6.4 環境アセスメント
環境アセスメントとは、大規模工業地の造成や都市開発などを行なう場合に、その結果として自然環境に与える影響を事前に調査することである。日本では、環境アセスメントの手続きを定めた環境影響評価法(1997年6月公布)において、必ず環境アセスメントを実施しなければならない事業(第一種事業)、環境アセスメントを実施するか否かの判定手続き(スクリーニング)が必要となる事業(第二種事業)が定められている。
また、環境影響評価法において、環境アセスメントの対象とならないような事業であっても、地方公共団体の環境影響評価条例などで環境アセスメントを実施することが定められている場合がある。地方公共団体の条例などでは、環境影響評価法と比較し以下の特徴を有することが多い。
(1) 法の対象でない事業を対象として環境影響評価を義務づける
(2) 法の施行に関する事務について地方公共団体が行う際のルールを定める
(3) 法における環境影響評価の概念に含まれない手続などを規定する
6.4.1 環境アセスメントの評価対象と手続き
環境アセスメントとは、大規模工業地の造成や都市開発などを行う場合に、その結果が自然環境にどのような影響を与えるかを事前に調査することである。日本の環境アセスメントでは、事業の実施に先だって環境への影響に関する予測・調査を行うことになっている。 環境影響評価法においては、必ず環境アセスメントを実施しなければならない事業(第一種事業)が定められており、実施するか否かの判定手続き(スクリーニング)が必要となる事業(第二種事業)では、必要と判定された事業に対して環境アセスメントを実施する。ここで対象となる事業とは、海岸の埋め立て、道路の建設、空港の建設、ダム建設、鉄道建設、発電所建設、都市開発などのうち、規模が大きく環境に影響を与えることが予想されるものであり、具体的な要件などは環境影響評価法施行令に定められている。
環境影響評価法で定められている環境アセスメントの手順を以下に示す。
(1)想定している事業が環境アセスメントを行うべき事業であるかどうかを判断する。環境影響評価法の対象外と判断された場合でも、地方公共団体の環境影響評価条例の対象であるか否かに注意する必要がある。
(2)環境アセスメントが必要であると認められた場合は、スコーピングという手順に進む。ここでは、環境アセスメントの方法を決定し、環境影響評価方法書を作成する。環境アセスメントを行う手順や項目、検討方法を記載したものを公表し、住民や地方公共団体の意見を取り入れて、最終的に実施方法を決定することになる。
(3)アセスメントの方法が決定した後は、実際に評価を実施する。ここでは、方法書に基づいて現況調査や予測を行い、その結果を踏まえて評価を行う。
(4)評価結果を踏まえて、環境影響評価準備書を作成する。この段階でも、住民や地方公共団体などの意見を取り入れる必要がある。準備書に記載する項目としては、調査・予測・評価の結果、環境保全のための措置、事業着手後の調査、環境影響の総合的な評価などがある。
(5)環境影響評価書を作成する。評価書では、準備書の段階で得られた意見に基づいてさらに検討を行う。また、環境省の意見を踏まえて環境アセスメントの結果を確定する。
(6)事業に着手した後の段階では、フォローアップとしての調査を行う。その事業が実際に及ぼしている環境影響について、現地調査などを実施する。
環境影響評価法に基づいて環境省が定めた基本的事項の中では、評価項目が与えられている。現実の評価対象に対しては、これらの項目をさらに具体的なものに細分化したものが適用される。例えば水質の場合は、生物化学的酸素要求量(Biochemical Oxygen Demand;BOD)や化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand ; COD)、あるいは環境ホルモンとなる可能性のある物質などであり、大気質の場合は、硫黄酸化物や窒素酸化物、浮遊粒子状物質、ダイオキシンなど、生態系の場合は、種の多様性、食物連鎖、廃棄物の場合は、発生量と種類などである。
6.4.2 環境アセスメントの評価方法
環境アセスメントにおいては、現況調査及び予測が評価結果を左右する。以下に代表的な項目についての調査及び予測手法を具体的に示す。
(1)大気汚染
二酸化窒素と一酸化炭素、浮遊粒子状物質、二酸化硫黄、光化学オキシダントには、環境基準で定められている公定の測定方法がある。窒素酸化物や硫黄酸化物、一酸化炭素などの予測では、主に拡散モデルを用いた数値計算による方法が用いられる。その他に、統計的方法や風洞実験、野外実験、さらには類似事例の検討などの方法も用いられている。
(2)水質汚濁
大気汚染と同様に、環境基準で定められている項目について公定の測定方法が示されている。予測の手法としては、水質汚濁物質の発生負荷量を求めて水質変化を評価するなどの定性的なものと、水質拡散モデルや水理模型実験による定量的な予測法とに大別される。大気汚染とは異なり、水質汚濁予測の場合は定性的な方法も定量的な方法と同程度利用されている。また、定量的な方法のうちでも数学的な拡散モデルを用いる予測法が圧倒的多数となっている。
(3)植物への影響
事業が与える環境インパクトを予測する際に、植物という対象が重要な項目になるケースが少なくない。
陸上植物の植生調査の場合は、調査対象地域(事業の直接の対象地と直接の影響を受ける地域)の中から代表的区域を選択して、その中に方形区(コドラート:たとえば10m×10m)を設定し、方形区それぞれの優先種や高さ、植被率などを調査する。そしてその結果は、植物群落の対象地域全体にわたる分布図として表現される。
水生植物の調査方法として、陸上や船上などから直接観察する観察法、調査地点の海藻などを採取して調査する坪刈り法、さらには採水法やコドラート法などが用いられる。
植物への影響予測を行う際には、定性的手法が主となる。例えば、調査を元に土地利用状況の変化を重ね合わせるといった直接的な影響予測などである。
一方で、樹木を伐採することで風通しや日照が変化し、その結果として植生に影響を与えるといった間接的影響も発生する。 しかし、間接的影響は予測が困難であるため、その評価の信憑性が問題になることもある。
(4)動物への影響
調査・予測対象となる動物は、一般には脊椎動物と昆虫類、貝類、甲殻類、節足動物などである。調査方法としては、動物全体にわたるものは、関係者から直接聞き取る聞き取り調査がある。ほ乳類では対象地域の踏査によるフィールドサイン調査と、数十個の簡単な罠をしかけるトラップ法がある。鳥類では事前に設定したルートを歩いて姿や鳴き声で生息を確認するラインセンサス法、複数の点で観察するポイントセンサス法、なわばりの調査によるテリトリーマッピング法がある。両生類・は虫類では対象地域の詳細な観察による直接観察法、昆虫類では踏査と観察による任意採集・直接観察法、夜間光に集まる性質を利用するライトトラップ法、餌をいれた罠を利用するベイトトラップ法、採集した落葉から昆虫を白熱灯で落として調査するツルグレン法がある。魚類の場合は網や釣りによって捕獲して調査する方法や潜水観察などがある。
動物への影響についての予測は極めて困難である。調査結果をもとに、食物連鎖の変化などに関する定性的な予測が主に実施される。
6.4.3 代替案と社会経済評価
日本では、代替案の検討の義務付けは環境影響評価法そのものには書き込まれていない。しかし、準備書に記載されるべき事項を定めた同法14条の第1項7のロの環境保全のための措置(当該措置を講ずることとするに至った検討の状況を含む。)が、代替案の検討を含むと解釈されている。環境影響評価法に基づく環境アセスメントを実施する必要がある事業は、行政による許認可の必要があるものばかりであり、事業実施の最終判断は行政が決定することになる。そのため、あまりにも環境影響が大きい事業は許認可を得ることができず、そのような場合に代替案の検討が必要になると考えられる
米国では、国家環境政策法(National Environnlental Policy Act ; NEPA ; 1970 年施行)において、連邦政府機関の環境影響評価書の作成義務について示しており、その評価書の中に含まれるべき基本的5項目の中に、提案行為の代替案を含んでいる。米国のNEPAの規則では、代替案の検討の場合の留意点を次のようにまとめている。
(1)いくつかの代替案を厳密に評価し、検討し、細部の検討を必要としないものを決め、その理由を簡単に記述すること。
(2)提案行為を含む可能性として考えられる全ての代替案を詳細に紹介し、評価する者が比較上のメリットを検討できるようにすること。
(3)主導連邦機関の所轄区域外の妥当な代替案も検討すること。
(4)「行為を行わない」という代替案も加えること。
(5)環境影響評価書案では、主導連邦政府機関が優先する代替案を(複数であればその全てを)明確に示し、最終環境影響評価書においても優先すべき代替案を明確化すること。
(6)提案行為やその他の代替案に適当な緩和措置も加えること。
6.4.4 戦略的環境アセスメント
戦略的環境アセスメント(Strategic Environnlental Assessment ; SEA)とは、政策(Policy)、計画(Plan)、プログラムの3つのPを対象とする環境アセスメントであり、事業に先立つ上位計画や政策などのレベルで環境への配慮を意思決定に統合するための仕組みのことである。
戦略的環境アセスメントには、以下の2つの意義がある。
(1)環境に著しい影響を与える施策の策定・実施に当たって環境への配慮を意思決定に統合すること(事業の実施段階における環境アセスメントと同様の意義)
(2)事業の実施段階での環境アセスメントの限界を補うこと
この「事業の実施段階での環境アセスメントの限界」とは、代替案などの検討を踏まえた意思決定はタイミングとして遅すぎることや、個々の事業を対象とする環境アセスメントではそれらの累積的もしくは相乗的な影響を考慮することが困難であることを意味する。
対象となる3つのPは、事業との関係として以下のような類型のものを含む。
(1)複数の事業などを総合した地域全体の開発計画(例:総合開発計画、圏域計画など)
(2)事業そのものを決定するものではないが、事業量の総枠を規定する計画(例:各種五箇年計画など)
(3)個々の事業に直接結びつくものではないが、事業の内容を拘束する政策・計画(例:土地利用計画、資源の有効な利用の促進に関する基本方針)
(4)個々の事業についての構想や基本計画(例:高速道路の基本計画)
戦略的環境アセスメントは、事業の実施段階での環境アセスメントと比して、政策、計画、プログラムを対象とする点が異なるが、評価の実施主体、専門家や公衆の関与、評価の審査などの実際の手続に関しては、事業の実施段階での環境アセスメントの原則の多くが適用できる。
ただし、戦略的環境アセスメントでは、事業の実施段階での環境アセスメントに比べてより広範な環境保全対策を検討することが可能である。諸外国で見られる事例では、立地に関する複数案を検討することにより、計画の策定過程で環境影響を受けやすい地域を避けることなどがある。また、自然保全地域やレクリエーション地域を新たに設定する積極的な取り組みや計画などの具体化を管理する管理計画の策定や、下位の計画や事業の立案・実施に制約を課すことも可能である。
環境影響評価法では、環境担当行政機関の関与などを含めた環境面からの評価は、社会面や経済面に関する評価とは独立した、環境に特化した手続として構成されている。
その上で、意思決定は環境面の情報のみに基づいて行われるものではなく、環境影響評価書が他の評価などの結果と併せて許認可などに関する最終的な意思決定段階で統合されることとなっている。戦略的環境アセスメントについてもこの点は同様であり、最終的な意思決定は戦略的環境アセスメントとは別の環境以外の考慮要素を合わせた総合判断として下されることとなり、戦略的環境アセスメントは環境面からの独立した評価として取り扱われる。
日本では、環境影響評価法により港湾計画に関する環境アセスメントが制度化されている他、東京都・埼玉県や川崎市などにおいて、「政策」や「計画」段階からの環境配慮について制度的な取り組みが進められている。
参考:日本技術士会
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