人的資源管理(その2)

像の鼻
目次

3.2 労働関係法と労務管理

企業などの組織は、従業員が業務に取り組む意欲を高め、高いモチベーションを与えるとともに、従業員の安全と健康を守るための労務管理を適切に行う必要がある。労務管理では、従業員の作業環境や労働時間、賃金を適切に管理することが主要な内容であり、その他に従業員の生活を支援するための福利厚生を充実させることなども含まれる。
 労務管理の基本となるのは、労働者の保護や労使関係について定めた多数の労働関係法である。主たる成文労働関係法は、大きく憲法第27条の労働権に基づくものと、28条の団結権に基づくものに分けられる。常時10人以上の労働者を使用する組織においては、労働関係法を踏まえた就業規則の作成が使用者に義務付けられており、使用者と労働者の権利と義務を明確にする必要がある。
 労働安全衛生法を基本とする労働安全衛生管理は、職場内の設備や環境、作業方法などを整備し、職場で働く人たちの生命や心身の健康を維持するための管理であり、従業員が安心して働くためには重要な管理活動である。
総合技術監理の立場から、労務管理の要素として、労働時間管理、賃金管理、労使関係管理の3つを取り上げている。

3.2.1 労働関係法の体系と就業規則

日本では、労働者または労働者と使用者との関係に関して定めた様々な法律が制定されている。そのうち、主な成文労働関係法について以下に記述する。成文労働関係法は、大きく憲法第27条の労働権に基づくものと第28条の団結権に基づくものに分けられる。
 (1)職業安定法
 (2)雇用保険法
 (3)職業能力開発促進法
 (4)障害者雇用促進法
 (5)高齢者雇用安定法
 (6)地域雇用開発促進法
 (7)中小企業労働力確保法
 (8)労働者派遣法
    人材派遣業の適切な運営の確保と、派遣業務に従事する労働者の就業条件の整備や、雇用の安定化などを目的としている
 (9)育児一介護休業法
    男女を問わず、1歳に満たない子を養育するためにする休業を、1年未満取れるとしている。
 (10)男女雇用機会均等法
 (11)労働基準法
   労働者の労働条件の最低条件を定めている。付属法に、最低賃金法、家内労働法、労働安全衛生法などがある。
 (12)最低賃金法
 (13)賃金の支払いの確保等に関する法律
 (14)労働者災害補償保険法
 (15)労働安全衛生法
   労働災害や疾病の防止、予防のための総合的措置を講じる。
 (16)家内労働法
 (17)勤労青少年福祉法
  (18)労働組合法
  (19)労働関係調整法
  労使の自主的解決が困難な場合について、自主的解決に助力を与えるとともに、調整するための方策や機構を制度化している。
  企業などの組織(常時10人以上の労働者を使用する場合)においては、使用者は就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る必要がある。就業規則では、労働関係法を踏まえつつ、労働時間、賃金、退職に関する事項を定め、使用者と労働者の権利と義務を明確にする必要がある。この他に、労働者代表と使用者の間で締結する労使協定、労働組合と使用者の問で締結する労働協約、個別の労働者と使用者が取り決める労働契約などがある。

3.2.2 労働時間管理

労働時間管理は、従業員の健康と能率を維持することを目的としており、管理の対象となるのは種々の労働時間である。大別すれば、労働時間の長さと配置の管理ということができる。後者は労働時間制度と呼ばれる。労働時間管理の基本となるのは、労働基準法や育児休業法であり、そこでは以下の通り規制されている。
 (1)法定労働時間は、週40時間、1日8時間とする。
 (2)使用者が従業員にそれを超えて労働させる場合(時間外労働)には、労使が協定を締結し、労働基準監督署に届けることが義務づけられている(三六協定)。
 (3)時間外労働の場合には、会社は25%以上の割増賃金を払わなければならない。
 (4)使用者は、その雇入れの日から起算して6ヵ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。ただし、所定労働日数が週4日以下又は所定労働時間が週30時間未満の場合は7日以下の比例的日数となる。
 (5)会社は、男女に関わらず子供が1歳に達するまで休業できる育児休業制度を設けなければならない。
 労働時間制度に関しては、研究開発やソフトウェア開発の技術者、コンビニエンスストア従業員などのような業務時間の変則的な仕事の増加により、働きやすい労働時間制度をつくる必要が生じてきている。労働時間制度の弾力化としては、次の3つの制度がある。
 (1)フレックス・タイム制度
   一日の標準の労働時間(所定内労働時間)とコア・タイムを決める。従業員は、コア・タイムに出社していること、一定期間の標準労働時間を勤務するという条件の下で、出勤・退社時間を自由に選べる。残業手当は、1ヶ月以内を単位として総労働時間を算定し残業手当を精算する。
 (2)変形労働時間制度
   1ヶ月または数ケ月で平均して、1週間当たりの労働時間が週法定労働時間を超えない範囲で、各自の労働時間を決めることができる。
 (3)みなし労働時間制度と裁量労働制度
   前者は労使の協定に基づいて、みなし労働時間を決める。後者は研究開発などの、労働者の裁量に委ねる必要がある労働について、みなし労働時間を適用する。
   労働時間、休日などの制限を使用者に課した労働基準法第32条から第32条の5まで、または第40条の労働時間及び第35条の休日に関する規定の例外規定であり、三六協定を結んで届け出た場合に、労働時間を延長し、休日に労働させても労働基準法違反として処罰の対象にならない。

3.2.3 賃金管理

賃金管理の目的は、賃金コストを適正に維持しつつ、必要な従業員を確保し、従業員の労働意欲の高揚と有効活用、労使関係の安定を実現することにあると言える。しかし、適正な賃金ということに対しては様々な考え方があり、以下にいくつかの例を示す。
(1)生計費説
   労働者が必要とする生計費により定まる。
(2)支払能力説
   組織の支払能力で決まる。
(3)需給説
   労働力の需給関係で決まる。
(4)契約説
   労使間の交渉で定まる。

   賃金管理は、大きく分けて総額管理と個別賃金管理により構成される。
(1)総額管理
   管理する側からは、賃金総額はコストであるので、企業などの支払い能力である労働生産性からみて適正水準を維持する必要がある。賃金総額と経営指標との関連を以下に示す。
   ① 労務比率=労務費÷売上高
   ② 労働分配率=賃金総額÷付加価値額
   ③ 労働生産性=付加価値額÷従業員数
(2)個別賃金管理
   基本給と手当の組み合せなどの、賃金の構成要素を決めること、そして個々の構成要素毎に適正な個人配分ルールを設定することが必要となる。一般に賃金の構成は、基本給、賞与、手当、所定外給与から成り立っている。そのうち最も大きな割合を占めるのが基本給であり、手当の代表的な例は通勤手当、家族手当、住宅手当、役付手当、技能手当、精皆勤手当などである。基本給の決め方は主に3つの方法があり、それぞれを配分ルールに従って定めている。
   ① 職務給
     職務の重要度と困難度、責任度などによって決まる職務の価値
   ② 職能給
     職務遂行能力
   ③ 属人給
  労働基準法では、第1条から第4条で賃金などの労働条件に関して規定しており、人たるに相応しい生活の維持、労使対等原則、平等(均等)待遇、男女同一賃金を求めている。第24条では、賃金支払原則として、通貨払い(協約による例外)、直接払い、全額払い、毎月1回以上払い、一定期日払いなどを義務付けている。第37条では、割増賃金について、時間外労働では通常の25%以上、休日労働では35%以上、深夜労働では25%以上の支払いを義務付けている。
 近年の経済情勢の悪化などを背景として、賃金の支払いを伴わない労働、いわゆるサービス残業が社会問題化しているが、雇用者は労働基準法に違反していることを認識し、早急に改善する必要がある。

3.2.4 労使関係管理

労使関係管理とは、企業などと労働組合との交渉や協議を通じて労使関係制度を運営する管理活動である。労使関係制度では、労働条件を決めるルールと、そのルールを決めるためのルールを定めている。人的資源管理の諸活動は労使関係のルールに規制されるので、労使関係管理は人的資源管理の根幹を成す活動であるとも言える。
 日本では、労働者に対して以下の労働三権が保証されている。
(1)団結権
(2)団体交渉権
(3)団体行動権
参考:日本技術士会

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