる。
価値工学は、1947年米国GE社における価値分析(Value Analysis ; VA)開発に端を発する。これは、資材調達品における「価値」を改善するための分析手法であったが、その後の研究により、様々な組織活動段階でも適用できるVEとして発展してきている。
2.4.5 財務会計と財務諸表
企業などの組織における生産活動の各段階においては、原価計算により常に原価を把握する必要があるが、それと同時に、その集計結果を組織内外で活用しやすい形態に加工する必要がある。その一つが、一般に財務会計と呼ばれるものであり、株主、金融機関、取引先、税務署など組織の外部者に対して報告するためのものである。
一方、主として組織内部の経営層が経営判断を行うための資料として作成されるものが、管理会計である。財務会計は、組織の外部者に対して報告することが目的であるため、財務諸表(決算書)が一定の形式で作成される。財務諸表とは、通常次の2つの計算書類を指している。
一つは、一定時点(通常は決算日)における資産、負債、資本の財政状態を表す貸借対照表(Balance Sheet;B/S)である。借方(資産)と貸方(負債十資本)を一致させるように作成されるものであり、組織の健全性を分析する基礎資料となる。極端な例であるが、負債が資産より多くなった状態(借方と貸方は一致するため、資本がマイナス)が債務超過と呼ばれる。
もう一つは、一定期間(通常は1年の会計期間)における収益、費用、利益の内容を経営成績として明らかにする損益計算書(Profit and Loss statement ; P/L)である。
これらの財務諸表は、企業会計原則に基づいて作成されるべきものであり、以下にそのうちの一般原則を記述する。
(1)真実性の原則
財務会計においては、人為的判断を完全に排除することはできないが、財務会計の理念として、真実性が要請される。
(2)正規の簿記の原則
組織活動を秩序正しく、細大漏らさず、確実な帳簿記録に基づいて財務諸表を作成することを要請している。
(3)資本取引損益取引区分の原則
投下した資本を回収した剰余金としての利益と資本そのものとは異なるものであり、この両者を区分することが要請される。
(4)明瞭性の原則
財務諸表により結果報告するだけでなく、その導出において採用した処理の原則、手続、方法をも公開すべきとの要請である。
(5)継続性の原則
一度採用した処理の原則、手続、方法を継続的に適用すべきとする要請である。
財務諸表の期間比較の容易性、恣意的な利益操作の排除が目的である。
(6)保守主義の原則
「予想の利益は計上せず、予想の損失は計上すべき」という伝統的な会計上の思想に基づいた要請である。ただし、恣意的な利益の過小計上を推奨しているものではない。
(7)単一性の原則
財務諸表の形式には多様性を認めつつも、その実質的内容についての単一性を要請している。
(8)重要性の原則
重要な処理・表示は厳密な報告を必要とし、重要でない処理・表示は簡便な方法による報告が容認されるという原則を示している。
財務諸表は、一定時点もしくは一定期間に対して作成されるものであるため、全ての区分が自動的に定まるものではなく、何らかの基準を適用して処理を定めていくものである。例えば、完成引渡しまでに1年を超えるような長期請負工事では、収益を工事の進行度に応じて複数の会計期間に分割する工事進行基準と、引渡し日に収益を計上する工事完成基準が存在している。
原価計算により把握された結果は、主として売上原価、販売費及び一般管理費として集計されることになる。また、設備管理の対象となる機械、装置や建物・構築物などは有形固定資産として計上されている。しかし、有形固定資産は、時間の経過による摩耗損耗を原因とする物質的原価、陳腐化・不適応化を原因とする 機能的原価が生じる。 従って、その分だけの有形固定資産を減価させるための原価償却が行われる。原価償却費は、費用でありながらも支出を伴わないため、その分が内部に留保される効果が生じる。一般に、減価償却の方法については、毎期均等に償却していく定額法と残高の一定率を償却していく定率法が存在している。
近年では、キャッシュフロー(ここでキャッシュとは現金及び現金同等物のこと)に着目した経営もしくは管理の方法が注目を集めている。これは、組織活動を営業活動、投資活動、財務活動などのように区分し、それぞれでの現金及び現金同等物の増減を計算していくものである。
キャッシュフロー計算書における最終的な数字は現金及び現金同等物の期末残高ということになり、これは賃借対照表における流動資産(現金・預金)に相当することが通常である。
参考:日本技術士会
技術士試験対策は横浜すばる技術士事務所
合格する論文の黄金法則
総監受験対策資料
必須科目添削講座
選択科目添削講座
総監論文添削講座