問題
Iー1我が国の人口は2010年頃をピークに減少に転じており, 今後もその傾向の継続により働き手の減少が続くことが予想される中で,その減少を上回る生産性の向上等により, 我が国の成長力を高めるとともに,新たな需要を掘り起こし,経済成長を続けていくことが求められている。
こうした状況下で,社会資本整備における一連のプロセスを担う建設分野においても生産性の向上が必要不可欠となっていることを踏まえて,以下の問いに答えよ。
( 1 )建設分野における生産性の向上に関して,技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
( 2 ) ( 1 )で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1っ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。
( 3 ) ( 2 )で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれの対策について述
( 4 ) ( 1 ) ( 3 )を業務として遂行するに当たり必要となる要件を,技術者としての倫理,社会の持続可能性の観点から述べよ。
参考:日本技術士会
解答
(1)建設分野の生産性向上に関する課題抽出・分析
課題①:次世代の人材確保と早期育成
建設業界は、処遇改善の遅れなどが原因で、若年層の入職者数が伸び悩み、高齢化が進行している。今後、人材を安定確保できなければ、インフラ整備等の社会的責任を果たすことが困難となる。どのように人材を確保し早期育成していくかが課題である。
課題②:生産プロセスの改善
建設業は、設計から施工、維持管理に至る各々の生産段階において、多種多様な技能者が分業で作業を行う労働集約型産業である。今後、労働人口は更に減少し、個々の技能者への負担は大きくなる。現状のままの生産方法では、事業を円滑に追行することが困難となる。どのように生産プロセスの改善を図っていくかが課題である。
課題③:中小企業の生産能力向上
資金力のある大手や中堅企業では、生産性向上を目的とした技術開発や現場での実用化が積極的に進められている。一方、地方の中小企業にとって、生産性向上に資する設備投資や技術の導入は容易ではない。今後、膨大な老朽インフラへの対応は建設業界全体で取り組む必要がある。どのようにして中小企業の生産能力の向上を図っていくかが課題である。
(2)最重要課題の抽出と解決策
課題②を最重要課題とする。理由は、建設プロセスを改善することで、今後も、限られた人員で生産性を向上させていくことができるからである。
解決策①:生産現場での省人化・省力化の推進現状の労働集約型の生産体制を解消するため、省力化・省人化に寄与する技術の開発や活用を推進する。具体的には、コンクリート構造物の規格標準化とプレキャスト適用範囲の拡大を推進する。現場打ちにおいても、低強度領域での高流動コンクリート適用を推進する。以上のような対策により、今後の限られた人員でも、生産性を確保することが可能となる。
解決策②:ICTの全面的活用測量から施工、検査の各工程において省力化・省人化を図るため、ICTの全面的な活用を推進する。具体的には、UAVやレーザースキャナによる起工測量と3Dモデル化を行う。施工では、地盤改良等へのICT施工の適用工種拡大、検査では、ICT建設機械の施工履歴データによる出来形管理の効率化を図る。以上のような対策により、各工程で得た情報を次工程に活用することで、全体的な生産性向上が図れる。但し、ICTは新しい技術であるため、効果検証を行いながら、管理基準等の改定を適宜行っていく必要がある。
解決策③:AI技術の導入熟練者の技能や見識を継承しつつ、今後の生産性向上を図るため、AI技術を導入する必要がある。具体的には、AI機能を搭載した建機やロボットの自動運転を行う。維持管理の分野では、膨大な公共施設の点検・診断におけるモニタリング技術等にAIを活用する。以上のような対策により、機械やロボットが熟練者の業務を補うことで、生産性向上が図れる。
(3)解決策に共通して新たに生じるリスクと解決策
(2)で述べた新技術等が一般的となった場合、技術の過度な信頼による、品質管理の不徹底や、それに伴う事故の発生が懸念される。リスクに対する解決策は以下のとおりである。・管理項目や留意事項をまとめた運用マニュアルの策定とPDCAサイクルによる改善を繰り返す。・講習会等を開催し、従事者への教育指導を行う。
(4)業務として遂行するに当たり必要となる要件
(1)から(3)で述べた建設分野の生産性向上対策を、我々技術者が国民の立場に立って行うに当たり必要な要件は、「公衆の利益優先」と「社会の持続可能性の確保」である。業務において建設分野の生産性向上のみを重視し、インフラ等の品質確保等を軽視すると、これらの品質、安全性が低下し、最終的に国民の生命、財産が脅かされる。また業務中に無計画な地盤改良、樹木の伐採等を行うと、現在及び将来の国民に残すべき自然環境、生態系の低下を招く。以上の行為は国民の技術者、業界に対する不信を招き、信用失墜につながる。よって技術者は、常に技術者倫理に則って事業を行わなくてはならない。以上
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