1.総合技術監理の要求内容と技術体系(その2)

風見鶏
目次

 1.3 総合技術監理における総合管理技術

総合技術監理では、経済性管理、人的資源管理、情報管理、安全管理、社会環境管理の5つの管理を独立に行うのではなく、互いに有機的に関連づけて、あるいは統一した思想のもとで行う必要がある。しかし個別の管理から提示される選択肢は互いに相反するものであったり、トレードオフの関係にあったりすることが多い。
 そこで、これらの統一的な結論の提示、もしくは矛盾の解決・調整を行うための管理技術を総合管理技術とする。しかし、現状ではこのような管理技術として統一的に適用可能な方法論は確立されていない。
 しかしながら、比較的体系化が進んだ技術として利用されているものとして、いくつかのアプローチが存在している。経済性管理の立場からは、総合的品質管理と組織経営戦略の策定を結び付ける方法、管理会計の考え方による方法がある。また、与えられた選択肢(代替案)の中から最も望ましいものを選択するための方法論である意思決定論の考え方を適用する方法もある。安全管理の立場からは、組織経営戦略におけるリスクの視点からマネジメントを統合的に捉えるリスクマネジメントを適用する方法がある。
 これらの総合管理技術は、総合技術監理全体を総括する枠組みとして位置付けられているものではないが、5つの管理技術の中で共通に、あるいはその調整のために使用されるべき考え方である。従って、個別の管理技術において使用している用語や内容と総合管理技術において使用している用語は必ずしも同一ではない。総合管理技術における概念をそれぞれの管理技術の中で確立されている概念に適用して理解されたい。

 以下では各々の総合管理技術を簡単に紹介している。これらの管理技術は単独で用いられるというよりは、組織の実情や時代の変遷に伴って、あるときはいずれかを重視した組織運営を行う場合もあれば、いくつかを組み合わせることにより相乗効果の実現を目指すといった活用がなされるものである。しかしいずれの場合でも、経済性管理、人的資源管理、情報管理、安全管理、社会環境管理それぞれの管理項目を総合的に勘案し、組織毎もしくはプロジェクト毎に重要性や優先順位を判断することが重要である。

1.3.1 総合管理技術としての総合的品質管理

企業などの組織における活動の多くは、分業を基本として成り立っている。そのため、組織活動が有効であるためには、組織の各構成要素が有機的に調和を保って機能する必要がある。このような組織を実現するためには、組織の構成員全員が組織目標を共有し、共通理解を基に活動することが求められる。
 総合的品質管理では、顧客の要求品質を経済的に満足することが共通目標となり、経営層から現場までが共有すべき目標としている。総合的品質管理では、経営層から現場までが一体感を持つことが可能となる分かりやすい考え方を精神的基盤としていることに特徴があり、組織運営を円滑化する役割を果たしている。
(1)品質第一
(2)プロセス重視
(3)事実に基づく
(4)人間性尊重

1.3.3 総合管理技術としての意思決定論

意思決定とは、行為を遂行するに際し、いくつかの行為の代替案の中から一つを選択することである。組織における意思決定は、通常次のようなプロセスで行われる。
 (1)情報の収集 
 (2)代替案の設計
 (3)選択
 (4)再検討
   選択した代替案の実行結果の分析及び再評価
 ここで特に重要なのは、①目標を達成すると考えられる代替案を列挙し、②各代替案が生み出すであろう結果を予測し、③予測された結果を目標に照らして評価し効用指標を得るという過程である。このとき、各代替案に対する結果を予測しなければならないが、このとき大きく分けて次のような状況があり得る。
(1)確定条件下の意思決定
   ある代替案を選択したとき、ある特定の結果が生じることが明らかな場合
(2)リスク条件下の意思決定
   ある代替案を選択したとき複数の結果が生じる可能性があるが、それらの結果が生じる確率が既知の場合
(3)不確実条件下の意思決定
   ある代替案を選択したとき、起こり得る結果の集合はわかるが、個々の結果の起こり得る確率が未知の場合
(4)その他
  ある代替案を選択したとき、起こり得る結果の集合すらわからない場合

 ある代替案を選択したとき、その結果がどの程度望ましいかを示す満足度が効用(utility)である。
 目標を達成すると考えられる全ての代替案を列挙できれば、それらの結果を予測し、その効用を比較することで最適決定を行うことができる。確定条件下の意思決定では、各選択の結果が知られており、その効用もわかるため、どの代替案を選ぶべきかはほぼ自動的に決まる。リスク条件下の意思決定では、通常、期待効用(既知の確率分布に従って効用の期待値をとる)が計算され、それが最も大きい代替案が選択される。不確実条件下の意思決定では、意思決定者の悲観・楽観などいろいろな立場から複数の決定ルールが存在しうる。ゲーム理論のミニマックス原理(各代替案の最悪事態を想定し、その最悪の程度が最も小さい代替案を選択する保守的な考え方)などもその一つである。
 このような最適決定を行うためには、全ての代替案が分かっていなければならない。

 しかし全ての代替案を知るためには相当の努力が必要で、それによって得られる追加の効用はそれほど大きくはない。そこで、代替案を一つずつ検討し、そこから導かれる結果の効用がある満足水準を超えた代替案が見つかればその代替案で満足する、という形の意思決定方法が満足決定である。このような方法は現実的ではあるが、結果の予測とその効用の評価を十分に行う必要があることは当然である。

1.3.4 総合管理技術としてのリスクマネジメント

 リスクマネジメントは、各分野でそれぞれの目的によって様々に使用されているが、総合管理技術としてのリスクマネジメントは、企業などの組織、あるいは組織の活動に潜在する不確定性のある事項を整理・分析し、組織のリソースの範囲で最適な対処法を検討・実施することである。
 リスクマネジメントを実施するためには、リスクの概念を理解することが重要である。
 リスクには、品質や設備などの経済性管理の失敗に起因するものから、人や情報の管理の失敗に起因するもの、自然災害に起因するもの、労働災害や環境汚染の発生まで、本書の各章で述べている各管理の全てに関連するものである。リスクを発見、特定、認識し、その対策として保有、低減、回避、移転のいずれを選択するのかを検討しなければならない。
 
組織においてリスクマネジメントを実施する場合に必要な前提は、自組織内にいかに多くのリスクが存在するかを知ることである。このリスク特定を行うに際しては、その前提を明確にすることが求められる。組織全体に対してリスクマネジメントを実施しようとするのか、あるいは特定の部署にのみに限定して実施するのか、検討の範囲を明確にしておくことが必要である。その上で自組織にとって対応の必要なリスク特定を行うことが求められる。

 企業などの組織やその活動には、組織に正の影響(利益、社会的評価など)をもたらす事項と同時に負の影響(事故や損失など)をもたらすリスクが潜在している。リスクマネジメントは、何を望ましくない事象として考えるかという基本的な問題提起を含むものである。その考え方を基にして、施設の保守点検などの工学的安全活動をはじめ、組織内の管理活動の優先順位付け、組織改革などの様々な活動が実施されている。

  1回のトラブルが全組織的マネジメントに大きな影響を与えかねない現状では、潜在するリスクを予測し、限られた経営資源を有効に使用するシステムを確立する必要が生じている。さらに、組織の社会的責任が求められ、そのリスクへの対応手段として適正なリスクマネジメントの実施を必須とする傾向にあることも、日本におけるリスクマネジメントヘの要求の高まりの背景となっている。

 日本の社会風土は、確率的評価を含む合理的意思決定を受け入れる土壌が育ちにくく、安全と危険の二元論に陥る傾向がある。結果的に、リスクを伴う事象やその原因となっているハザードを様々な手段によって特定の環境に封じ込め、顕在化を防ぐ方策に特に力点が置かれて来たとも言える。リスクマネジメントは確率的思考やトレードオフ型意思決定を要求するものであり、リスクを封じ込めることはリスクマネジメントの一手法ではあるが、それだけに頼る旧来の手法の限界が指摘されている。
参考:日本技術士会

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この記事を書いた人

横浜すばる技術士事務所代表
技術士(建設部門ー施工計画、施工設備及び積算) (総合技術監理部門)
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