平成28年度技術士総合技術監理部門必須科目【添削論文付き】

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目次

平成28年度技術士総合技術監理部門必須科目

問題

Ⅰ-2 次の問題について解答せよ。(指示された答案用紙の枚数にまとめること。)
近年,科学技術は急速に進展しており,新しい技術の導入によって様々な事業活動がその内容や形態を変化させている。このような科学技術の進展に関心を払い,それに見合ったより高度な業務を遂行できるように日々努めることは,総合技術監理部門の技術士に要求される重要な役割の1つである。

 そこで,あなたがこれまでに経験した,あるいはよく知っている事業(事業全体若しくはその一部である特定の業務,継続的若しくは繰り返して行う複数プロジェクトの集合体などでもよい。)を1つ取り上げ,その事業において最近の科学技術の進展が引き起こした事業の内容や形態の変化とその影響,及び将来の科学技術の進展に伴ってその事業の内容や形態が大きく変化する可能性とその変化が及ぼす影響や課題などについて,総合技術監理の視点から以下の(1)~(4)の問いに答えよ。ここでいう総合技術監理の視点とは,「業務全体を俯瞰し,経済性管理,安全管理,人的資源管理,情報管理,社会環境管理に関する総合的な分析,評価に基づいて,最適な企画,計画,実施,対応等を行う」立場からの視点をいう。

 なお,定量的な記述が可能なものについては,相対的な表現(「大きい」,「小さい」,「高い」,「低い」など)は避け,できるだけ数値(概略でよい。)を用いて記述すること。書かれた論文を評点する際,考察における視点の広さ,記述の明確さと論理的なつながり,そして論文全体のまとまりを特に重視する。

(1)本論文においてあなたが取り上げる事業の内容を次の①~③に沿って示せ。この際,以後の問い(2),(3),(4)の解答に必要な内容を含めて記すこと。
(問(1)については、問い(2)と併せて答案用紙3枚以内にまとめ、解答せよ。)
①事業の名称及び目的を記せ。
②事業の規模及び担当する組織の人数や構成を記せ。
③事業の置かれている背景状況及び事業上の制約を示し、それを踏まえて事業内容の概略を記せ。

(2)取り上げた事業に最近(必ずしも直近でなくとも,5年前とか10年前でもよい。)導入された技術で,事業の内容や形態に比較的大きな影響を与えたものを1つ取り上げ,この技術導入によって,事業の内容や形態がどのように変化したか,またその変化の影響はどのように評価できるかを,次の①~③に沿って示せ。
(問い(2)については,問い(1)と併せて答案用紙3枚以内にまとめ,解答せよ。)
① 取り上げる技術の名称とその機能及びこの技術が導入された理由を記せ。   
② この技術導入により事業の内容や形態がどのように変化したかを記せ。
③ この技術導入による事業への影響について,その評価をメリット,デメリット,トレードオフ等に留意して記せ。

(3)遠からぬ将来(将来の具体的な時期は問わない.),新技術の導入により,この事業にいま存在する課題の1つが,部分的あるいは完全に解決されるであろう状況について,次の①~③に沿って示せ。
(問い(3)については,答案用紙を替えて1枚以内にまとめよ。)
① 想定する新技術の名称とその機能を記せ。
② この新技術により部分的あるいは完全に解決されるであろう課題を記せ。
③ この新技術導入により課題がどのように解決されるか,また解決されない部分があるとしたらそれは何かを記せ。

(4)さらに遠い将来(将来の具体的な時期は問わない。),より一段と進んだ将来技術(その実現性は問わない。)により,この事業に存在する課題のいくつかが解決され,事業の内容や形態が大きく変化する可能性について,予想される変化の状況及びこの将来技術が導入されたとしても残るであろう課題等について,次の①~③に沿って示せ。
(問い(4)については,答案用紙を替えて1枚以内にまとめよ。)
① 想定する将来技術の名称とその機能を記せ。
② この将来技術の導入により事業の内容や形態がどのように変化するであろうかを記せ。
③ この将来技術が導入されたとしても残るであろう課題・また導入により新たに生じる可能性のある課題を記せ。

参考:日本技術士会

考察

平成28年度の問題の特徴を次に列記します。

○科学技術の進展により、業務内容の変更やそれにともなう種々の課題を見つけ出す
○自分が経験した、あるいはよく知っている事業
○設問が4段階構成である
○答えるべき項目が多い
○課題に対する解決策を要求されていない
○序文に採点基準が書かれている

 この問題は問いが(1)~(4)まであり、その各々の問いに対して①~③の順序での解答を求められています。例年と問題の構成が違いますが、基本的にこの流れに沿って答えていけば合格します。
 取り上げる事業は科学技術の進展により、事業内容や新たな課題が沢山出てくるものが理想となります。ただし取り上げる事業が自分の経験したものになるため、技術による進展が事業に影響を及ぼすことが少ない事業だと論文の作成が困難になります。受験する人の経験により不平等が大きくなる問題です。
 このような受験生は技術の進展による影響等については、架空のものになっても説明できる範囲であれば致し方ないと思われます。
 そして技術の進展の影響を5つの管理にどのようにして落とし込むかがポイントになります。論文の構成が例年と違い面を食らった受験生も多いみたいですが、上述の通りに割り切って設問に答えることができれば事務的に書ける問題です。

模範解答①

1.私が取り上げる事業内容
①-1事業名称
 複数浄水場を遠方から遠隔監視するためのシステムの開発と販売
①-2目的
複数の浄水場を無人化し、かつ、遠方の新中央監視場(以下、新中央)から遠隔で監視操作可能とする。
②-1事業の規模
 国内で本システムを必要としている地域は30か所あり、当社はそのうち10地域の受注を目指している。
②-2組織の人数と構成
 営業部門20名、設計部門30名、製造部門30名、品質保証部門20名、現地工事部門20名、現地調整部門30名、現地施工協力会社3社(各社10~30名在籍
③-1事業が置かれている背景状況
 人口の減少に伴い、自治体経営の効率化が必要とされている。これまで約10名程度の運転保守員で個別に管理していた各浄水場を無人化し、新中央では5名程度で監視する計画である。本システム納入後は、自治体から維持管理業者に、運転保守業務を委託に出すことになっている。
③-2事業場の制約
コスト:事業費低減が顧客要望である
技術:コスト低減の為、メーカ独自の技術や製品でなく、汎用製品や汎用技術を導入することが顧客要望である。
工期:発注の3年後が完成工期である。その後、機能強化や改良工事は必要の都度発注される。
③-3事業内容の概要
・新中央は、各浄水場とは別の市役所等の建物の一部の空きスペースに設置する・各浄水場には新規に信号伝送装置を設置し、浄水場内の各所と信号入出力を行う。信号伝送装置の設置と信号入出力用ケーブル敷設の各工事が発生する。
 (2) 最近導入された技術
 事業内容に比較的大きな影響を与えた技術と、技術導入による事業内容や形態の変化と、その影響について述べる。
①-1取り上げる技術の名称
 デジタル通信技術 
①-2同理由
 従来はアナログ回線であったが、新中央で少人数での運転保守を行うことになったので、多種多様な情報をすばやく監視する必要があるため。
②事業内容や形態の変化
信号伝送装置はこれまでアナログ回線用だったが、デジタル回線用を開発する必要が発生した。
③事業への影響
③-1メリット
[デジタル通信技術のスキル向上(人的資源管理)]
 デジタル通信に関する設計がはじめてだったので、外部の専門技術者と協調して、OFF-JTによる知識獲得と、OJTによる実践力向上を実施した。これにより、設計ミスによる工期の遅延を防止することが出来た。
③-2デメリット
[設計情報の不達(情報管理)]
 デジタル通信による信号入出力装置の設計には、ハードウエア設計、ファームウエア設計、電気設計が並行して業務を進める必要があった。しかしながら、同設計には不慣れであったので、設計作業に必要な各進捗状況が伝達されないことがあった。そこで、毎日夕方に、定型フォーマットに必要情報を記入し各責任者に提出させ、翌朝8時に一日の作業内容を伝達することで、設計情報の不達による工程遅延を防止した。
③-3人的資源管理と経済性管理のトレードオフ
 外部専門技術者による教育訓練は、経済性管理とのトレードオフとなるので、工程に影響しない範囲で実施した。また、コストとのトレードオフとなるが、中長期的に費用対効果が高いので、教育訓練は有効と判断した。
(3) 遠からぬ将来導入される新技術
①-1想定する新技術
 セキュリティ技術の高度化
①-2同機能
 ウイルスソフトのインストールの自動実施
②本技術により解決される課題
 従来は、ウィルス対策ソフトを運転保守員が手動でインストールしていたが、全自動で実施できるようになる。
(一般家庭で使用するパソコンなどでは、ウイルス対策ソフトのインストールは一般回線から自動で実施されるが、自治体が所有する公共性の高いシステムは、一般回線ではなく専用回線でシステムを構築する為、ウィルス対策ソフトのインストールは一般回線からではなく、手動で運転保守員が実施している。)
③課題が解決される状況
・運転保守員の作業が低減できるので、維持管理業者への委託費が提言できる(経済性管理への正の影響)
・運転保守員がウィルス対策ソフトのインストールを失敗することでセキュリティが低下する恐れがなくなることから、浄水場がサイバー攻撃を受ける心配が無くなり、水質基準を満たさない環境負荷の高い水が配水されるリスクが無くなる(社会環境管理への正の影響)
(4) さらに遠い将来導入される技術
①-1想定する新技術
 各浄水場の監視がモバイル端末からでも可能
①-2同機能
 モバイル端末に使用されるバッテリのコンパクト化と大容量化が進み、新中央からでなくても2~3日に渡り浄水場の監視操作が可能になる
②本技術により解決される課題  
災害発生時に、新中央でなくてもモバイル端末から浄水場の監視操作が可能になる。
③本技術導入時の課題
・モバイル端末はコンパクトな画面サイズであるため、新中央での監視画面よりも情報を集約する必要があるが、設計開発スキルが不足している(人的資源管理)。
・バッテリがコンパクトで大容量であることから、新しい素材を使用することが想定され、交換する際の廃棄処理を適切に行わないと環境負荷が大きくなる可能性がある(社会環境管)。
・コンパクトで大容量であるバッテリが高コストになることが想定される。顧客の要望である事業費低減に寄与する為、低コストが必要であることから、QCDのバランスに配慮する必要がある(経済性管理)。以上

模範解答②

(1)取り上げる事業の内容
事業の名称及び目的
a.事業の名称
下水処理場施設の適切な維持管理
b.事業の目的
 流入する下水を適切な水質に処理できるよう、下水道施設を適切に継続維持すること。
c.私の立場
私は本事業を俯瞰的立場から総合的に管理する責任者である。
事業の規模及び担当する組織の人数や構成
a.事業の規模
県の流域下水道事業であり、10の市町村から下水を受け入れて処理を行う。計画対象人口は約20万人、計画汚水量は約30万m3/日という大規模な施設である。
b.担当する組織の人数や構成
私の所属する組織は人員が約30人であり、構成は事務職、また、機械・電気・土木・水質等多種の技術職となっている。
事業の背景状況、制約及び事業内容の概略
a.事業の背景状況、制約
1)組織の財政状況が逼迫しており、本事業の予算も近年減少傾向にある。
2)組織の人員削減が進み、本事業の担当人員も近年削減されている。特に技術職員の削減が目立つ傾向にある。
b.事業内容の概略
本事業では、関係市町村から流入する汚水を適切な水質に浄化できるよう、施設を適切に維持管理することが求められる。
(2)取り上げた事業に最近導入された技術について
①取り上げる技術の名称と機能及び技術導入の理由
a.取り上げる技術の名称
ストックマネジメント技術
b.取り上げる技術の機能及び導入の理由
下水道施設の整備が集中的に行われ、ほぼ同時期に更新時期を迎えることの懸念から、施設の状態を考慮した対策を行うことで、コスト縮減及び事業の平滑化を目的とした技術である。
②技術導入による事業の内容や形態の変化
  従来は施設が停止あるいは重大故障に至ってから対策を行っていた。ここで、点検等により得られた維持管理データをもとに、施設の状態を考慮して対策を行う(予防保全)ことで、効率的かつ効果的な事業形態に変化した。また、維持管理データを体系的に管理するため、施設台帳の電子化やデータベース整備も進み、施設全体の状況を把握しやすい事業形態へと進化している。
技術導入による事業への影響
a.技術導入によるメリット
1)維持管理データの効果的活用
点検等で得た維持管理データを活用し、施設の状態を判断、更新や部品交換等の対策が必要かどうかを意思決定することに有用である。(情報管理面のメリット)
2)事業のLCC改善
また、維持管理段階の不具合等を保全予防として、設計段階にフィードバックすることが可能となる。(経済性管理面のメリット)
a.技術導入によるデメリット、トレードオフ
1)制度変更により時間とコストが必要になる
従来の事後保全から、予防保全を中心としたストックマネジメント技術導入の際は、事業の仕組みの変更のため、時間とコストを要することになる。しかし、維持管理段階での効率性向上は長期にわたる事業にはメリットが大きいため、ぜひ実施すべき対策である。(経済性管理面のトレードオフ)
(3)遠からぬ将来の新技術導入について
想定する新技術の名称と機能
a.新技術の名称
アセットマネジメント技術
b.新技術の機能
施設の状態だけでなく、将来の財政面、人員面等も考慮した計画的事業実施により、適切な事業継続を可能とする技術である。
新技術により解決される課題
将来の社会経済状況の変化は不透明であり、それに伴い、さらなる予算や人員の削減が行われる状態でも事業を適切に実施することが求められる。その際には事業のさらなる効率化が必要になる。
③新技術導入による解決内容及び解決されない部分
a.課題が解決される内容
 限られた予算、人員等で事業を適切に実施するためには、事業の効率化が不可欠であり、本技術導入により事業の効率化を図り、課題を部分的に解決(改善)することが可能となる。(経済性管理面の視点)
b.課題が解決されない部分
 将来の社会経済状況の変化が不透明であり、更なる事業実施の効率化が求められる可能性がある。
(4)さらに遠い将来の技術導入について
①想定する将来技術の名称と機能
a.将来技術の名称
ICT技術の施設への全面導入
b.将来技術の機能
ICT技術が普及・進歩し低コストでの導入と維持が可能になり、本事業の施設にも全面導入した。これにより、センサー、ロボット、ネットワーク等により、施設の維持管理の全自動化が進んだ。
②将来技術の導入による事業内容や形態の変化
センサー等により施設の停止や不具合を検地し、ロボットがその対策を実施する形態となる、人が現場に出る機会はほぼ無くなり、通常時は技術職員の必要性が大きく減少する状況となる。
将来技術導入後も残る課題、新たに生じる課題
a.将来技術導入後も残るであろう課題
機械に絶対安全はないため、システムの停止や故障に対する対応を考慮する必要がある。(安全管理面の視点)
b.将来技術導入により新たに生じる課題
通常時は人が現場に出ることがほぼ無くなり、システムの故障対応時だけとなるため、組織の技術力低減、技術継承が懸念される。(人的資源管理面の視点)以上

模範解答③

(1)取り上げる事業内容
①事業の名称と目的
・名称:除染土壌等の中間貯蔵施設の設置・運営に係る事業
・東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故後、福島県内での除染作業により発生した廃棄物、土壌(以下「除染土壌等」とする)を、県外で最終処分するまでの30年間中間貯蔵する施設の設置及び運営を行うことを目的とする。
②事業の規模及び担当する組織や構成
・福島県双葉町、大熊町にまたがる1,600haの予定地に以下の施設で構成する中間貯蔵施設を設置。
・除染土壌等の受入・分別施設
・放射能濃度8千Bq/kgを超える除染土壌等を貯蔵する土壌貯蔵施設、焼却灰等の10万Bq/kgを超える除染土壌等を貯蔵する廃棄物貯蔵施設
・事業主体である環境省の出資により設置された中間貯蔵施設の運営会社の一部所で、10名程度のメンバーにより施設の設置・運営に管理を担当。施設の設計・建設及び運営に係る個別業務については、ゼネコン、JVに発注・実施。
③背景状況、事業の制約
・施設は福島県の復興の観点から、国の施策として、早急に整備が求められている。
・海外に福島県の復興が着実に進んでいることをアピールするために、2020年の東京オリンピック開催までに、施設を設置し、仮置場に保管されている除染土壌等の搬入完了させることが求められている。
・福島県、地元自治体に施設の受入条件として、事業開始から30年以内に除染土壌等の最終処分するために、県外に持ち出すことが求められている。
・一方、地権者の同意取得が難航しており、2016年7月時点で取得できた用地は1,600haの一割程度である。
以上のように、工期が決まっていること、用地取得の問題から、中間貯蔵に係る全ての施設を一度に整備し、除染土壌等を搬入することは困難な状況にある。このため、取得できた用地において、施設を段階的に整備せざるを得ない状況にある。
(2) 最近導入された技術、事業内容や形態変化
①取り上げる技術の名称、機能と導入された理由
・技術の名称:除染土壌等から草木等の可燃物の分別、仮説焼却による減容化技術。
・機能と導入理由:除染土壌等のうち可燃物を分別・減容化する機能を有し、施設における貯蔵量を減量化が可能であるため。
②技術導入による事業の内容や形態の変化
・分別、仮設焼却により、高濃度の廃棄物を貯蔵する施設が必要となってくること。
・貯蔵量が減少するため、当初計画よりも施設の規模及び面積を縮小することができる。
③事業への影響の評価
・福島県内では他の地域において仮設焼却施設が設置されており、運用実績がある。
・分別施設、焼却炉の設置が必要になるものの、施設の規模・面積が縮小できるため、総事業費を低減できる経済性の面でのメリットが生じる。
・除染土壌等の組成は一定ではない。このため、分別処理工程のうち破砕処理でトラブルが発生し、技術的課題となっている既設仮設焼却施設もある。
以上から、仮設焼却施設の導入により事業のトータルコストが低減される一方で、トレードオフとして以下の点が課題として残される。
・経済性の面から施設稼働率が低くなる可能性あり。
・破砕処理での事故発生に伴い作業安全への影響、社会環境への影響が発生する可能性がある。
このため施設の運用に当たり次の点に留意する必要がある。
・情報管理部署を設置し、他の仮設焼却施設の運用に係る情報を収集し、破砕処理のトラブルの特定、施設の運用に活用する。
・収集・整理した施設運用に係る情報をもとに、人材育成の観点から、施設運用、安全対策について作業員への教育を実施する。
(3) 新技術の導入により解決される状況
①想定する新技術の名称と機能
・技術の名称:放射性セシウムの分級技術
・機能と導入理由:除染土壌等に含まれる放射性セシウムを分級する機能を有する。導入理由は、除染土壌等の減容化が可能となるため。
②新技術により解決されるであろう課題
貯蔵量が低減されるため、用地取得が計画どおりに進まない場合でも、取得した用地のみで貯蔵が可能となる。
③課題解決の過程、解決されない課題
除染土壌等の減容化により中間貯蔵量を低減できる。このため、施設の面積・規模の縮小が可能になる。さらに、施設に係るトータルコストの低減が可能になる。
減容化が可能となる一方で、放射能濃度の高い廃棄物が発生するため、その貯蔵方法、施設が技術的課題となる。
また、放射能濃度の高い廃棄物の貯蔵に係る経験が不足していることから、施設運用時の事故に伴う作業員の安全、社会環境への影響が課題となる。
以上から、情報管理部署において放射能濃度の高い廃棄物の貯蔵に係る情報を収集し、貯蔵施設の設置・運用に活用し、この情報を基に作業員の教育を行う必要がある。
(4) 将来技術により解決される課題、残される課題
①想定する将来技術とその機能
・将来技術:高濃度の廃棄物の固化技術
・機能:廃棄物中の放射性セシウムが溶出しにくい形態で固化する。
②将来技術の導入による事業内容や形態の変化
事業期間中における放射性セシウムの溶出などの高濃度の廃棄物の貯蔵・管理に係るリスクが低減され、長期間の保管が可能となる。
除染土壌等、主灰などの形態の廃棄物に比べて、最終処分のための取り扱いが容易になる。
③残される課題、新たに生じる可能性のある課題
長期間の保管が可能な形態であるため、最終処分のために県外から運び出す動機が働かない事態が生じる可能性がある。このような事態に対して、次の点が課題となる。
・最終処分地選定に係る手続きづくり
・廃棄物を30年以上保管する場合の安全確保
これらの課題に対して以下の対応が必要となる
・リスコミ部署を設置し、最終処分地の立地選定に係る手続き検討のための人材の確保・育成を図り、事業主体である環境省への政策提案・支援の実施
・情報管理部署において長期保管に係る情報を収集し、この情報を基に施設の安全確保について検討。以上

不合格論文例

 この論文は総監の視点で書かれている論文ですが、問題文の趣旨と合致せずに不合格になったものです。新技術の導入ではなく、単に機械設備の導入という視点で書かれたと判断されています。28年度の問題は、このように総監の視点で書かれていても、新技術でないと判断されれば不合格にされているようです。新技術という誰でもわかるキーワードについては、その定義にそぐわないと判断されれば、その時点で不合格になります。
 赤字でコメントを付けた箇所が、不合格だと判断されたところです。総監的な視 点で書かれている論文なだけに残念です。

(1)取り上げる事業の内容
①事業の名称及び目的
①-1.事業の名称:更新を兼ねた新たな下水処理場の建設。
①-2.事業の目的:老朽化した2つの処理場の統合を兼ねて新たな処理場を建設するものである。
②事業の規模及び担当する組織の人数や構成
②-1.事業の規模:現在50万人と30万人の人口を有するA市・B市個別の処理場を統合する流域下水道となる。
②-2.担当する組織の人数や構成:流域下水道計画うち、処理場の計画・建設を担当する組織であり、合計で30人の計画・建設担当グループで構成される。
③事業の置かれている背景・制約・事業の概要
③-1.背景:現在はA市・B市ともに単独で処理場を運営している。処理場は両者ともに建設後50年以上が経過しており、各設備の老朽化による停止など、機能の低下が著しい。
③-2.制約:事業実施上の制約を以下に述べる。
・処理場は停止できない施設であるため、新処理場の完成後に、機能停止することなく処理場の機能を新処理場の移行しなければならない。
・計画から完成までの工期は、7年間とする。
③―3.概略:A市・B市ともに処理場の更新時期を迎える。また、両者ともに少子高齢化により世帯数が減少し続けているという共通の問題を有している。そのため、イニシャルコストとランニングコストを削減できるメリットがある、処理場を統合して建設する事業が実施されることとなった。
(2)最近導入された技術
①新技術の名称・機能・技術が導入された理由
①-1.技術の名称:下水汚泥消化ガス発電設備の導入。
①-2.技術の機能:下水処理場で大量に発生する汚泥を利用して、付加設備として追加した汚泥消化ガス発電設備により発電を行い、下水処理場で使用している電力の一部を賄う。
①-3.技術が導入された理由:下水処理場は24時間休みなく動き続けており、大量に電力を消費している。そのため、間接的に温室効果ガスを排出している。温室効果ガスの排出を抑制し、環境負荷を低減するために汚泥消化ガス発電設備が導入された。
②技術導入による事業の変化
 汚泥消化ガス発電設備の導入による事業の変化は、下水処理場のような公的な機関が、未利用エネルギーや再生可能エネルギーを積極的に導入することで観光負荷低減のトップランナーとして推進していくことが可能となることが考えられる。
③技術導入よる事業への影響
③-1.技術導入によるメリット:汚泥消化ガス発電設備を導入することによるメリットは、電力料金が削減できるため、電力購入コストが削減できることである。また、温室効果ガスの発生抑制により、環境負荷を低減できる点もメリットとして考えられる。
③-2.技術導入よるデメリット:汚泥消化ガス発電設備導入によるデメリットは、設備が付加されることにより維持管理工程が増えることである。
③-3.技術導入によるトレードオフ:汚泥消化ガス発電設備の導入にはイニシャルコストが必要となり、コスト増加を招くため、経済性管理と社会環境管理とのトレードオフとなる点に留意する必要がある。


コメント
下水汚泥消化ガス発電設備の導入が新技術ではなく、単に発電設備を導入するものだと判断され不合格になったと考えられます。以下の技術の機能や導入された理由、事業に与える影響についても、新技術によるものではなく発電設備を導入したものだと読み取られています。


(3)導入が予想される新技術
①新技術の名称と機能
①-1.新技術の名称:各設備のユニット化等によるダウンサイジングを可能とする技術。
①-2.新技術の機能:現在ではユニット化や小型化ができない設備を、新技術により可能とする。それにより、下水処理人口の縮小に対応した各設備のダウンサイジングが可能となる。
②新技術導入により解決される課題:新技術の導入により解決される課題は、下水処理人口の減少による既存施設能力の過大化である。
③解決理由と解決されない部分
③-1.解決理由:人口減少が進行する中でも、処理場の能力は現在のピーク人口を基に決定される。それにより、将来人口が減少すると施設能力が過大となってしまう。それに対して、各設備のダウンサイジングが可能となる新技術を導入することにより、下水処理人口に合致した適切な施設の運営が可能となり、QCDのバランスが確保できる。(経済性管理の視点)
③-2.解決されない部分:ダウンサイジングのためには工事が必要となることも考えられる。新技術を採用したことにより、作業員のミスが頻発することが考えられる。そのため、労働災害の発生が課題である。
(4)導入が予想されるより一段進んだ将来技術
①将来技術の名称と機能
①-1.将来技術の名称:維持管理のための人間型ロボットの導入。
①-2.将来技術の機能:現在人間が行っている維持管理のための作業を、話題となったソフトバンクのペッパーの様な人間型のロボットが行う。
②将来技術の導入による事業の変化
 維持管理ロボットの導入によって、人が行う作業はロボットの補佐的な仕事で済む。そのため、従来は力仕事であるため主に男性が従事していた仕事が女性でも行えるようになるため、人の活用が図れる。(人的資源管理の視点)
③将来技術導入を導入しても残る課題・新たな課題
 ロボットが導入されて、人が行う作業量や工程が減ったとしても、災害時や緊急時などに現状に最適な判断を行うことができるのは人間に限られる。そのため、災害時などの体制の構築が課題である。
(5)おわりに
 今後ますます事業に新技術が導入されることより、様々な影響が生じることが考えられる。私は、総合技術監理の視点から最適な対応策を策定できるよう、今後も研鑽を続ける所存である。 ―以上―

日本技術士会HP

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この記事を書いた人

横浜すばる技術士事務所代表
技術士(建設部門ー施工計画、施工設備及び積算) (総合技術監理部門)
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