令和元年度技術士二次試験問題(建設部門)鋼構造及びコンクリート
問題
Ⅲー1鋼構造物の工場製作又は架設(建て方)において,労働災害の防止対策の必要性が高まっている。
( 1 )さまざまな作業環境に起因した労働災害を防止するための対策を実施するに当たって, 技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
( 2 ) ( 1 )で抽出した課題のうち鋼構造物で最も重要と考える課題を1っ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。
( 3 ) ( 2 )で提示した解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれの対策について述べよ。
参考:日本技術士会
模範解答例
(1) 労働災害の防止に関する課題の抽出
1)架設時の高所作業の安全確保
鋼橋は工場製作した部材を現場に搬入し、高所に足場を設置して、部材を接合する建設プロセスである。 高所作業は死亡など重大災害を招くリスクが最も高いため、重点的な安全対策への取組が求められる。 したがって、設計・架設計画・現場・安全など、関係部門を総動員して、架設時の高所作業の安全確保が必要である。
2)架設時の狭小・狭隘部作業の安全確保
鋼橋は部材間・内部での作業、下部工や既設物など周辺環境の影響により、作業空間の確保が難しい。 狭い作業空間での挟まれや接触災害を防止するため、接合位置や架設順序の工夫などの配慮が求められる。 したがって、BIM/CIM活用による架設シミュレーションによる作業性の検証など、架設時の狭小・狭隘部作業の安全確保が必要である。
3)架設時の密閉空間作業の安全確保
工場に比べて鋼橋架設現場は換気や照明設備が充実しておらず、密閉空間作業は一層危険な状況にある。 溶接や塗装など密閉空間における熱中症や中毒を防止するため、作業環境を改善する取組が求められる。 したがって、換気孔、ハンドホール、マンホールなど部材に安全対策を実施して、架設時の密閉空間作業の安全確保が必要である。
(2)架設時の高所作業の安全確保に向けた解決策
建設業の三大災害のうち、最も多く発生している墜落・転落災害の防止対策となる課題1)を最重要課題に挙げる。
1)設計段階からの安全対策
鋼橋架設は多くの高所作業を伴うため、高所作業時の安全性向上を図る事前対策への取組が必要である。 この解決策として以下を提案する。足場、手すり、命綱など安全対策に必要な部材付き金具を現場で後設置することは困難なため、BIM/CIMを活用して関係者間で高所作業に係るフロントローディングを実施し、必要な金具類を予め工場取付けするように設計図面へ製作反映する。
本提案は、計画的かつ効果的に安全対策を推進できることから、設計段階からの安全対策が期待される。2)現場継手の作業量低減
鋼橋の合理化設計に伴い現場継手部が大型化しているため、継手作業量の低減への取組が必要である。 この解決策として以下を提案する。近年開発されたトルシア形超高力ボルト(SHTB)により、現場継手部の高力ボルト本締め本数を低減する。また、橋梁用高性能鋼材(SBHS)により、部材断面のコンパクト化や現場継手部の溶接作業を合理化( 予熱管理など )する。 本提案は、部材の継手作業自体の低減、足場の小型化や塗装数量の減少にも寄与することから、現場継手の作業量低減が期待される。
3)機械化・ロボット化による高所作業の軽減
鋼橋架設は大半が人力作業となっているため、機械化・ロボット化による代替えへの取組が必要である。 この解決策として以下を提案する。近年、建築鉄骨分野で導入が進んでいる自動溶接ロボットの鋼橋への適用を拡大する。また、同ロボット、センサー、AI画像診断技術を応用して、高力ボルト本締め、現場塗装の機械化を推進していく。 本提案は、鋼橋架設における人力作業の補助を実現するため、機械化・ロボット化による高所作業の低減が期待される。
(3)新たに生じうる共通リスクとそれへの対策
1)工程の遅延リスク
解決策は、新技術、新材料、機械化・ロボット化など新しい試みを積極的に採用している。このため、初期導入時の実務者への理解浸透期間や不具合への対応、また関係者との合意形成に要する時間など、工程の遅延リスクがある。
2)対策
対策は、国や公的機関、協会が主体となり、導入マニュアルや実施事例集を整備する。また、人材育成のための講習会や技術発表会の開催など教育訓練の提供が求められる。 以上
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