社会環境管理(その2)

ロビー
目次

6.2 環境関連法と制度

社会環境管理の側面における組織活動を行う際の重要な概念は、法令、制度、行動指針などを通じてより具体的に表現されている。企業などの組織がこれらの規制及び指針などを熟知し遵守することは、組織が果たすべき社会的責務であるのみならず、組織評価を高めるために不可欠となる。

6.2.1 環境基本法と循環型社会形成推進基本法

大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動は物質的な豊かさをもたらしたが、日常生活や事業活動における環境への負荷は増大した。その結果、自動車利用の増大に伴う大気汚染、生活排水による河川・沿岸域の水質汚濁、土壌汚染など、都市・生活型公害が大きな問題となっている。また、オゾン層の破壊、地球温暖化、酸性雨など地球的規模の環境問題が顕在化しており、生物の生存の基盤にかかわる深刻な問題となっている。
 国ではこうした状況を踏まえ、平成5年11月に環境基本法を制定し、それを受けた環境基本計画を平成6年12月に策定した。環境基本計画は、環境保全に関する施策の総合的かつ長期的な施策の大綱について定めたもので、循環、共生、参加、国際的取り組みの4つの長期的目標は、これからの国の施策の方向を示すキーワードとなっている。
 一方、地球温暖化対策の推進を目的として地球温暖化対策推進大綱が閣議決定され、平成10年10月に地球温暖化対策推進法が制定された。地球温暖化対策推進大綱は平成14年3月に改訂されたが、事業者の自主的取り組みの推進を促すとともに、特に民生・運輸部門における温暖化ガス排出抑制対策を強力に進めることが記されており、地球温暖化対策へ向けての各界各層の具体的な行動例が示されている。
 さらに平成12年度以降、廃棄物や化学物質対策などの新たな課題などへの対応を目的として、環境基本計画の見直しや、循環型社会形成推進基本法、資源有効利用促進法、廃棄物処理法、リサイクル関連法令の制定・改正が実施されており、循環型社会の構築に向けた制度面の整備が行われている。 循環型社会形成推進基本法では、循環型社会の形成に向け、国、地方公共団体、事業者及び国民などの責務を明確化しており、特に事業者・国民の排出者責任や事業者の拡大生産者責任について、一般原則が次のように明記されている。
  「事業者は、基本原則にのっとり、その事業活動を行うに際しては、原材料等がその事業活動において廃棄物等となることを抑制するために必要な措置を講ずるとともに、原材料等がその事業活動において循環資源となった場合には、これについて自ら適正に循環的な利用を行い、もしくはこれについて適正に循環的な利用が行われるために必要な措置を講じ、又は循環的な利用が行われない循環資源について自らの責任において適正に処分する責務を有する。」 さらにこの法律では、①発生抑制、②再使用、③再生利用、④熱回収、⑤適正処分といった5段階の優先順位に基づき廃棄物処理やリサイクルを行うよう明記している。

6.2.2 廃棄物処理法

環境基本法で示されている事業者の責務として、産業廃棄物などを適正に処理することが明示されている。
  廃棄物処理法における廃棄物の定義では、「自ら利用したり他人に有償で譲り渡すことができないために不要になったもので、ごみ、粗大ごみ、燃えがら、汚泥、ふん尿などの汚物または不要物で、固形状または液状のもの」と記されている。ただし、放射性物質及びこれに汚染されたものは別の法律の対象物となっており、ここからは除かれている。
 廃棄物は、大きく一般廃棄物と産業廃棄物の2つに区別されている。産業廃棄物は、事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、廃棄物処理法施行令で定められた20種類のものをいう。一般廃棄物は産業廃棄物以外の廃棄物を指し、主に家庭から発生する家庭系ごみ、オフィスや飲食店から発生する事業系ごみ、し尿に分類される。
また、これらの廃棄物の中で、爆発吐、毒性、感染性、その他人の健康や生活環境に被害を生じるおそれがあるものを特別管理一般廃棄物、特別管理産業廃棄物と分類し、収集から処分まで全ての過程において厳重に管理することを定めている。
 (1)特別管理一般廃棄物
  ① PCBを使用した製品
  ② 感染性一般廃棄物
  ③ ばいじん など
(2)特別管理産業廃棄物
  ①高燃焼性廃油
  ②強酸、強アルカリ
  ③感染性産業廃棄物
  ④特定有害産業廃棄物

6.2,3 産業廃棄物の現状と産業廃棄物管理制度(マニフェスト制度)

廃棄物処理法では、一般廃棄物の処理は市町村の責務として定めている。そのため一般廃棄物の処理は、市町村もしくは市町村が委託する事業者によって処理されるのが基本である。また、事業系一般廃棄物は専門の処理業者によって処理されることもある。
 一方、廃棄物を排出する事業者は、事業活動によって生じた産業廃棄物を自らの責任において処理しなければならない。 これは、汚染者負担の原則(Polluter Pays Principle ;PPP)とよばれる考え方に基づいており、世界の多くの国で取り入れられている考え方である。廃棄物の処理の方法には、事業者が自分で処理施設を作って処理する場合と専門の処理業者に委託して処理する場合があるが、廃棄物処理法では、いずれの場合も、排出事業者は最終処分まで適正に処理を行うことを定めている。
 このような状況の中、日本でも産業廃棄物管理制度(マニフェスト制度またはマニフェストシステム)が設けられている。
 マニフェスト(産業廃棄物管理票)とは、廃棄物を管理するための帳票のことである。
 マニフェスト制度は、排出事業者がマニフェストを交付し、収集・運搬、処分の各事業者がそれぞれ処理内容などの必要事項を記載した上で処理終了後に帳票の写しを排出事業者に返送することにより、排出事業者が廃棄物処理の流れを管理し、適正処理を履行する仕組みである。平成3年度の廃棄物処理法の改正で特別管理産業廃棄物に対してマニフェスト制度が適用されたが、平成9年度の改正により全ての産業廃棄物に適用されている。

6.2.4 資源有効利用促進法とリサイクル関連法令

国としてリサイクルを推進するための一般的な仕組みを確立するため、資源有効利用促進法が制定されている。そして、個別物品の特性に応じた規制であるリサイクル関連法令として、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、食品リサイクル法、建設資材リサイクル法、自動車リサイクル法が挙げられる。これらのリサイクル関連法令は、循環型社会形成推進基本法に示されている循環型社会の形成を推進する基本的な枠組みと相まって実効ある取り組みの推進を図るものである。
(1)資源有効利用促進法
  主として事業者に対して以下の事項の推進を求めている。またこの法律では、従来のアルミ缶・スチール缶・ペットボトルなどのリサイクル表示に加え、プラスチックや紙などの指定品目に関するリサイクル表示を義務付けている。
  ① 原材料使用の合理化
  ② 再生資源・再生部品の利用
  ③ 資源・部品としての再生
  ④ 分別回収
(2)容器包装リサイクル法
  容器包装のリサイクル促進を目的としている。その背景には、容器包装に関する廃棄物が一般廃棄物のうち体積で50%以上、重量で20%以上を占めるという現実がある。対象となる容器包装は、ガラス製容器、PETボトル、紙製容器包装、プラスチック製容器包装などである。
  また、容器包装リサイクル法は、消費者による分別排出、市町村による分別収集、事業者によるリサイクルについて、容器包装廃棄物に関するそれぞれの役割を規定している。
(3)家電リサイクル法
  家電メーカーや小売販売店に対する収集・運搬・リサイクルの責任について明示した法律である。対象となる家庭用電化製品は、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンの4品目である。
  家庭用電化製品を製造している企業は、要求があれば、小売業者から使用済みの機器を引き取ってリサイクルする義務があり、小売業者は自らが販売した機器について、引き取って製造者に引き渡す義務がある。また、消費者はリサイクルのための費用を負担し、使用済みの家庭用電化製品を小売業者などに引き渡すことが求められる。さらに市町村は、回収した家庭用電化製品を製造者に引き渡す責務を負う。
(4)食品リサイクル法
  食品の製造・加工・販売業者が食品廃棄物の再資源化を行うことを求めている。
(5)建設資材リサイクル法
  工事の受注者が、建築物の分別解体、建設廃材などの再資源化を行うことを求めている。
(6)自動車リサイクル法
   製造業者などによるシュレッダーダストなどの引き取りと再資源化、関連業者などによる使用済自動車の引き取りと引渡しを行うことを求めている。

6.2.5 グリーン購入

グリーン購入とは、環境への負荷ができるだけ少ない商品やサービスなどを優先的に調達することを意味する。グリーン購入を推進するために「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」(グリーン購入法)が2001年に施行された。この法律の目的は、環境負荷の少ない持続可能な社会を構築するため、環境負荷の低減に資する物品・役務(環境物品など)を国などの公共部門が積極的に調達するとともに情報提供を進めていくことにある。
 なお、環境物品を製造するために、材料のレベルから検討することを目指したエコマテリアルという考え方も広まりつつある。
 しかし、環境物品であるかどうかを即座に判断することは難しいため、この法律でも各種の環境ラベルや製品の環境情報をまとめたデータベースなどを利用することが推奨されている。具体的には、財団法人日本環境協会のエコマーク、グリーン購入ネットワークのグリーン購入ガイドラインや商品情報データベースなどである。なお、海外でもドイツの「ブルーエンジェル」などの多様なエコラベルが存在している。
 ISOでもエコラベルの規格制定を進めているが、ISOでは、エコラベルをタイプⅠ、タイプⅡ、タイプⅢの3種類に分類している。以下にその内容を示す。
(1)タイプⅠ
  一定の基準を満たしていることを第三者が審査してマークの使用を許可する。
  日本のエコマークやドイツのブルーエンジェルマークなどがこれにあたる。
(2)タイプⅡ
企業が独自の基準で自社の製品やサービスの環境に関する主張を行うものである。自己宣言型ラベルと呼ばれ、主張する内容は各企業や団体の判断に任せられている。
(3)タイプⅢ
  製品の環境特性を定量的データとして開示するものである。開示されるデータは客観性・中立性・信頼性は高いが、消費者はその数値を見て判断しなければならない。
 各エコラベルにはそれぞれの目的や用途があるが、グリーン購入を実施するために使いやすいのはタイプⅠのラベルである。ラベルの読み手の知識レベルが向上して使いこなせるようになれば、タイプⅢのエコラベルは良い情報源となる。
エコマークは上述のタイプⅠに属するエコラベルであり、1989年から財団法人日本環境協会が実施しているものである。グリーン購入を進めている自治体や企業のグリーン購入基準にもエコマークが用いられていることが多い。

6.2.6 化学物質の管理制度

化学物質の管理に関しては、PRTR(Pollutant Release and Transfer Register)の考え方もある。これは、有害性のある化学物質の環境への排出量及び廃棄物に含まれている移動量を登録して公表する仕組みである。日本でもPRTR法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)として法制度が整備されている。 PRTRの基本的な仕組みは以下のように示される。
(1)対象となる化学物質ごとに、各排出源から、大気、水、土壌などへの排出、移動量を把握する。
(2)把握した情報を、目録やデータベースの形に整理し集計する。
(3)できあがった化学物質の排出・移動量の目録やデータベースを公表し、広く一般の利用に役立てる。

6.2.7 制度による環境の社会的評価

環境に対する政治的な制度などによる社会的評価は、ある環境を保全するのか否か、あるいは環境をどのような質で保存するのかについて、様々な法律、政令、規則、条例などによって表明される。大気汚染については、二酸化窒素、二酸化硫黄、一酸化炭素、浮遊粒子状物質、光化学オキシダントについて環境基準が定められている。例えば焼却場からのダイオキシンの排出量に対する規則も、一つの社会的評価の表明であると言える。水質や土壌についてもカドミウム、シアン、PCBなどの有害物質に対する基準値が設けられている。生態系に関わる保全では、自然環境保全法による原生自然環境保全地域及び自然環境保全地域として1998年にそれぞれ5ヵ所5,631ha、10ヵ所21,593haが指定されている。これらは、対象となる地域の自然環境に対する社会的評価を反映している。このような基準の多くは、自然科学的な知見を根拠としているが、自然科学的な知見のみから環境基準が決まる訳ではない。たとえばダイオキシンに対する規制を強化しなければならないことが分かっていても、焼却炉などの技術が必要な規制に対応できなければ、基準の実行可能性がなくなってしまう可能性もある。
 また、環境に対しての行政による社会的評価も示される。基準は絶対に守られているとは限らないが、行政は基準を満たすための裁量的な対策をとる権限を持っている。行政の取りうる環境保全のための手法としては、汚染物質の排出規制などの規制的手法、土地利用規制手法、環境保全のための事業手法、保全すべき地域などについて買い上げ・管理契約する手法、税やデポジットなどによる経済的・誘導的手法などである。行政がこれらの手法を適用する際には、行政としての環境に対する社会的評価が前提となっている。
 裁判所もまた、裁判を通して環境に対する社会的評価を下している。裁判所が下す環境に対する評価は、大きく二つに分けることができる。第一は、環境の劣化が人の健康や生活に直接の被害を及ぼす場合であり、環境の劣化とは主に環境汚染である。第二は、人の生活や健康に被害を生むことはないが、生態系などが破壊されることによって環境の質が低下する場合である。前者の評価は、1960年代から始まる四大公害裁判によって本格的に行われるようになった。環境汚染に関しては、汚染によってこうむった喪失利益、健康・生命に関わる被害、財産に関わる被害に対する直接の賠償とともに慰謝料などの、汚染による被害額評価という形での環境評価がある。その他、汚染の差し止め訴訟による、汚染の便益に対する費用評価としての環境評価が主要なものである。汚染の差し止め訴訟では、環境汚染が健康や生命に関わる被害を引き起こすかどうか、権利の問題としては関係者の人格権が侵害されるかどうかが問題となる他、その程度も問題となり、受認限度を超えるかどうかも問題となる。後者の環境の質が低下することに関しては、住民が環境権の侵害を理由に、埋め立てや火力発電所の建設、漁港の建設などに対する差し止め請求の裁判を起こした例が見られる。しかし、差し止めが認められた例は存在していない。環境権そのものの存在を認める判例もあり、また基本的人権としての環境権は詰められているという考え方もあるが、私法上の権利としての環境権については、裁判所は認めていない。
参考:日本技術士会

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この記事を書いた人

横浜すばる技術士事務所代表
技術士(建設部門ー施工計画、施工設備及び積算) (総合技術監理部門)
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