1.総合技術監理の要求内容と技術体系(その1)

マークイズ
目次

1.1 総合技術監理に要求される機能

総合技術監理が必要とされる背景

 科学技術の発達により人々が享受する恩恵は、日々の生活の中に浸透している。しかしその一方で科学技術の巨大化・総合化・複雑化が進展しており、その発達を個別の技術開発や技術改善のみによって推進することは難しい状況になりつつある。つまり、科学技術の発達を推進する業務は一部の専門家のみによって完結するものではなく、さらに言えば科学技術は単独でその有効性や価値が生じている訳でもなく、企業などの組織活動が技術の有効性を発揮するための大きな基盤となっている。また、それに伴って事故や環境汚染などが発生した場合の社会への影響も、従来に比して遙かに大きなものとなっている。
   一例として、科学技術業務の結果として産み出される製造物・製品を考えてみる。近年の製造物・製品は、その概念が想起された段階で直ぐに具体化できるものではなく具体化されてもその初期の段階では、高価であるとか、品質を保持できないとか、安全性に問題があるなどの様々な不安定要素を内包するものである。しかし、その後に技術的な努力を積み上げることにより、一般の人々が広く利用できるものになる。その過程では、経済的に利用可能な製造物・製品とするべくコストの低減や品質の向上が図られるが、そのためには多くの技術者がそれぞれの能力を十分に発揮できる仕組みや、要素技術の知見などの様々な情報を結集するための仕組みが必要である。また、事故を未然に防止するための技術や事故時でも利用者の安全を確保するための技術も必要であり、騒音防止や有害排出物の抑制など周辺環境に与える負荷を抑える社会環境の保全も必要となる。
 このような状況の中で、社会の要求に応え、科学技術を管理し、組織活動を継続的に運用していくためには、業務全般を見渡した俯瞰的な把握・分析に基づいて、技術の改善及びより合理的なプロセスによる安全性の確保や外部環境負荷の低減などを実施する必要があり、そのための管理技術が強く求められる。このような管理活動は、それぞれの要求事項を個別に管理していくことのみで実現することは困難であり、複数の要求事項を総合的な判断により全体を監理していくことが必要である。   
 また、科学技術がもはや一部の専門家が推進し一部の人がそれを利用するものではなく、地球的規模でその正負両面の影響を受ける状況になってきていることを踏まえる必要がある。そのような状況では、上述したような総合的な監理を行うことができ、そして自らが携わる技術業務が社会全体に与える影響を把握し、社会規範や組織倫理から定まる行動規範を自らの良心に基づいて遵守する高い倫理観を持った技術者が必要とされているのである。

総合技術管理の範囲

技術士総合技術監理部門では、企業などの組織における技術業務全般を見渡し、安全性や経済性などに関する総合的な判断に基づいた監理を行うことが可能な技術者を育成、認定することを目的としている。
 総合技術監理の範囲としては、主として経済性管理、人的資源管理、情報管理、安全管理、社会環境管理があり、それに加え社会的規範や国際的ルールを包括した倫理観や国際的視点なども含まれる。
 なお、この総合技術監理において「監理」という文字を使用しているのは、総合技術監理が上述した各管理やその他の内容を総合して監督する概念であることを明確にするためである。
 実社会において組織活動やプロジェクトの監理を行う場合、各管理の重要性や優先順位は、組織活動やプロジェクトの目的もしくは規模によっても異なってくるものであり、一意的に定まるものではない。
 例えば、過去に多くの類似経験を有するビル建設などのプロジェクトでは経済性管理が優先されるであろうし、規模が小さくとも特殊な危険物を扱う施設の建設では安全管理が優先されるであろう。従って、総合技術監理を実施する者は、その組織活動やプロジェクトの内容毎に、各管理の優先順位や実施手順などを検討し、必要にして十分な監理を実施することを必要とする。
 各管理はそれぞれが密接な関係を有しており、お互いに相関を有する場合がほとんどである。例えば環境披害が生じたとき、それが社会環境管理の失敗というよりは、事故という安全管理の失敗によりもたらされ、その背景には人的資源管理あるいは情報管理の抜け落ちがあった、ということも散見される。また、安全管理や社会環境管理を実施する場合、その対策に必要となる費用をどれだけかけるかという根本的な問題に対して、経済性管理としての判断が必要となる。
 先に挙げた5つの管理の関係を企業の生産活動を例として整理をすると、以下の通りとなる。企業などの組織が生産活動を行いながら組織を存続していくためには、品質・ 納期・コストなどを管理する経済性管理を行うだけではなく、主として自組織の構成員と設備の安全及び社会からの信頼性を守るための安全管理を行うとともに、主として外部環境を守るための社会環境管理を有効に機能させる必要がある。また、このような管理を行うに際して投入できるリソースには当然制限があり、組織内の重要なリソースである人的資源と情報を有効に活用する必要がある。つまり、前述したように総合的な判断に基づく監理を行うためには、経済性管理、人的資源管理、情報管理、安全管理、社会環境管理を総合的に行う必要が生じる。

総合技術監理に要求される能力とその養成 

 総合技術監理を行う技術者に要求される技術的知識や能力は、その組織活動やプロジェクトにおける個々の作業や工程などの要素技術に対する管理技術のみではない。それに加えて、業務全体の俯瞰的な把握・分析に基づき、前述した5つの管理などの広範囲にわたる技術業務全般に対する総合的な判断を行うとともに改善策の策定を行える能力である。技術業務全般を総合的に判断するということは、各管理に対する個別の検討を行うことは当然のこととして、各管理の目的に照らして互いに相反する選択肢が発生した場合(例えば安全性向上のためのコスト増と生産性向上のためのコスト低減などの場合)、総合的な視点から検討を行い、それによって経営全般を勘案したマネジメントに資する判断を行うことである。
 このような総合技術監理能力は、個別の知識を積み上げることのみによって習得される訳ではない。前述した5つの管理技術などを個別に理解するとともに、それらを総合的に勘案して判断する技術洞察力を身に付ける必要がある。この能力は、企業などの組織活動や社会の要求を十分に理解しその技術を組織活動の中で発揮することが前提となっている。そのため、技術者倫理に対する理解、科学技術の進歩への関与、社会環境の変化への対応、そして常に俯瞰的な立場で総合的に判断する習慣といったものを、日々の組織活動やプロジェクトの中で実践しながら身に付けていくことが必要である。つまり、正しい知識の習得と日々の実践の両輪が、真の総合技術監理能力の養成のために要求されているのである。
 さらに、総合技術監理を行う技術士が対応すべき管理技術の広範さ、要求されるレベルを考えたとき、その技術力の向上を図る努力は常に継続されなくてはならない。

総合技術監理に必要とされるプロフェッショナルとしての倫理観と国際的視点

科学技術社会の基盤を支える技術者は、その技術レベルを高く維持するとともに、社会人として、技術者としての高い倫理観や国際的視点を持つことが求められるが、特に技術士に対しては、その指導的立場からも、一般の技術者よりもさらに一段と厳しいプロフェショナルとしての高い倫理観を維持することが期待され、また要求されている。
 総合技術監理に携わる技術士は、その業務内容からも、特に技術者倫理については強い自覚を持ち、自らの良心に基づいて自らの行動を律していかなければならない。例えば、データの取り扱いに関する客観性や公平性、手法や技術の正しい使用が社会的に要求されている事項には、たとえ自組織に不利になる事項が含まれていても、正しく情報公開を行うなどの行動規範を遵守することが必要である。技術士が遵守すべき行動規範には、法律や規則は無論のこと、社会的規範や国際的ルールといった社会人として守らなければならない規範も含まれる。技術士倫理要綱もそのような守るべき規範の一つである。
 総合技術監理の技術士には、国際的視点からの知見を持つことも重要な事項として要求される。グローバル化の進展に伴い、技術士の活躍の場も海外にまで大きく広がってきている。業務自体は日本国内で行われていても、部品やサービスの調達をはじめ、様々な経済活動が国際的な関連を持つことも多い。国際規格の動向を把握しその方向性を理解することも大切であり、海外における事業においては、その国の情勢や文化に対する理解を深め、組織活動や事業の安定的な継続に資することが求められる。
 技術士資格についても国際標準化が始まっている。 APEC 技術者資格相互承認プロジェクトがスタートし、日本の技術士も審査・登録を経てAPECエンジニアの資格を取得できるようになっている。
 このような急速な国際化に対応するためには、技術士自らが国内ばかりでなく海外にも目を向けていかなければならない。専門の技術に留まらず、様々な国際動向に注目し、海外の国々の政治、経済、文化に対する理解を深め、国際的な視点で物事を判断できるよう、常日頃から心掛けることが重要である。

総合技術監理の要素技術としての総合管理技術

総合技術監理の範囲を構成する5つの管理技術はそれぞれ密接な関係を持ちながらも、それぞれ固有の望ましい方向性を有する。従って、これらを独立に実施すれば、互いに相矛盾する選択肢がそれぞれの管理から提示されることになる。そこで、これらの統一的な結論の提示、もしくは矛盾の解決・調整を行うための管理技術が必要となる。
 この管理技術は、各管理状況を総合的に把握し、不確定な条件での選択をできるだけ合理的に行えることが望ましい。
 このような不確定性を持つ事項を管理するための技術を構築するべく、それぞれの個別要素技術の立場に留まらず、総合管理技術としてより高次のレベルに発展させるための様々なアプローチがなされている。経済性管理の立場からは、総合的品質管理と組織経営戦略の策定を結びつける方法、管理会計の考えによる方法が存在している。
 また、与えられた選択肢(代替案)の中から最も望ましいものを選択するための方法論である意思決定論の考え方を適用する方法もある。安全管理の立場からは、組織経営戦略におけるリスクの視点からマネジメントを統合的に捉えるリスクマネジメントを適用する方法が存在している。いずれも、総合技術監理を行うための総合管理技術として統一的に適用可能という段階には至っていないが、比較的体系化が進んだ技術として利用されてきている。

参考:日本技術士会

1.1.1 技術士法

 技術士法は、技術士などの資格を定め、その業務の適正を図り、もって科学技術の向上と国民経済の発展に資することを目的とした法律である。
 技術士法における技術士の定義は、登録を受け、技術士の名称を用いて科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項についての計画・研究・設計・分析・試験・評価、またはこれらに関する指導業務を行う者とされている。

1.1.2 技術者継続教育

技術士法第47条の2には、技術士の能力維持・向上に関して「技術士は、常に、その業務に関して有する知識及び技能の水準を向上させ、その他その資質の向上を図るよう努めなければならない」(技術士の資質向上の責務)と明記されている。これにより技術士は、資格取得後も知識及び技能の水準などの向上を図るための研鑽が責務となっている。
 また、APEC技術者資格相互承認プロジェクトにおいても、APECエンジニアとしてその実質的同等性を確認する重要な要素の一つとして、「継続的な専門能力開発を満足すべきレベルで維持している」ことを挙げている。

(1)CPDの目的
  ① 技術者倫理の徹底
  ② 科学技術の進歩への関与
  ③ 社会環境変化への対応
  ④ 技術者としての判断力の向上
(2)CPDの形態
  ① 講習会・研修会などへの参加(受講)
  ② 論文などの発表
  ③ 企業内研修
  ④ 技術指導
  ⑤産業界における業務経験
  ⑥その他(自己学習など)

1.1.3 技術者倫理

科学技術社会の基盤を支える技術者はその技術レベルを高く維持するとともに、社会人として、技術者としての高い倫理観や国際的視点を持つことが求められている。
 また2000年の技術士法改正により、「公益確保の責務(第45条の2)」が追加され、技術士が備えるべき倫理が明確に規定された。
 社団法人日本技術士会は技術士が遵守すべき倫理規定として技術士倫理要綱を定めているが、特に総合技術監理を行う技術士に対しては、技術士倫理要綱の遵守も含め、プロフェッショナルとしての高い倫理観を維持することが強く求められる。社会規範や技術者倫理に抵触する判断や行動を慎むのみならず、法律、規則、社会道徳など、社会人として守らなくてはならない規範を遵守することも重要な要求事項である。
  技術士は、公衆の安全、健康及び福利の最優先を念頭に置き、その使命、社会的地位、及び職責を自覚し、日頃から専門技術の研鑽に励み、つねに中立・公正を心掛け、選ばれた専門技術者としての自負を持ち、本要綱の実践に努め行動する。
 (1)品位の保持
 (2)専門技術の権威
 (3)中立公正の堅持
 (4)業務の報酬
 (5)明確な契約
 (6)秘密の保持
 (7)公正、自由な競争
 (8)相互の信頼
 (9)広告の制限
 (10)他の専門家等との協力

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この記事を書いた人

横浜すばる技術士事務所代表
技術士(建設部門ー施工計画、施工設備及び積算) (総合技術監理部門)
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