人的資源管理(その1)

ウェスティンホテル横浜

組織やプロジェクトにおいて、その所与の目的を達成するためには、関係する人的資源、つまり構成員の能力を最大限に発揮させるように適切な運営を行うとともに、継続的に構成員の能力開発を行っていく必要がある。労働関係の法体系によって定められた規定を遵守することは当然であるが、より良い職場環境を提供するためには、それぞれの職場環境に応じた管理を実践し人的資源の活用計画を図ることが求められる。
 また、人の能力は常に一定ではない。環境や教育訓練によって個人的な能力は向上するものであるし、職場のある単位による活動などによってグループとしての能力向上も期待できる。
 総合技術監理を行う技術者に要求される人的資源の管理技術は、労働関係の法体系を遵守しつつ、より良い労務管理を実現するための技術及び人的資源の最適な活用とその継続的な能力開発を促すための技術である。

目次

3.1 人の行動と組織

人の管理やそのための組織について考える際には、人の特徴をある程度単純化したモデルとして捉えることも必要となる。ただし、人の行動モデルは様々であり、必要に応じて使い分けることになる。人の行動モデルには、「情緒的に行動する」または「合理的に行動する」などの考え方がある。また、「人間は生来仕事がきらいだ」と考えるか「自ら進んで考え行動する」と考えるかによって対応も異なるが、現代の組織運営は基本的に後者の考え方に基づくべきとされている。前者の考え方は科学的管理法を背景としているが、これは作業分析や動作分析に基づいて従業員への適切な仕事の割り振りを検討するものであり、今日の効率的な生産方式の基礎となる画期的な考え方である。しかし、人の管理という意味では、人を機械の一種のように捉える一面もあり、現代では職場の人間関係をより重視する人間関係論、さらに進んで人の行動を様々な内的・外的条件から考える行動科学的アプローチの重要性が強調されている。

3.1.1 人の行動モデルとインセンティブ

組織やプロジェクトの管理においては、人を扱うことは不可欠である。しかし、管理を行っていくためには、人を非常に複雑なものとして捉えるのではなく、ある程度単純化した人の行動モデルとして捉えることになる。この人の行動モデルは、状況に応じて使い分けることになるが、人間関係が与える影響も大きく、あまりに単純化しすぎると現実にあてはまらなくなる。
 代表的な人の行動モデルには、マグレガーによるX理論とY理論がある。基本的に性悪説に立つものがX理論、性善説に立つものがY理論であり、現代の組織運営ではY理論に基づいたやる気を引き出す管理が適しているとしている。 20世紀初頭に誕生した科学的管理法は、作業分析や動作分析を基に効率的な生産方式を考える画期的な方法論であったが、一面では人の作業を機械視し規格化していくことに力点が置かれる。マグレガーの考え方は、この科学的管理法から、人間関係論を包含し行動科学的アプローチへと発展していく流れと捉えることができる。
 しかし結局は、人々がなぜ働くのかという根本の問いから出発することが、人を管理する上では欠かせない視点である。つまり、労働意欲、達成意欲、協調意欲を引き出す源泉であるインセンティブを与えることが重要となる。組織として与えるインセンティブは以下のように分類できる。
(1)物質的インセンティブ
   給与や賞与などの報酬や褒賞で報いることにより、人間の物質的な欲求を満たすようなインセンティブを与える方法である。
(2)評価的インセンティブ
   組織内での行動を、評価、賞賛などの形で評価することによってインセンティブを与える方法である。(3)人的インセンティブ
   職場で接する人々(特に上司)の人間的魅力、居心地の良さ、組織への所属意識の向上によってインセンティブを与える方法である。
(4)理念的インセンティブ
   思想や価値観の追求を達成意欲の源泉とするようなインセンティブを与える方法である。
(5)自己実現インセンティブ
   組織が常に自分をより良い方向に育成してくれている、また達成感を持って仕事を行っていると思えるような自己実現のためのインセンティブを与える方法である。
 これらのインセンティブの与え方は、適切に運用されて初めて効果を持つものである。

 人間の行動には、経済的行動、情緒的行動、管理的行動の3通りのパターンがあると言われている。経済的行動とは、自分にとって最も有利な行動をとるといった利己的な行動であり、情緒的行動とは、集団の雰囲気に左右されやすく、感情に支配された行動である。最後の管理的行動は、組織の利益を考慮し、合理的な思考に従った行動のことである。これらの行動パターンは、一人の人間の中でも状況に応じて使い分けられており、性格も影響するものである。これらの行動パターンに応じて適切なインセンティブを組み合わせることが必要となる。
 マズローは、人間の欲求には5段階あるとし、それは物質的欲求、安定欲求、連帯欲求、周囲からの尊敬欲求、自己実現欲求であるとしている。これらの欲求を満たすようにインセンティブを与えることも重要である。

3.1.2 組織形態と組織文化

組織とは、複数の人間により構成され、個々の能力と意欲を集約して、目標を達成するための仕組みである。組織においては、構成員の間で様々な分業や調整が行われており、組織形態とはこの組織における分業と調整の体系のことを示す。組織における分業と調整の大筋を決めるためには、分業関係、部門分化、権限関係、伝達・協議関係、公式ルール化の5つの要素について、明確に定めることが必要である。代表的な組織形態には次のようなものがある。
(1)職能別組織
   多くの中小企業や単一事業型の大企業などはこの組織形態を採用している。職能別組織は、職能的な専門毎に組織の構成員を配置した組織であり、組織の基本職能毎に部門を設けている。
(2)事業部制組織
     複数の事業を営む企業の多くは事業部制をとっている。事業部制とは、組織のある事業に関わる構成員を営業から研究部門まで、全て一つの部門にまとめる組織である。
(3)マトリックス組織
   職能別組織も事業部制もそれぞれ特徴があるが、マトリックス組織とはその2つを併せたような組織である。組織の全体的な編成原理について一つの軸を中心にとるのではなく、職能と事業の二元的な組織編成を行うものである。
    組織文化は、企業の場合には企業文化、組織風土、社風とも呼ばれる、組織の構成員が共有するものの考え方、ものの見方、感じ方などである。ものの考え方、ものの見方などについては、価値観、信念、行動規範の3要素からなる。組織形態がハードとすれば、組織文化はソフトに相当する。
 このように組織文化は、組織の構成員の行動や考え方、意思決定に大きな影響を及ぼす。そして意思決定や行動を素早くさせる他、組織の目指す方向に沿った形で意思決定または行動させるという機能を持つ。しかし、組織文化は同時に思考様式の均質化と自己保存本能をもたらすというデメリットを持つ。前者の傾向が強まれば変化への対応がし難く、後者の傾向が強まれば組織の存続ではなく組織文化の存続を優先させてしまう恐れが出てくる。組織文化には様々なタイプがある。以下に代表的な例を示す。
(1)挑戦タイプ
   変化をチャンスとして受け止め、積極的にイノベーションを引き起こそうとする。
(2)トップ主導タイプ
   強い権限を持つトップが牽引していく。変化に対して柔軟に対応でき、小回りも効く。
(3)分権管理タイプ
   権限を分権化し、成果を管理することで協働を図る。
(4)巨艦タイプ
   皆の知恵を集めながら合議制で物事を決めていく。安定した組織であるが、変化への対応が遅れる恐れもある。

3.1.3 リーダーシップ

組織の中で、リーダーは様々な行動や決断を行う。組織の中の様々な部署のリーダーが発揮する機能や役割をリーダーシップと言う。
 リーダーに必要な資質として、徳や決断力など様々な考え方があるが、PM理論によれば、組織の目標達成や課題解決に関する機能(Performance)と組織の維持を目的とする機能(Maintenance)の両者をともにバランス良く持つ者が優れたリーダーだと考えることができる。しかし、どのような環境でも優れたリーダーシップを発揮できるリーダー像というものはないし、優れたリーダーは各環境によって異なるとも言える。
 基本的なリーダーシップの機能としては、以下のものが挙げられる。
 (1)組織の代表
 (2)内外環境の洞察
 (3)目標の明確化
 (4)構成員への動機付け
 (5)組織の維持
 (6)成果の達成
     リーダーは、その集団において構成員に影響を与え、協働を促進することが求められる。それには、その集団の構成員に十分な影響を与えることができる影響力が必要である。影響力の源泉となりうるものは、情報、知識、好ましい対人関係、優れた実績、評判、公式の権限、必要とされる諸資源を集めることができるネットワークなどである。
参考:日本技術士会

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この記事を書いた人

横浜すばる技術士事務所代表
技術士(建設部門ー施工計画、施工設備及び積算) (総合技術監理部門)
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