令和3年度技術士第ニ次試験問題〔総合技術監理部門〕 必須科目
問題
Ⅰ―2 次の問題について解答せよ。(指示された答案用紙の枚数にまとめること。)
近年の技術革新により,従来にない形でのデータ収集及びデータ解析が可能となり,様々な方面から事業や業務への利活用が期待されている。実際に,1)日常の業務における意思決定において,これまで勘や経験に頼っていた部分をより定量的な知見に基づき合理的なものとするための試み,2)ナレッジマネジメントやデジタル・コミュニケーション・ツールの援用とあわせ,これまで以上にデータの利活用を効果的なものとしていくことの追求,3)人工知能(AI)やIOT,あるいはビッグデータ分析といったキーワードに関連する先端技術を活用した事業における新たな価値創出の探究など,幅広いレベルでの利活用が考えられる。しかしその一方で,データの利活用に関しては様々な課題も顕在化してきている。したがって,データを利活用した事業・プロジェクトの推進について,総合技術監理の視点に立って検討を行うことは重要であると考えられる。
そこでここでは,あなたがこれまでに経験した,あるいはよく知っている事業又はプロジェクト(以下「事業・プロジェクト等」という。)を1つ取り上げ,その目的や創出している成果物等を踏まえ,その事業・プロジェクト等にデータを利活用することに関して総合技術監理の視点から以下の(1)~(3)の問いに答えよ。ここでいう総合技術監理の視点とは「業務全体を俯瞰し,経済性管理,安全管理,人的資源管理,情報管理,社会環境管理に関する総合的な分析,評価に基づいて,最適な企画,計画,実施,対応等を行う。」立場からの視点をいう。
なお,書かれた論文を評価する際,考察における視点の広さ,記述の明確さと論理的なつながり,そして論文全体のまとまりを特に重視する。
(1)本論文においてあなたが取り上げる事業・プロジェクト等の内容と,それに関する現在のデータの利活用の状況について,次の①~④に沿って示せ。
(問い(1)については、答案用紙2枚以内にまとめよ。)
①事業・プロジェクト等の名称及び概要を記せ。
②この事業・プロジェクト等の目的を記せ。
③この事業・プロジェクト等が創出している成果物(製品,構造物, サービス,技術,政策等)を記せ。
④この事業・プロジェクト等における,現在のデータの利活用の状況について,以下の項目をすべて含む形で記せ。なお,十分に利活用できていない状況を記すことを妨げない。
・どのようなデータを収集・解析しているか
・事業・プロジェクト等にどのように活用しているか
・現在どのような点に留意して利活用を行っているか
・現在の利活用に伴う問題点・今後に向けた課題は何か
(2)この事業・プロジェクト等において,現在既に利用できるデータや技術を用いて,今後導入が可能と思われるデータ利活用の方法を2つ取り上げ,それぞれについて以下の問いに答えよ。なお,2つの方法に対して,利用するデータや技術は共通のものでも,別々のものでも構わない。
(問い(2)については,答案用紙を替えたうえで,まず1つめの方法について1枚以内にまとめ、さらに答案用紙を替えたうえで2つめの方法について1枚以内にまとめよ。)
① 利活用可能なデータの内容とその利活用の方法について記せ。
② ①で記述した利活用を進めることで,事業・プロジェクト等にどのような効果をもたらすことが期待できるかを理由とともに記せ。
③ ①で記述した利活用を進めていくうえで,総合技術監理の視点からどのような課題やリスクがあるかを記せ。ただし,2つの方法それぞれについて,5つの管理分野(経済性管理,安全管理,人的資源管理,情報管理,社会環境管理)のうちの2つ以上の視点を含むこととし,解答欄にはどの分野の視点であるかを明記すること。
(3)将来におけるこの事業・プロジェクト等(同種の別の事業・プロジェクト等でもよい)において,近い将来(おおむね5~10年後)に新たに利用できるようになると思われるデータや,実現されると思われる技術を用いて,新たに導入が可能になると思われるデータ利活用の方法を1つ取り上げ,それについて以下の問いに答えよ。なお,想定する時期までに事業・プロジェクト等の内容や形態そのものが変化することを踏まえて解答しても構わない。
(問い(3)については答案用紙を替えたうえで答案用紙1枚以内にまとめよ。)
①利活用可能なデータの内容とその利活用の方法について記せ。
② ①で記述した利活用を進めることで,事業・プロジェクト等にどのような効果をもたらすことが期待できるかを理由とともに記せ。
③ ①で記述した利活用を進めていくうえでの課題やリスクを記せ。なお,想定するデータの利用可能性や技術の実現可能性に関する課題やリスクについては対象外とする。
参考:日本技術士会
模範解答例
(1)事業概要とデータ利活用の状況
①事業の名称及び概要
名称:発電事業
概要:2019年に竣工された○○都心部の8階建オフィスビル(延床面積25,000㎡)の地下に建設された発電所である.ガスエンジン発電機7.8MW×2台で15.6MWの設備容量を持つ。
運用は,プロジェクトチーム5名と技術員25名で行っている。
特徴は,発電した電気の9割は電気事業で活用し,発電で発生した熱は隣接する地域熱供給会社に供給し都心部で面的利用している。
本発電所は,都心部でのエネルギー安定供給やレジリエンスの強化を十分に考慮した災害に強い分散型発電設備である.また,電力市場取引により,需要のある時に発電し,需要のない時には停止して市場より電気を調達する調整電源として機能できる。
②事業の目的
○○都心部再開発地域での分散化エネルギー社会の推進と電気と熱の面的利用を実現し,CO2の削減およびエネルギーの安定供給が目的である。
③事業の成果物
LNG発電所で発電した電気と副産物である排熱が成果物となる.また,自立運転が可能なため,自営線供給地域のエネルギーセキュリティが向上する。
④事業における現在データの利活用状況について
・どのようなデータを収集・解析しているか
発電機の運転データや点検記録などのデータを収集し,解析を行っている.具体的には,各機器の温度や電流値,圧力値などの傾向分析により,各機器の運転状態を監視し解析している。
・事業・プロジェクト等にどのように活用しているか
発電所を安定運用するために,故障の早期発見や定期保全に活用している.例えば,トレンドの傾向分析から,次の定期点検時に機器交換を組込むなどの予防保全に活用している.
・現在どのような点に留意して利活用を行っているか運転上の重要なデータを視覚情報として得られるように,見える化することに留意し,発電所ポータルサイトを作成しトレンドデータとして見える化を行い利活用している。
・現在の利活用に伴う問題点・今後に向けた課題
問題点は,少子高齢化,生産人口減少による担い手不足,熟練技術者の高齢化による技術力低下・品質低下である。この人口減少を上回る生産性の向上を図ることが課題である。
これまでは,熟練技術者の行っていた予知保全を,IoT/AI技術を利活用することで生産性を向上できる.また,点検の効率化やデータ化を行うことで生産性を向上できる。
(2)今後導入が可能なデータ利活用方法について
下記にA,B,2つのデータ利活用方法を述べる。
A:予知保全に活用
① 利活用可能なデータ内容とその利活用方法
発電機運転データを活用した予知保全を行う.電流,電圧,温度,圧力等のトレンドデータを利用し,トレンドの傾向分析や相関関係などから,機器や部品の適正交換時期の解析に利活用する。
② ①を進めることで,事業にもたらす効果と理由
予知保全を行うことで,機器や部品の故障による計画外のダウンタイムコストが削減でき,発電所の安定運用が可能となる.現在までは,熟練技術者の運用ノウハウで予知保全を行っていたが,熟練技術者が退職した後でも,発電所の最適運用が可能となる。また,予知保全を行うことで,生産性の向上が図れ,人的リソースの削減に繋がる。
③ ①での利活用を勧めていくうえでの課題やリスク
・経済性管理の視点:機器の適正交換時期の誤判断のリスクがある。
・情報管理の視点:データの容量が膨大になるため,データの保存方法や管理方法が課題である。また,情報漏洩のリスクがある。
・人的資源管理:データの抽出や加工技術の取得が課題である.定期的に勉強会などを行うような仕組み作りを行う。
B:点検作業の効率化
① 利活用可能なデータ内容とその利活用方法
点検記録は紙媒体であり,データとして活用するための入力に手間がかかる.これを,PAD端末を活用し点検時に直接入力することで,データ入力の手間が省け,トレンド分析としての利活用が可能となる。② ①を進めることで,事業にもたらす効果と理由
PAD端末を利用することで,点検技術者1人当りの生産性を向上できる.また,点検データをトレンド分析し予知保全に利活用できるので,発電所の安定運用に効果をもたらす。
③①での利活用を勧めていくうえでの課題やリスク
総合技術監理の視点からの課題やリスク
・情報管理の視点:情報漏洩のリスクがある.点検技術者のPAD端末の置き忘れや紛失などのリスクが考えられる。
・人的資源管理:点検技術者のITスキルの向上が課題である.セキュリティ対策を含めた,勉強会などを定期的に実施する。
・安全管理:点検技術者の事故リスクがある.日常点検時にPAD端末を持ち歩くことになり,PAD端末に気を取られ,怪我をする恐れがある.作業要領書などを作成し,事故の発生しない仕組みづくりを考える。
(3)新たに導入が可能なデータ利活用方法
①利活用可能なデータ内容とその利活用の方法
発電機運転データと点検データが蓄積されている。これらのデータから,機械学習を活用した予知保全システムを構築し,機器や部品の最適な交換時期を予測するために,利活用する。
② ①を進めることで,事業にもたらす効果と理由
人口減少により技術者が不足するなか,特別な技術を持たなくても,予知保全システムが機器や部品の最適な交換時期を予測するため,発電機のダウンタイムコストが削減でき,発電所の安定運用に繋がる。また,点検技術者1人当りの生産性向上が可能である。
③ ①を勧めていくうえでの課題やリスク
・経済性管理の視点: 機械学習を活用した予知保全システムを構築するには,IT技術者の確保が課題である。
・情報管理の視点:データ消失のリスクがある.クラウドへバックアップ保存するなどリスクを分散させて信頼度を向上させる。
・人的資源管理の視点:点検技術者のITスキルの向上が課題である.セキュリティ対策を含めた,勉強会などを定期的に実施する。 今後,電気学会,電気設備学会などに積極的に参加し,最新の情報を得ることで発電所の安定運用に繋げたい。 以上
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