2.6 計画・管理の数理的手法
本節では、経済性管理で主に利用される数理的手法を記述する。それらの手法の多くは、主としてオペレーションズ・リサーチに関する研究成果として開発され、事業計画(特に生産計画)や工程管理の場において有用な計画・管理ツールとして広く利用されるようになったものである。近年では、組織経営における意思決定問題への適用も始まっている。
オペレーションズ・リサーチは、第2次世界大戦中に軍隊における様々な運用面での改善努力から生まれたものである。それまでは単なる思いつきや経験から決められていた運用規則を科学的アプローチにより見直し、適切な改善を施すことによって多大の効果を挙げたことが始まりである。 オペレーションズ・リサーチでは、問題を把握した上でその主要部分を取り出してモデル化する。これだけでほぼ問題が解決してしまうことも多いが、さらにコンピュータや数学などの助けを借りて解析へと進む。こうして得られた解析結果は、問題に対する適切な意思決定の重要な参考データとなる。オペレーションズ・リサーチではいろいろな場面で様々なモデル化を行うが、いったんモデルになってしまうと、一見全く異なる状況から生じた問題でも数学的には同じ形となり、共通の方法で解けることも多い。オペレーションズ・リサーチには、数理計画法、待ち行列、在庫、信頼性、スケジューリング、シミュレーション、予測、意思決定論など、様々な分野や手法があり、経営工学、統計学、ゲームの理論、情報科学、金融工学、社会工学、安全工学など、周辺領域の学問分野との交流・融合も盛んである。
2.6.1 PERTとCPM
PERT(Program Evaluation and Review Technique)とCPM(Critical Path Method)は、順序関係がある複数の作業で構成されるプロジェクトなどの一連の工程を、効率良く実行するためのスケジューリング手法である。スケジューリングとは、日程計画、中でも主に小日程計画において、作業部署毎の工程を検討するために用いられる手法である。
工程管理の主要な手法としてガント・チャート(工程流れ図)があるが、ガント・チャートをアロー・ダイアグラムに変換し、ネットワークモデルにより工程を検討するものがPERTである。アロー・ダイアグラムでは、各作業がアロー(矢印)の向きに進行するが、アローは2つのノート(結節点)を結んでいる。このときに、アローが小さい番号から大きい番号に向かうようにノートに番号を付けることにより、先行作業と後続作業の順序付けを行う。
一連の工程を実施するには、各作業に対して作業に要する所要時間の見積りが必要である。通常これは、手順計画において実施されることになる。各作業に費やされる時間をもとに、全体の作業を完了するまでに要する総所要時間を計算する。
1本のクリティカル・パス上の作業に対する所要時間の合計が、プロジェクトの総所所要時間になる。従って、クリティカル・パス上の作業に対しては、特に厳格な進捗管理が必要とされる。また、各作業の所要時間が確定しておらず確率的な変動が見込まれるときは、3点見積もりを用いて総所要時間の確率分布を推定することも可能である。 CPMは、以上で記述したPERTの計算を前提とし、総所要時間が納期内に収まるよう、クリティカル・パス上の作業に対して、費用をかけて期間を短縮する最適(コスト最小)な期間短縮方法を見出す手法である。 CPMの基本的な考え方は、一連の工程に関する遂行費用を目的関数とした最適化を行うことである。その基本的なアルゴリズム(計算手順)は次の通りである。
(1)クリティカル・パス上で、短縮が可能かつ短縮費用が最小の作業を見つける。
(2)許された短縮可能期間の範囲のもとで可能な限り短縮する。
(3)短縮に要した費用を計算する。
(4)短縮して要求された納期になれば終了、さもなければ短縮して更新された日程を新たな日程として(1)に戻る。
CPMの計算は、作業数が増加すると容易には実行できない。そこで、このアルゴリズムを線形計画問題の特殊な形として定式化し、コンピュータを用いて解を求めることが行われる。
2.6.2 シミュレーション
シミュレーションとは、実際に現実の事物やシステムを再現することがコストや時間の面から難しい場合に、数学的ないしは論理的なモデルを主としてコンピュータ上に構築し、数値的な操作を行うことを意味している。そのための技術は、対象とする事物やシステムに関する問題把握、分析、問題解決、運用を行うための、モデルをベースとした総合的なシステム分析技術ということができる。
モデルとは、実際の事物やシステムを、特定の側面に着目して抽象化したものである。実物を縮小または拡大した物理モデル、特定の特性を物理現象に置き換えたアナログモデル、日常用いる文章で表現した言語モデル、図表に基づく図式モデル、論理あるいは数式で表現された論理モデルなどがあるが、コンピュータの利用を前提にすれば、論理モデルがシミュレーションの対象となる。
対象とする事物やシステムの挙動を模擬することがシミュレーションの中心であるが、利用するモデルやその操作方法により、いくつかに分類することができる。以下の (1)と(2)は時間とともに状態が変化していくシステムのためのシミュレーション、 (3)は積分値や数理計画法の最適値など直接計算が難しい値を乱数などの利用により求める方法である。いずれの方法も、乱数を用いるものと用いないものがある。
(1)離散型シミュレーション
システムの状態変化が何種類かの特定のイベントの生起によって引き起こされるモデルに対して用いられるシミュレーション。通信・コンピュータシステム・生産・物流などにおける性能評価に広く用いられている。
(2)連続型シミュレーション
微分方程式や差分方程式で表現されたモデルのシミュレーションを指す。数学的には、微分方程式の初期値問題を解くことに相当する。電気・機械などの物理的システムや経済システムのシミュレーションによく用いられる。
(3)その他
積分値を推定するモンテカルロ・シミュレーション、最適値を推定するシミュレーテッド・アニーリングなどが利用されている。
なお、特定のタイプのシミュレーションを行うことを目的としたシステムあるいはソフトウェアのことをシミュレータといい、航空機や電車の運転シミュレータなど様々な 特殊目的シミュレータの他、上の(1)や(2)のための汎用シミュレータも多数開発され、利用に供されている。一例として、1972年に世界に衝撃を与えたローマクラブの報告「成長の限界」では、システム・ダイナミックスという乱数を用いない連続型シミュレーションのためのシミュレータDYNAMOが使われた。ここでは世界人口・食料・資源・汚染・資本・技術とそれらに関連する多数の変数を取り上げ、これらの変数の値が1年前の関連する変数の値から定まるルールを変数毎に式の形で書き表し、それを基にコンピュータで各変数の年次変化を見たものである。「成長の限界」では、1900年から1970年までのデータから各種のパラメータを推定し、それに基づいて様々な政策の下での2100年までの各変数の変化を求め、地球は有限であることを強く印象づけた。
シミュレーションを用いたモデルの分析では、次の点に注意する必要がある。
(1)実際のシステムの模型としてモデルを作る必要がある。また、構築したモデルが解決すべき問題に相応しいかの妥当性検証が必要である。
(2)乱数を用いたシミュレーションでは、乱数の周期など使用した乱数の性質に注意し、シミュレーション結果を適切な統計的手法で分析しなければならない。
(3)モデルから得られた解答を用いて現実の問題解決や意思決定を行う際は、モデルの妥当性や正当性の検証を含め、慎重に行う。
2.6.3 最適化手法
最適化問題とは、システムの設計や運転を行うにあたり、最も適切な決定を行うこと、あるいはいくつかの選択肢の中から最善なものを選択する問題である。そして、これらを解くことを目的とする数理的な手法を総称して最適化手法と呼ぶ。最適化問題は、システムの最適性の尺度として目的関数(評価関数)を導入し、それをいくつかの制約条件の下で最大化あるいは最小化する変数を探索する数理計画問題として定式化することが行われる。この数理計画問題を数理的に解くための手法を総称して数理計画法と呼ぶ。 数理計画法の最も代表的なものが線形計画法である。もともとはオペレーションズ・リサーチ問題への数学的アプローチ手法として開発されたものであるが、企業の経営上の諸問題、工場での生産計画問題、農産物の生産計画問題などを解く最も有力な手法の一つとなっている。この線形計画問題を解く代表的な手法には、シンプレックス法や内点法などがある。
近年は、社会的な要求の多様化に伴い、多数の競合する目的関数を同時に満たす多目的最適化が重要性を増している。所与の制約条件の下で、複数の目的関数を同時に最大化(もしくは最小化)する最適解は一般的に存在しない。そのため、一つの目的関数値を改善するためには、少なくとも他の一つの目的関数値を犠牲にする必要がある解候補の集合として、パレート最適の考え方が導入される。パレート最適解は一般に無限個存在するため、意思決定者の選好により最良な妥協解を選択する必要がある。また、目的関数や制約条件に確率変数が入ることもあるが、適当な変形により非線形計画問題に帰着することができる。
参考:日本技術士会
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