情報管理(その1)

ヤマハ

 企業などの組織では、知的財産を含む情報を経営資源の一つとして戦略的に活用して、組織活動を行わなければならない。特に経営におけるスピードが重視されるようになった昨今では、適切な意思決定が行えるようにするために、必要な情報がタイムリーに収集・処理され、意思決定者に届けられる仕組みを作っておく必要がある。また、緊急時の情報伝達は特に大規模な組織や大型プロジェクトにおいては重要であり、危機管理の視点からその情報連絡体制や広報活動の体制を整備する必要がある。
 最近では情報管理を行うための有効な手段として、コンピュータを利用した情報システムが多くの組織で導入されている。コンピュータを利用した情報管理には、情報伝達の正確性・迅速性といった利点がある反面、システム障害やコンピュータウィルスの問題など、情報セキュリティに関する負の影響が組織全体に短時間で広まる可能性を持っている。
 このような現状を踏まえると、総合技術監理を行う技術者に要求される情報管理技術は、平常時及び緊急時における情報の収集・分析・蓄積・伝達を的確に行うための体制を構築するための技術、知的財産など情報そのものを管理するための基礎知識、そして近年重要性が増しているネットワーク技術と情報セキュリティに関する理解能力である。情報・通信分野は技術進歩が早い。そのため常に最新の技術動向に注意を向ける姿勢が重要である。

目次

4.1 通常業務における情報管理

企業などの組織における通常業務活動では、様々な情報を処理しながら日々業務を行っている。ひとロに情報といっても様々なものがあり、職能別、問題別、形態別などに分類することができる。例えば形態別の分類を考えると、従来は紙面や口頭による情報がほとんどであったが、現在では電子情報の重要性が増している状況にある。

4.1.1 組織における情報の分類

組織において、日常的業務のために利用する情報には、様々なものが存在している。

組織を中心に考えた場合、内部で生み出される情報もあれば、外部の情報(業務上の入手情報、新聞・雑誌・テレビの報道情報など)を加工したものも当然存在している。これらの情報を分類する方法は、組織の業務内容によっても様々であるが、例えば次のように分類することができる。
 (1)職能別分類
 (2)問題別分類
   ① 業務レベル
   ② 管理レベル
   ③ 戦略レベル
 (3)形態別分類
   ① 紙面情報
   ② 口頭情報
   ③ 電子情報

4.1.4 ナレッジ・マネジメント

ナレッジ・マネジメントとは、ビジネスの目的を達成するために、ナレッジ(知と解され、データ、情報、知識、知恵などを含む)を共有、活用できるようにする管理システム手法である。従来のシステムでは、情報やデータを管理対象とすることが多く、熟練者のナレッジを活用するエキスパート・システムにおいても、あらかじめ設定された問題を解決するための問題解決型のシステムであった。ナレッジ・マネジメントは、これらをさらに発展させ、ナレッジを基に個人が自分で問題を発見して答えを創り出すことを目的とする、創造性を培うシステムである。つまり、知の創造を目的とする管理手法である。
 実際にナレッジ・マネジメントにより管理されるものは、有益と考えられる情報全てが対象となる。電子的に簡単に蓄積できるものは良いが、そうでないものも何らかの工夫により対象化か図られる。そして、これらはナレッジ・マネジメントのプロセスを通して、収集、蓄積、精製、分配、利用され、知の創造が支援される。しかし、ナレッジは他者に理解されて始めて有効に活用されるものであり、知の移転を行うためには、他人が分かる形式にする必要がある。知を大別すると、形式知と暗黙知に分類される。形式知は言語や文章で簡単に4.1.4り簡単には表現できない知である。ナレッジ・マネジメントにおいては、知の移転は重要な要素の1つであり、暗黙知をいかにして形式知に変換するか、もしくは形式知をいかにして暗黙知に変換するかが重要な鍵となる。それが困難な場合には、暗黙知の所有者を明らかにしておく必要がある。
 ナレッジ・マネジメントを構築し有効に機能させるためには、一般的に次のような観点が重要であるとされる。
(1)組織の長が深く関与する。
(2)組織内に重要性を認識させる。
(3)専門の担当者や推進チームを置く。
(4)情報システム運用の具体的な手順を定める。
(5)積極的参加を促す仕組みを工夫する(人事考課管理との連動など)。
(6)情報システムのユーザビリティを向上させる。
形式知
・客観的に捉えることが可能
・文章や図表での表現が容易
・マニュアル、レポート、手順書など
暗黙知
・主観的で経験に基づく
・言語化や形式化が難しい
・力の入れ具合、営業ノウハウなど
個人知
・個人に帰属している知識や知恵
・共有化が困難
・ひらめき、経験、人脈など
組織知
・組織内部で広く共有されたナレッジ
・組織としての取り組みに貢献する
・マニュアルや事例集など
埋設知
・明確な形式知ではないものの、製品や業務プロセスなどの中に含まれているナレッジ

4.1.5 知的財産権

知的財産権(知的所有権とも言う)とは、人間の精神的な創作や産業活動上の識別標識に関する権利である。一般的な物品や金銭、不動産などの物(有体物)に対して、知的財産は無体物と呼ばれ、そのため知的財産権は無体財産権とも呼ばれる。有体物に関する財産権が法律によって保護され、窃盗や器物損壊などによる財産権の侵害が法律による処罰の対象となるように、知的財産権についても法律で保護されている。
 知的財産権には、大別して著作権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権があり、それぞれに法律が存在する。また、知的財産権のうち著作権を除く、特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4つを指して、産業財産権と言う。これらの権利は1つのものに対して複数の権利が対応する場合もあり、見方(知的財産権として対象とするもの)によって、それらの権利を保護するための法律も異なってくる。
 他人の知的財産権を侵害してはならないこととともに、組織の財産として自らの正当な権利を守ることも重要である。そのためには、組織が所有する知的財産を把握して、対象とする法律を選定した上で知的財産権の取得を行う必要がある。有体物の場合には財産権を出願しなくとも、盗難のような財産権の侵害に対して法律の保護を受けられるが、産業財産権については出願・取得を行わない場合には法律による保護を受けにくいため、適切な産業財産権の取得が重要である。また、自らの知的財産権が侵害された場合には、積極的に自らの知的財産権を主張する必要がある。なお、日本では世界的な流れである先願主義(先に出願した人に権利が生じる)を採っているが、米国では個人発明家を保護する目的で、先発明主義(先に発明した人に権利が生じる)を採っている。

4.1.7 独占禁止法とコンプライアンスプログラム

特許制度に代表される技術保護制度は、事業者の研究意欲を刺激し、新たな技術やその技術を利用した製品を生み出す原動力となっている。しかし、その一方で技術取引に伴い、技術実施の許諾(ライセンス)をする者(ライセンサー)がライセンスを受ける者(ライセンシー)に対し、その研究開発活動、生産活動、販売活動などの事業活動を制限することがある。競争の原理が働いている範囲内でこのような制限が生じることはやむを得ないが、場合によってはその一線を越え、新規開発や新規参入を阻害することにより、特定の製品市場または技術市場における競争秩序に悪影響を及ぼす可能性がある。
 このような配慮から、市場の私的独占を禁止することを目的として作られた法律が独占禁止法である。この法律は
(1)私的独占
(2)不当な取引制限(いわゆる「カルテル」)
(3)不公正な取引方法
を三本柱として、これらの行為を禁止している。
参考:日本技術士会

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この記事を書いた人

横浜すばる技術士事務所代表
技術士(建設部門ー施工計画、施工設備及び積算) (総合技術監理部門)
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