人的資源管理(その4)

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目次

3.4 人的資源開発

企業などの組織における人的資源開発(Human Resource Development ; HRD)とは、組織構成員や組織内部の集団、場合によっては組織外の関係者などが、将来において必要とされる知識や技能を保有するように、計画された学習を通して変革するプロセスである。人的資源開発は人的資源管理の一環として位置付けられ、技術の急速な進展及び職務の複雑化に伴って今後もますます重要になるものであり、組織の中で継続的に検討、実施されるべきものである。そのためには、教育訓練計画を策定して実行し、評価する教育訓練管理が重要であるが、職場における仕事を通じた人の育成も重要な位置を占める。人を育成するためには、本人の意欲が重要な要素であり、小集団活動などに対して積極的に参加できる状態を作り出すことも必要である。

3.4.1 人的資源開発プロセス

人的資源開発は、組織内部の集団や構成員、組織外部の利害関係者を対象とし、将来において必要とされる知識や技能を身に付けることを目的とした、組織変革プロセスである。つまり、計画された教育、訓練、学習によって外部環境及び内部環境に適応していく組織変革を促進するプロセスが求められている。
 一般的な人的資源開発のプロセスを以下に示す。これらは、PDCAサイクルとして運用されるべきものである。
(1)必要性の決定
   組織形態や組織文化の分析、職務分析と個人分析により、特定の教育や訓練の必要性を決定する。
(2)目標設定
   組織の目標と期待される成果目標などから、人的資源開発目標を設定する。
(3)開発手法選択
   管理職向け、一般従業員向け、新任者向けなどの分類毎に、開発に用いる様々な手法から適切なものを選択する。
(4)メディア選択
   訓練プログラムを強化し効果を高めるためのメディアを選択する。ここでメディアとは、プログラムを告知する手段としてどのような文書で伝達するか、誰が口頭で伝達するかといった選択を含むものである。
(5)プログラムの実施
   実際に人的資源開発プログラムを実施するプロセスである。
(6)プロセス・プログラムの評価
   アンケートなどの効果測定により、プロセス全体及び人的資源開発プログラムの評価を行う。
 また、組織全体としての能力を拡大していくためには、組織形態や組織文化の診断と管理、組織の問題解決と再生プロセスの改善、そして何より経営層による支援が欠かせないものである。これらを通じて実現されていくものが、組織開発である。

3.4.2 教育訓練管理

企業などの組織における教育訓練は、組織が必要とする人材を養成するために行われる活動である。従って、まず組織運営上の人材に対する要求を明らかにし、組織が必要とする人材像を明確にすることが求められる。
 一般には、従業員は共通の目的を達成するために複数の人が協力する組織の一員として働いているので、次の4つの能力が求められる。
(1)組織の方針を理解し自分が行うべき課題を設定できる課題設定能力
(2)その目的を達成できる職務遂行能力
(3)他の人と協力して目的を達成するための対人能力
(4)目的を達成する際に起こる問題を解決するための問題解決能力
このような能力を向上させるために、教育訓練活動を適切に管理するとともに、教育訓練の成果を人事考課管理などその他の人事管理に適切に反映させる体制を構築することが教育訓練管理である。各組織では教育訓練計画を作成し、教育訓練体系、教育訓練方法などを様々に組み合わせて実施している。
(1)教育訓練体系
   ① 階層別教育訓練
     組織の階層毎に対象者を定めて実施するものであり、新入社員教育や管理職研修などが該当する。
   ② 職能別教育訓練
     専門分野毎の従業員を対象とし、機器操作訓練などが該当する。
   ③ 課題別教育訓練
     組織全体に共通した課題である語学やコンピュータなどを対象として実施されるものである。
(2)教育訓練手法・技法
   ① 知識教育
     商品や技術に関する専門的な情報や仕事の手続きを知識として理解させることを目的として、講義や見学により実施される。
   ② 技能教育
     知識を活用して仕事に生かす技能を伸ばすことを目的として、実習などの形式で実施される。
   ③ 態度教育
     職場の同僚と協力する姿勢や仕事に積極的に取り組む態度を向上させ、対人能力を高めることを目的とし、討議やロールプレイングにより実施される。
   ④ 問題解決能力開発
     組織が求める課題を設定する能力や問題解決の能力を養成する。ケース・スタディや課題研究法が用いられる。
   ⑤ その他の開発
     創造性開発を目的としたブレイン・ストーミングやイメージ・トレーニング、組織能力開発を目的としたコミュニケーション・トレーニングなどがある。
(3)教育訓練方法
   ① OJT(On the Job Training)
     上司や先輩などの指導の下で、職場で働きながら行われる教育訓練である。
   ② OFF-JT(Off the Job Training)
     職場から離れ、外部の教室などで行われる教育訓練である。 
   ③ 自己啓発
     通信教育を受けることや留学するなど、個人が主体的に能力開発を行う教育訓練である。
 一般に、教育訓練の実施主体となるのは、教育訓練スタッフ、組織の管理者、そして本人である。大きな組織では、教育訓練スタッフは専門部署を構成し、その役割に特化することが一般的である。そして教育訓練スタッフは主に社内研修などのOFF-JT、組織の管理者はOJTと自己啓発、本人は自己啓発に責任を持つこととなる。

3.4.3 人事考課管理

人事考課管理とは、個々の従業員の仕事ぶりを通して、従業員の組織に対する貢献度を評価し、評価結果をその他の人事管理に反映させる管理活動であると捉えることができる。つまり、人事考課の結果は、教育訓練管理にも適切に反映させる必要がある。人事考課管理を考える上では、次の4点がポイントとなる。
(1)理念
   従業員への評価は、その従業員の昇進や給与などに大きな影響を及ぼす。従って客観性と公平性を持って実施され、できる限り多くの従業員に納得される必要があり、企業などの組織ではそのための様々な努力が行われている。さらに、一般的には以下の透明性と加点主義を重視すべきとされる。
 ① 透明性
   ルールや評価基準を公開し、評価結果を被考課者に伝えることによって、従業員の納得性を高める。
 ② 加点主義
   成果を挙げたことに対して点数を加えることによって評価するもので、従業員の間に失敗を恐れず革新的なことに挑戦する意欲が生じる。評価を下げる目的で失敗を評価する減点主義では、従業員の間に失敗をせずに無難に過ごそうとする傾向が生じる恐れがある。
(2)評価基準
   一般的な評価基準では、能力・姿勢・業績という3つの領域が対象とされる。
 業務プロセスから見れば、能力と姿勢はインプット、業績はアウトプットとなる。評価基準を策定する場合、①インプットを評価する方法、②アウトプットを評価する方法、③その両方を組み合わせるという方法が考えられる。①の方法を用いるとアウトプットを高めようとするインセンティブが働かない。②の方法を用いれば組織への貢献を評価することができるが、能力や姿勢以外の偶然の要因にも左右され易く、また短期の成果を求める傾向が生じる恐れがある。
   従って多くの組織では、③の方法を用いて評価基準を作成・改善する努力がなされている。
(3)評価方法
   評価者・実施方法・時期という評価方法も重要な要素となる。つまり、評価基準が整備されていても評価者が誰であるかによって評価が異なってしまうことがあり得るからである。従って、評価者を対象とした考課者訓練を実施することなどが行われている。また実施方法に関しては、直属の上司による一次査定を経て、その上の上司が二次査定を行うという二段階で行われるのが一般的である。評価の時期については、変動しやすい姿勢と業績はやや短期で行い、変動か少ない能力はやや長期で行うことが一般的である。
(4)評価反映
   主として賞与には姿勢評価と業績評価が反映され、昇給や昇進にはそれとともに長期的な視野を含めるために能力評価も反映することが一般的である。
 人事考課の評価要素はOJTなどと連動させるとともに、評価結果の改善していく方法の明確化とそのフィードバックを実施することが重要である。つまり、査定主義から脱却し、能力開発を重視する姿勢が求められてきている。

3.4.4  QCサークルにおける人的資源開発

 QCサークル活動とは、小集団活動における代表的な活動形態であり、第一線の職場で働く人々が継続的に製品やサービスなどの品質に対する管理や改善を行う活動である。小集団活動は、現場を信頼した自主的改善、現場中心主義による継続的改善を行っていくことに意義があり、従業員の動機付けや自己実現に大きく貢献するものである。
 その意味で、人的資源開発においても大きな効果を発揮する仕組みであると言える。小集団活動には、他にZD運動や改善提案活動などがある。
 QCサークル活動の基本理念は次のとおりである。
(1)人間の能力を発揮し、無限の可能性を引き出す。
(2)人間性を尊重して、働きがいのある明るい職場をつくる。
(3)組織の体質改善・発展に寄与する。
 長くQCサークル活動を行っていると、様々な問題を抱えるようになる。代表的な指摘としては、次のようなものがある。このような状況を打破することが、組織にとっての課題となっている場合も多く見られる。
(1)成果や発表に偏重した活動となる。
(2)経営層の無関心、過小評価が活動を停滞させる。
(3)問題認識や手法理解のレベルが低下してくる。
(4)形式化や形骸化が進む。
 QCサークル活動は、現場の人の学習と実践の場である。人的資源開発の面から見たQCサークル活動の利点として次のような内容が挙げられる。
(1)積極的に専門家・管理者の支援を得て技術的・専門的検討を行う活動を展開し、技術革新に対応した勉強会や学習を伴う活動も展開する。このような活動により、若年層の知識と熟練層の経験の融合、異なる職務のスキルの交流が促進される。
(2)業務の一環として展開されるため、重要課題への挑戦、顧客や業務プロセスの開発モデル構築などが実施される。
参考:日本技術士会

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