経済性管理(その5)

山下公園
目次

2.5 設備管理

設備管理は、設備を通して企業などの組織の生産性を高めることを目的とした管理活動である。そのため、設備に関する投入と産出の比率を高める必要がある。投入は、設備の取得にかかる投資額、運転費、保全費などを、設備の一生涯(ライフサイクル)におけるコストとして評価する。産出は、設備が所与の技術的条件を満足しつつ、稼動が維持されることで得られる利益として評価される。
 設備に対する要求事項は大きく3つに分類することができ、設備の管理特性と呼ばれる。以下に示すこれらの特性は、設備管理を実際に運用するときの管理尺度となるものでもある。
(1)設備の信頼性
   設備が故障しないことである。設備の故障は、作業者の意欲減退を招くことになり、場合によっては危険な状況に晒すことになる。
(2)設備の保全性
   故障した場合でも、短時間で修理することができることである。
(3)設備の経済性
   管理費用が安いことである。
  設備管理は、設備が生まれるまでの調査研究、設計、製作、設置の段階における設備計画と、生まれてからの運転、保全、廃却、更新の段階における設備保全を併せた、設備のライフサイクルの管理を意味する。ここで重要なことは、設備計画と設備保全を完全に分離して考えないことである。保全しやすい設備を作るには、設備の設計において日頃の保全活動で蓄積した知識を反映することが必要であり、これは設備計画と設備保全を一体の管理システムとして総合的に取り扱うことにより初めて可能となる。
 しかし、このような考え方は近年になってから出てきたものであり、従来は設備保全に重点を置いた管理が行われてきた。つまり、第二次世界大戦前には、不具合が生じてから修理すれば良いという、事後保全に力点が置かれていたのである。戦後になって、設備の点検や改良などが重視されるようになり、予防保全や改良保全の考え方が定着してきた。高信頼性設計に代表される保全予防の考え方が出てくるのはその後のことである。

2.5.1 設備計画

設備計画(もしくは設備投資計画)は、本来経営戦略の一環として計画されるものであり、それらは事業計画(資金計画や利益計画などを含む)に基づいて策定される。個々の設備に関する設備計画は、調査研究、設計、製作、設置のプロセスを踏むものであるが、計画段階で最も重要なことは、経済性分析に基づいて設備投資計画を立案することである。
 設備計画において策定される設備投資を目的別に分類すると、次の4つに分類できる。
(1)取替投資
  老朽化ないし陳腐化した設備を、同じ生産能力を持つ新設備に取り替え、コスト低減を図るための投資である。
(2)拡張投資
  現製品の生産能力ないし販売能力の増大を図るための投資である。
(3)製品投資
  現製品を対象とした改良投資と新製品を対象とした開発投資に分けられる。改良投資は、製造中の製品を改良し品質向上や原価引き下げを行う場合の投資である。開発投資は、新規に製造を始める製品や現製品の性能を大幅に引き上げる場合の投資である。
(4)戦略的投資
  リスク減少投資と厚生投資に分けられる。 リスク減少投資は、組織の存続を脅かすリスクを減少させるための投資であり、さらに防衛的投資と攻撃的投資に分けることができる。厚生投資は、従業員の福利厚生施設への投資などの他、公害防止や環境保全のような地域社会に貢献する投資も含まれる。
 設備投資計画を策定するための経済性分析では、異なる時点での資金の収支を取り扱うため、それらを等価換算して計算する必要がある。

2.5.2 設備保全

設備保全は、設備を通じた生産性向上のための管理活動のことである。設備が導入された後の運転、保全、廃却、更新の段階が対象であるが、より広い意味を込めて生産保全とも呼ばれる。設備保全の手段は、大きく分けて以下の4つに分類されるが、一部は設備計画段階からの活動も含まれている。
(1)事後保全
 故障停止または有害な性能低下に至ってから修理を行う保全方法である。またさらに、事後保全は以下の3つの方式に分類できる。
① 緊急保全
主として予防保全に重点を置く設備が突発的に故障停止したとき、口頭連絡により直ちに修理を行うことを指す。
② 計画事後保全
  仮に故障しても代替機により作業を代替できる場合や、あえて故障してから修理した方が保全に掛かるコストを抑えられる場合の保全方法である。
③ 非計画事後保全
  予防やコストの概念が乏しく、成り行き任せに近い事後修理のことを指す。
(2)予防保全
 設備の点検などによる予防に重点を置いた保全方法であり、以下の3つの方式がある。
・日常保全
  清掃・給油・増締めなどにより劣化を防ぐ活動、点検による劣化測定活動、小整備による劣化復元活動が含まれる。
・ 定期保全
  従来の経験から周期を決めて点検する方式、定期的に分解・点検して不良を取り替えるオーバホール型保全方式がある。
・ 予知保全
  設備の劣化傾向を設備診断技術によって管理し、保全の時期や修理方法を決める方法である。
(3)改良保全
 同種の故障が再発しないように改善を加え、設備上の弱点を補強することを言う。故障しないように改善することが本質であり、前述した事後保全とは異なる。
(4)保全予防
 設備を新しく計画する段階で、保全予防(Maintenance Prevention;MP)情報や新しい技術を取り入れて、信頼性、保全性、操作性、安全性などを考慮して保全コストや劣化損失を少なくする活動である。つまり、設備の調査研究・設計段階から保全活動の経験を反映させ、最初から信頼性の高い設備にするということである。この活動は、設備計画段階を含めた活動となるものであり、MP情報の収集と活用が重要となる。
   近年では、設備の保全性も総じて向上しており、致命的な故障が起きることは少なくなっている。しかし、特に工場などでの自動化は急速に進展しており、小停止問題(チョコ停問題)が重視されるようになっている。これは、ちょっとした生産の停止などを意味するものであり、従来は現場対応に依っていたが、現在では設備の設計段階からの根本的解決を重視するようになってきている。

2.5.3 TMP

TPM(Total Productive Maintenance)は、全員参加の生産保全を意味している。
 日本プラントメンテナンス協会では、次のように定義している。すなわち、「生産システム効率化の極限追求(総合的効率化)をする企業体質づくりを目標にして、生産システムのライフサイクル全体を対象としだ災害ゼロ・不良ゼロ・故障ゼロ”などあらゆるロスを未然防止する仕組みを現地現物で構築し、生産部門をはじめ、開発、営業、管理などあらゆる部門にわたって、トップから第一線従業員にいたるまで全員が参加し、重複小集団活動により、ロス・ゼロを達成すること」である。
 ここで、重複小集団活動とは、一般の自由な小集団活動とは異なり、定常組織に組み込まれ、組織方針に沿って保全活動を展開するものであり、職制活動そのものと言える。
それにも関わらず、小集団活動を重視するのは、その自主性と継続性に期待するからである。
 TPMの活動構造を以下に整理する。
(1)階層軸
 ① 経営階層レベル
 戦略的問題を取り扱う。例えば、設備の内部開発を行うかどうかの意思決定などが挙げられる。
 ② 中間階層レベル
 組織構造の問題を取り扱う。 TPM の活動は、従業員の意欲に依存しており、小集団の編成、職務設計、教育・訓練などに関する決定が重要な問題となる。
 ③ 下位階層レベル
 日常の生産に伴う品質、コスト、納期が中心となる。従業員の安全確保や動機付けも重要な問題である。
(2)生涯過程軸
 TPMは、生産システムの調査研究・設計に始まり、製作、運転、保全にいたる生涯過程に活動範囲を拡大し、高い生産性の確保を目指す。ライフサイクルでのコスト最適化の考え方には、生涯過程の視点が必要であるし、設備に関しては、
 調査研究・設計段階では保全予防、運転段階では予防保全、改良保全などのように、保全方式を計画的に実施する必要がある。
(3)保全活動軸
 TPMが設備から生産システムにその対象を広げても、保全の視点は変わらず重要である。保全の基本は劣化への対応であり、このための保全活動には、劣化防止、劣化測定、劣化回復の3つの活動がある。なお、劣化には設備の使用に伴って構成部品が物理的に性能低下する場合(磨耗、疲労、変形など)と、新設備の出現に伴い相対的に性能低下する場合(陳腐化、旧式化)がある。
 ① 劣化防止
 劣化は時間経過とともに増大するが、なるべくその進行を遅らせる活動
 ② 劣化測定
 現在の劣化進行程度、将来の劣化進行程度を把握する活動
 ③ 劣化回復
 劣化を元の状態に戻す活動(復元)及び本来あるべき状態に戻す活動(開発・設計・改良も含む)
   TPMでは、保全活動を保全担当者の仕事に限定せず、従業員全員の仕事としていることは重要な点である。この考え方は、自主保全と呼ばれる。
参考:日本技術士会

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この記事を書いた人

横浜すばる技術士事務所代表
技術士(建設部門ー施工計画、施工設備及び積算) (総合技術監理部門)
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