技術士二次試験の合否発表の後、多くの受験生が「なぜ不合格だったのか」を振り返り、原因を探そうとします。しかし、非常に不可解で、かつ深刻な現象が存在します。
それは、「不合格の原因(論文の悪いところ)をプロに指摘され、本人も納得したはずなのに、翌年も全く同じ原因で不合格になる」という受験生が絶えないという事実です。
「次からは、○○するように勉強します!」
そう決意したはずの受験生が、なぜ1年後にまた同じ失敗を繰り返してしまうのでしょうか。
結論から申し上げます。不合格という「結果」を変えたいのであれば、論文の書き方(行動)だけを直しても意味がありません。あなたの根底にある「考え方(思考の前提条件)」そのものをアップデート(パラダイムシフト)しなければ、何年受験しても同じ負のスパイラルから抜け出すことはできないのです。
本記事では、何度も不合格を繰り返してしまうメカニズムを紐解き、合格圏に到達するために不可欠な「考え方の転換ステップ」を具体的に解説します。
参考:日本技術士会
技術士二次試験で「同じ失敗」を毎年ループしてしまう受験生の特徴
技術士二次試験の不合格通知を受け取った方から、当講座によくこのような相談が寄せられます。
「自分の再現論文のどこが悪いのか教えてほしい、悪いところを直して来年こそ合格したい」という内容です。
実際に送られてきた論文を読むと、明らかに不合格となる要素が含まれています。しかし、本質的な問題は「論文の文章が下手だから」ではありません。その論文を書いた受験生の「考え方」そのものが、技術士としてふさわしくない方向を向いていることにあります。
添削で指摘された不合格原因を「その場しのぎ」で直していませんか?
間違った考え方を正すように指摘すると、多くの人は「わかりました。次からはご指摘の通りに修正して勉強します」と回答します。本人も原因が分かり、すっきりした表情で「来年は合格できる」と確信した様子を見せます。
しかし、ここに大きな罠があります。この「わかりました、次は気をつけます」という言葉の多くは、その場の苦痛(指摘されたストレス)から逃れるための「その場しのぎの返答」に過ぎないケースがほとんどです。問題を根本から解決しようと、血の滲むような自己変革を決意した言葉ではないのです。
相談事例:2年連続で同じNG論文を書いてしまう人の共通点
翌年、その受験生から再び「不合格でした。また論文を見てください」と連絡が入ります。
提出された新しい論文を開いてみると、驚くべきことに、前年と全く同じ原因、全く同じ思考の癖で不合格論文が構築されているのです。
「去年、ここを修正しようと約束しましたよね?」と指摘すると、また「あ、そうでした。次からは○○するように勉強します」と同じセリフが返ってきます。
このようなパターンに陥っている受験生は、全国に無数に存在します。そして、この状態を放置している限り、3年、5年、あるいは10年と、同じ失敗を何度も繰り返すことになります。
不合格のループから抜け出せない人が陥る「負のスパイラル」
何度も不合格になる人は、下図のような「負のスパイラル」に無意識のうちに嵌まり込んでいます。
【負のスパイラル構造】
不合格という結果が出る
↓
論文の「書き方・テクニック」だけを修正する(表面的な行動変容)
↓
根底にある「間違った考え方」はそのまま残る
↓
本番の試験で、無意識に「古い考え方」に基づいた論文を書いてしまう
↓
再び同じ原因で不合格になる
このスパイラルから抜け出すには、表面的な文章の修正ではなく、もっと深い階層にある「地殻変動」を起こさなければなりません。
なぜ行動を変えるだけではダメなのか?「考え方⇒行動⇒結果の法則」
なぜ、悪い部分を指摘されて「行動(勉強方法や書き方)」を変えようとしているのに、結果が変わらないのでしょうか。その理由は、人間の行動心理における鉄則にあります。それが「考え方⇒行動⇒結果の法則」です。
不合格論文は、あなたが「良かれと思って」書いた結果である
まず、非常に重要な前提条件を受け入れる必要があります。
あなたが本番の試験で書いた不合格論文は、「手を抜いて適当に書いたもの」でも「悪かれと思って書いたもの」でもありません。あなたが試験会場で、限られた時間の中で、「合格するためにこれが最善だ(良かれと思う)」と確信して、全力を尽くして書いた結果なのです。
ここが最も根深い問題です。人間は、自分が「正しい」と信じていることしか行動に移せません。つまり、不合格という結果を引き起こした原因は、あなたの怠惰ではなく、「これを書けば合格できるはずだ」というあなたの脳内ルール(前提条件)そのものが間違っていたという事実に他なりません。
行動の根底にある「前提条件(思考)」を変えなければ同じ結果になる
物事はすべて、以下の順序で発生します。
考え方⇒行動⇒結果
| 要素 | 試験における位置づけ | 変化させるためのアプローチ |
| 結果 | 合格 / 不合格 | 結果だけを直接変えることは不可能。 |
| 行動 | 論文の記述、勉強の進め方 | 考え方が同じままだと、プレッシャーがかかる本番で元の行動に戻る。 |
| 考え方 | 技術士としての視点、試験の本質への理解 | ここを根本的に書き換えることで、自然と行動が変わり、結果が変わる。 |
多くの受験生は、不合格という「結果」を変えるために、「行動(キーワードを暗記する、模範解答を書き写す)」だけを変えようとします。しかし、行動をコントロールしているのは「考え方」です。根底にある考え方が変わっていなければ、試験本番の極限状態において、脳は必ず「自分が最も正しい(と過去に思い込んでいた)馴染みのある行動」を自動的に選択します。結果、前年と同じNG論文を出力してしまうのです。
長年培った「自分の常識」を捨てるストレスと、それを乗り越える勇気
同じ失敗を繰り返す本当の理由は、
「自分の考え方を変えること」が、人間に極大のストレスをもたらすから
です。
技術士に挑戦するエンジニアの多くは、社内でもある程度のキャリアを積み、実績を上げてきた優秀な方々です。これまで自分の仕事において「正義」「常識」として機能してきたルールを持っています。
しかし、技術士試験が求めているコンピテンシー(資質能力)は、一般的な「優秀な作業従事者・担当者」の視点とは一線を画します。合格するためには、長年自分を支えてきた仕事の常識を一度捨て、「自分が間違っていた」と認める勇気が必要になります。システムを総入れ替えするようなこの精神的ストレスに耐えかねて、多くの受験生が「考え方の修正」から無意識に逃げ、楽な「行動(表面的なテクニック)」に終始してしまうのです。
合格圏に到達するために必要な「思考のアップデート」3つのステップ
技術士二次試験に一発で合格する人や、途中で覚醒して見事に合格を勝ち取る人は、試験勉強の過程で「思考のOS(オペレーティングシステム)」を最新のものへとアップデートしています。その具体的な3つのステップを解説します。
【ステップ1】古い固定観念をアンインストールする
まず最初に行うべきは、自分の中にある「担当者レベルの思考」や「これまでの成功体験」をアンインストール(消去)することです。
■「技術の細かな仕様をアピールすれば評価されるはずだ」
■「会社での実績をそのまま書けば認めてもらえるはずだ」
■「設問に直接答えるより、自分の得意な専門知識を多く盛り込んだ方が得点になるはずだ」
これらの、受験生側が勝手に作り上げた「良かれと思う固定観念」を一度綺麗に捨て去り、脳をまっさらな状態にしてください。
【ステップ2】試験制度と「求められる能力」の本質を自問自答する
古いOSを消去したら、今度は技術士法、および文部科学省が提示している「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」という新しいOSをインストールします。
技術士二次試験は、専門知識のコンテストではありません。「高等の専門的応用能力」を持ち、プロジェクト全体を俯瞰して、社会的責任や持続可能性、倫理観を考慮しながらマネジメントできる人物かどうかを判定する試験です。
■「なぜ、この設問で『課題』だけでなく『リスク』や『波及効果』を問うてくるのか?」
■「国(日本技術士会)は、どのようなエンジニアを社会に送り出したいと考えているのか?」
こうした細部まで、試験の本質を徹底的に自問自答し、自分の思考ルールを試験側の基準へと同調(シンクロ)させていきます。
【ステップ3】時代の変化と最新の試験傾向に合わせて思考を更新し続ける
インストールした新しい考え方も、放置すればすぐに陳腐化します。現代は、技術の進歩や社会情勢(DX、カーボンニュートラル、防災・減災、インフラ長寿命化など)の変化が非常に激しい時代です。
一度身につけた合格ノウハウに固執するのではなく、「現在の日本の課題に対して、技術士としてどう向き合うべきか」という視点を、常に最新の状態にアップデートし続ける柔軟性が必要です。
「思考の修正作業」という最大の苦痛を乗り越える具体的な方法
自分の考え方の間違いを認め、修正する作業は、精神的に非常に苦しいものです。この「最大の苦痛」を回避せず、正面から乗り越えるための実践的なアプローチを提案します。
なぜ多くの受験生は自分の「考え方の間違い」から目を背けるのか?
会社組織の中で、上司から言われたことに対して「はい、了解しました」と何も疑問を持たずに無条件反射で従ってきた人や、学校教育の中で「答えは1つであり、それを覚えるのが勉強だ」と信じてきた人は、特にこの傾向が強くなります。
誰かが用意した正解を探す癖がついているため、「自分の頭で、自分の判断基準の歪みを疑う」という作業に慣れておらず、強い拒絶反応(ストレス)を起こして作業を放置してしまうのです。
客観的に自分の盲点を指摘してくれる「正しい指導者」の選び方
自分一人の脳内で自問自答を繰り返していても、元々の基準が歪んでいるため、自力で歪みに気づくのは極めて困難です。心理学でいう「認知の歪み(バイアス)」は、他者の目を介して初めて客観視できます。
そのため、間違った思考を修正するには、「正しい考え方」を的確に、かつ容赦なく指摘してくれる指導者(メンター)を選ぶことが不可欠です。
指導者を選ぶ際は、単に「論文の赤ペン添削をしてくれる人」ではなく、「なぜあなたがその文章を書いてしまったのか、その根本にある思考の癖(原因)を看破し、指摘してくれる人」を選んでください。教えてもらう相手(講座)を間違えると、間違った考え方にさらに間違ったテクニックが上書きされ、状況はさらに悪化します。
【チェックリスト】不合格要因と正しく向き合うための自問自答プロセス
不合格論文や模試の結果が返ってきたら、以下のステップで「思考の公開処刑(自己分析)」を行ってください。
1.【事実の確認】 指摘されたNG箇所、減点されたポイントを書き出す。
2.【行動の動機】 私はなぜ、本番で「この表現・この内容」を書こうと判断したのか?(当時の自分の「良かれ」と思った理由を言語化する)
3.【前提の疑い】 その「良かれ」と思った前提条件は、技術士のコンピテンシー(資質能力)とどう乖離しているか?
4.【思考の書き換え】 次回、同じような局面に立たされた時、技術士としてどのような「考え方」に基づいて判断を下すべきか?
この苦痛な作業をしっかりやり遂げた人だけが、翌年、見違えるような合格論文を書けるようになります。
まとめ:未来を変えるのは今のあなたの「考え方」と「決断」
「過去と他人は変えられませんが、自分と未来は変えられます」
今のあなたの状態(技術士試験に苦戦している現実)は、過去のあなたが積み重ねてきた「考え方」と「行動」の総決算です。であるならば、未来のあなた(技術士として活躍している姿)を変えることができるのは、今この瞬間のあなたの「考え方」と、それを変えるという「決断」だけです。
多くの受験生は、「合格して、自分のキャリアや人生を変えたい」と考えます。しかし順序が逆です。「合格するために、まず自分の考え方(人生・仕事への向き合い方)を変える。その結果として、合格が向こうからやってくる」のです。
技術士二次試験は、単なるペーパーテストではなく、あなたのエンジニアとしての器(マインドセット)を一流へと引き上げるための、最高の試練です。
不合格の原因が分かっているのに結果が出ないと悩んでいる方は、一度、机の上の参考書を閉じ、自分の「考え方の癖」と徹底的に向き合ってみてください。その一歩こそが、負のスパイラルを断ち切り、合格への扉をこじ開ける唯一の鍵となります。
参考:日本技術士会
当講座では、表面的な文章テクニックに留まらず、受験生の「思考のOS」そのものを合格基準へとアップデートするための徹底的な個別指導を行っています。何度も同じ壁にぶつかっている方は、ぜひ一度ご相談ください。


