3.3 人的資源計画
企業などの組織において、人は非常に重要な経営資源である。従って、その人的資源をいかに計画的に活用していくかは組織の存亡に関わる重要な問題であるとともに、従業員にとっても、働いている組織とどのように関わっていくかは関心の高い事項であると言える。
プロジェクトは期間が定められたものであり、一つの目的のために一時的に人が集められる。この観点からプロジェクト管理を考えた場合、プロジェクト組織の明確化、要員の選定、要員の育成が重要な実施内容となる。適切な人材の確保と配置に関して計画を立案して実行していくが、問題が生じた場合は直ちに修正を行うことになる。プロジェクトにおいては、管理手法を学ぶことや多様な能力開発の推進、リーダーシップを発揮する訓練の場であるなど、実践的な人的資源開発の場としての意義も大きいものである。
3.3.1 職務分析と職務設計
組織の中には様々な職務が存在しており、それぞれが有機的に結合して組織としての業務が遂行されている。日本においては、個々の職務の境界がやや曖昧で、主要な職務は定められていながらも、それぞれの部署や担当者の境界に位置する職務が多様に存在していることが指摘されている。この場合は、人に応じて職務が配分される傾向があり、職務に応じて人を配置する欧米的な考え方とは異なることが特徴である。しかし近年は、職種別採用なども始まっており、欧米的な考え方を取り入れている状況も見られる。
以上のような状況にはあるが、組織における職務を考える場合、組織の目的から必要な機能の種類を定め、さらに職務へと分割した上で、最終的に複数の職務を統合する形で組織を編成していくことが本来の検討ステップである。ここで、分割した職務に対して検討すべき重要なポイントは、その職務に対しての遂行義務、経営資源を活用する権限、結果説明責任の3つを明確にすることである。
以上で述べた職務について、それぞれの職務の内容を分析することが職務分析である。
換言すれば、観察などによってある特定職務の性質に関する適切な情報を決定し、報告する手続きであると定義できる。個々の職務について、課せられている仕事の内容や職務遂行過程で要求される知識や精神的・身体的能力、職務遂行過程で受ける精神的・身体的負荷などを調査していくことが行われる。
職務分析においては、まず観察調査、面接調査、質問紙調査などの方法により職務の内容を把握することが行われる。これらの結果は、一般的に次のような形式でまとめられることになる。
(1)職務記述書
職務の要旨、職務の義務・権限・責任、必要とする知識・技能・経験などを記述したもの。
(2)職務明細書
知識・技能・経験、専門能力、適性、心身の特性など、職務に必要な人的特徴を記述したもの。米国雇用安定局により一般に広められた。
(3)職務関連記述書
職務に必要な他の職務経験、キャリアパスなど、多様な職務の垂直的、水平的関連性を記述したもの。
職務分析の結果は、募集や選考などの雇用管理、教育訓練管理、人事考課管理など様々な管理活動に利用される。
職務設計は、組織の各構成員によって遂行される特定の職務の義務、権限、責任を決定するプロセスである。また、各構成員に高い意識付けを行い、個々の能力を最大限に発揮できるように職務を設計することとも言える。職務設計において、一般的に期待されることとして、真の動機付け要因を含んでいることが挙げられる。以下に示すのは、5つの中核的職務特性と呼ばれている。
(1)技能の多様化
(2)仕事の一貫性
(3)仕事の有意味性
(4)自律性
(5)フィードバック
3.3.2 雇用管理
雇用管理とは、労働力の確保・保全・処遇などに関する一連の計画的・体系的な管理のことである。管理を行う側から見れば、従業員を適切に採用し活用することにより生産性を向上させることが目的であるが、従業員にとっては組織人としての生活に深く関わってくるものである。そのため、雇用側と従業員側の双方にとり重要な活動である。
雇用管理の具体的な活動は、従業員の募集、選考、採用、配置、昇進、昇格、そして退職に関するものである。組織としての雇用に対する考え方や方針は、従業員の仕事の取り組みに大きな影響を与えるため、雇用管理に関する活動を展開するための基盤として、次の事項を認識する必要がある。
(1)採用条件と選考方法の明確化
従業員の採用条件を明確化し客観的な採用を行うことである。経営計画と職務設計に基づいた選考条件を明確にし、客観的かつ合理的に行うことが求められる。
(2)従業員の適正配置
従業員の配置は従業員の意欲などに大きな影響を与える。従業員の希望に応じた配置により、職務への意欲は高まるものである。 しかし、職務を遂行する能力や資質を欠いていれば、適切な配置とは言えない。つまり従業員の希望を考慮しながらも、職務に応じた適切な配置を行う必要がある。
(3)公正で適切な処遇
適切な処遇は従業員の満足感を生み、従業員に対して高いモチベーションを与えることができる。しかし、雇用側が公正かつ適切に処遇していると考えていても、従業員の中にはそのように処遇されていないと認識する者も出てくる。
そこで日頃から従業員の処遇に関してヒアリングなどを行い、処遇への不平不満を取り除くよう努力する必要がある。
組織として従業員を効果的に採用・配置・処遇するためには、何らかの形でグループ分けした管理が行われる。雇用形態による従業員区分が、最も基本的なグループ分けになるが、それは以下のようになる。
(1)直用
組織が直接雇用している従業員であり、長期雇用を前提とする正社員、短期雇用を前提とする非正社員(嘱託、有期契約社員、出向、パート、アルバイトなど)に分かれる。
(2)非直用
請負作業員や派遣社員など、組織の中で働いているが、他組織に雇用されている従業員のこと。
組織の中心となるのは正社員であるが、一般的にブルーカラー(技能職)とホワイトカラー(事務・技術職)に区分される。事務・技術職はさらに、主に補助的業務を受け持つ一般職と基幹的業務を受け持つ総合職に分けられる。一般職には住居の移転を伴う転勤が無いのに対し、総合職は全国あるいは全世界どこでも転勤させられるとしている組織が多い。さらに近年、総合職の一般社員を管理職に昇格させる代わりに、専門職や専任職に昇格させるという専門職制度を導入する組織も増えてきている。専門職は文字通り特定分野の能力の高い専門家であるが、特定の業務(技能など)に限定して仕事を担当する人たちを対象にしたものが専任職である。これらを総合的な制度として設計した昇進や処遇の体系を、複線型昇進体系と称することもある。これは、管理職ポストが不足してきていることが主な理由とされる。
日本では、従事している仕事の重要度による役職資格区分(例えば部長・課長・係長・一般社員など)の他に、年齢や勤続年数、能力、技能から見た職能資格区分(例えば、 参事・主事・1級・2級など)を設けていることが多い。その結果、役職資格区分は課長で、職能区分は主事というように、一人の従業員に複数の区分が与えられる例が見られる。
これまで日本における雇用の特徴として、年功序列、終身雇用、企業別組合が挙げられてきた。しかし近年、以下に示した様々な状況の変化などにより、これらの特徴を維持することが難しくなってきている。
(1)産業の成熟化
産業の成熟化などにより、雇用の調整を行う必要が生じ、長期雇用の維持が難しくなってきた。
(2)企業の活力
長期的な雇用の確保のためには、長期勤続者にそれなりの地位とポストを与える必要があるが、それは企業のコストを上昇させる他、若い人々のチャンスを奪うこととなる。
(3)空洞化
国際競争力の維持と向上には、生産拠点の国際化が不可欠である。 しかしそれは、国内での空洞化の問題をもたらすこととなる。
組織として雇用管理を考える上では、このような雇用状況の変化を踏まえるとともに、従業員の価値観や意識の変化にも留意していく必要がある。
3.3.3 人間関係管理
組織において、人の作業能率を上げるための完全な方法は存在しない。メイヨーとレスリバーガーによる有名なホーソン実験では、対象とした作業員を実験室に隔離し、作業条件と作業能率との関係についての様々な仮説を検証することが試みられた。照明の明るさや休憩の時間、賃金支払い条件などを操作しながら実験が行われたが、いずれの仮説も検証されなかった。これは、物理的・生理的・経済的な条件よりも、人々の感情や集団の雰囲気、集団規範などが作業能率により大きな影響を及ぼすことを示している。
それまで主流であった人間を機械視する傾向がある科学的管理法から、人間関係を重視した管理の重要性を示したという意味で画期的な実験であった。
組織において、従業員の生産性を上げることは大きな管理目的であるが、その前提として職場の人間関係の円滑化を重視するのが人間関係管理の考え方である。人間関係が円滑化することは、他の管理活動においても利点が大きいものである。
企業などの組織は、目的に合致した合理的な生産活動を遂行するための技術的組織である他、職務に従事する従業員によって構成される人的組織でもある。つまり組織は、物的・技術的メカニズムとしての技術的組織と、人間関係の複合体としての人的組織との二面性を持っているとしている。後者の人的組織は、一般に公式組織と非公式組織からなる。後者の非公式組織は、人々が業務を通じて接触していると必ずそこに形成される。非公式組織は、従業員に次のような影響を与える。
(1)職場の行動規範の決定
どの程度働くべきか、どの程度規律を守るべきか、などは非公式組織内で決まることが多い。
(2)組織の力関係の決定
非公式組織は一つの単位となって同じ動きをするので、それが力の源泉となる。
(3)職場の居心地の決定
自分か非公式組織に受け入れられなければ、その人は職場で気持ちよく働くことができない。
(4)育成の環境の決定
真似の対象や刺激の源泉は、非公式組織内の尊敬できる人、互いに切磋琢磨し合う人であることが多い。
従業員のモラルを高め作業能率を向上させるためには、従業員の個人的経歴や職場の人間関係などを含めた状況の把握、非公式組織への管理側からの積極的なアプローチなどが必要となる。それを通じて、技術的組織、公式組織、非公式組織などの間に社会的均衡をもたらすことが可能となる。具体的には、次のような活動を行うこととなる。
(1)組織内のコミュニケーションを円滑化する。例えば社内報などを活用するなどの方法を取る。
(2)日常的な従業員の態度などから感情・不満などを把握する。例えば、意識調査を行って従業員の要望・不満・苦情などを把握し、適切な処置を講じる。
(3)従業員の職務遂行意欲を阻害している種々の悩みを解決するための人事相談などを行う。
しかし、人間関係が円滑であっても、それだけで作業能率が向上する訳ではない。働こうという意欲を持つためには、動機付けが重要であることが認識されるようになり、行動科学的アプローチの重要性が強調されている。
3.3.4 プロジェクト管理における人的資源
プロジェクト管理とは、最終的なアウトプットである生産物を望んだ品質水準で納期を守り計画した予算内で生産するための一連の活動である。その構成要素には、次のようなものがある。
(1)戦略策定
(2)プロジェクト外部との調整
(3)スケジュールの調整
(4)コストの調整
(5)経営資源の調整
(6)要員の調整
実際にプロジェクトにおいて人的資源を管理していくためには、大きく3つの内容を実践する必要がある。 (1)プロジェクト組織の明確化
(2)プロジェクト要員の選定
(3)プロジェクト要員の育成
個人能力育成に限らず、チームワークの育成も含まれる。
そのプロジェクトに適した人材を選定して組織を構成することになるが、現代の複雑化・大型化したプロジェクトでは、一見関係無いと思える分野の技術者などが必要になる場合もあり、計画段階で十分な検討を行う必要がある。また、人事や経理といった間接部門の人員が必要となる場合もある。
人員の不適切な配置、人的資源に関する需給の不一致など、計画に問題が生じることもあるが、その場合は直ちに計画を変更できるように、日常から計画と現実の整合に関する点検を継続して実施する必要がある。
プロジェクトは、組織構成や人材の面で母体組織の縮図であると言える。巨大化と専門分化が進んだ現代の組織においては、管理手法を学ぶことや多様な能力開発の推進、リーダーシップを発揮する訓練の場であるなど、実践的な人的資源開発の場としての意義も大きいものである。
参考:日本技術士会
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