技術士二次試験の合格を目指し、毎日仕事の合間を縫って一生懸命勉強に励んでいる受験生は数多くいます。しかし、その一方で「何年受験しても合格できない」「どれだけ膨大な時間を投資してもA判定に届かない」と苦悩している方が後を絶たないのが、この試験の過酷な現実です。
私はこれまで、多くの技術士受験生を指導し、その合否の明暗が分かれる瞬間を間近で見てきました。その中で確信したことがあります。それは、「最終的に合格する人」には多様なタイプ(1発合格の要領が良い人、5〜6回目で実力を実らせる人など)がいるのに対し、「不合格になる人」には明確な共通点があるということです。
不合格が続いてしまう人の多くは、実力や努力が足りないわけではありません。世間で「常識」とされている間違った勉強法を疑わずに実践し、自ら不合格への道を突き進んでしまっているのです。
本記事では、技術士受験において「絶対にやってはいけない7つのNG勉強法」を徹底解説します。1つでも当てはまるものがあれば、今すぐその勉強法を是正する必要があります。ご自身の学習環境や取り組み方と照らし合わせながら、最後までお読みください。
自分がどの「ステージ」にいるか理解していない
何か行動を起こして成果を出そうとするとき、最も重要なのは「目的地」と「現在地」を正しく認識することです。
たとえば、「東京駅に行く」という目的地が決まったとします。しかし、あなたが今いる場所が「大阪駅」なのか、「札幌駅」なのか、あるいは「ロンドン」や「シドニー」なのかによって、選ぶべき交通手段も、移動に要する時間も、出発する方角もまったく異なりますよね。現在地を無視して「とりあえず東へ進もう」とすれば、遭難するか海に落ちるだけです。
技術士試験でも、これと全く同じ現象が起きています。
■専門知識は豊富だが、論文の組み立て方がわからない人
■実務経験は十分だが、技術士法や社会的ニーズに即した表現ができない人
■そもそも問題文の意図(出題趣旨)を読み解く読解力が不足している人
同じ業界、同じ会社、同じ役職であっても、受験生一人ひとりの「現在地(強みと弱み、知識の偏り)」は人間の顔が違うように全く異なります。それにもかかわらず、「みんながこの参考書を使っているから」「このカリキュラムが標準だから」と、現在地を無視した一律の勉強法に飛びついてしまう人が多すぎます。
【改善策】
まずは過去問を1年分、時間を計って自力で書いてみてください。書けなかった原因は「知識不足」なのか、「時間切れ」なのか、「構成の迷い」なのか。自分の現在地を客観的に分析し、自分のステージに合わせた学習計画を立てることが最初の1歩です。
必要な「1次情報」を軽視し、都市伝説に振り回されている
技術士という資格は、「技術士法」という法律に基づいて整備された格式高い国家資格です。つまり、試験のルール、求められる技術者像、採点基準のすべての根源(1次情報)は、文部科学省や日本技術士会が公式に発表している資料にあります。
しかし、落ちる受験生ほど、この最も重要な1次情報に目を通さず、ネットの掲示板やSNS、根拠のない噂話といった「2次情報・3次情報」に振り回される、いわゆる「情報弱者」に陥りがちです。
代表的な都市伝説として、建設部門でよく囁かれる「必須科目は毎年『国土交通白書』から出題されるから、丸暗記しなければならない」というものがあります。 もちろん、白書を読むこと自体は悪いことではありません。しかし、私自身は受験生時代に国土交通白書を1度も読まずにA判定で合格しています。
合格するために必要なのは、白書の丸暗記ではなく、試験元が明示している「評価基準」や「求める資質能力(コンピテンシー)」を理解することです。落ちる人は、どうでもいい枝葉の知識(2次情報)を必死に追いかけ、幹となる本質(1次情報)を見失っています。
【改善策】
日本技術士会のホームページにある「受験申込み案内」や「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」を熟読してください。試験官が「何を基準に採点しているのか」という1次情報を常に机の上に置き、すべての勉強の軸に据えましょう。
合格者の勉強法を「思考停止」で真似している
身近な合格者や先輩から「私はこうやって合格した」という体験談を聞くのは有益です。しかし、その勉強法を「何も考えずにそのまま真似する」のは非常に危険です。
なぜなら、前述した通り「その合格者とあなたでは、スタート地点(現在地)が違う」からです。
■発注者側の立場の人が成功した勉強法を、受注者(コンサルタントや施工会社)側の人が真似しても、視点が異なるため論文の説得力が生まれません。
■河川砂防が専門の人のキーワード学習法を、トンネル専門の人がそのまま真似しても、扱う技術の性質が違うため上手くいきません。
「なんのためにこの勉強をするのか?」「その目的を最短コースで達成するために、本当にこの方法は自分に合っているのか?」という視点が抜け落ちてしまうと、ただの「自己満足の作業」になってしまいます。
【改善策】
合格者の言葉を受け入れるときは、「なぜその人がその勉強法を選んだのか」という背景や理由(マインド)を抽出してください。やり方をそのままコピーするのではなく、自分の専門、立場、現在の課題に合わせてカスタマイズして取り入れるのが賢明です。
ナビゲーションなしの「完全独学」で突き進む
「参考書を買い込んで、完全に独学で合格してみせる」と意気込む受験生は多いですし、お金をかけたくない気持ちも理解できます。 しかし、技術士二次試験における「独学」には、致命的なデメリットがあります。それは、「自分が間違った方向に進んでいても、誰も教えてくれない(自分でも気づけない)」ということです。
受験勉強において最も恐ろしいのは、努力の量が足りないことではありません。「間違った方向に全力疾走していることに気づかず、時間をドブに捨て続けること」です。
よく「諦めなければ絶対に合格できる」という精神論を語る人がいますが、これは半分間違いです。諦めたらそこで終わりですが、進む方向が間違っていれば、どれだけ諦めずに10年、20年と努力を続けても合格の門が拓くことはありません。 客観的な視点がない独学は、コンパスを持たずに樹海を彷徨うようなものです。
【改善策】
自分の論文を客観的に評価し、進むべき方向を正してくれる「ナビゲーションシステム(信頼できる指導者や添削講座)」を導入してください。他者の目を入れることで、自分では気づけなかった「論理の飛躍」や「勘違い」を早期に修正することができます。
知識の暗記(インプット)ばかりに偏っている
技術士二次試験を「知識の量を競う試験」だと勘違いしている人が非常に多いですが、これも大きな間違いです。
そもそも二次試験に進んでいる時点で、みなさんは一次試験に合格しているか、あるいは同等の資格(JABEE課程修了など)を有しているはずです。つまり、専門分野の基礎的な知識があることは、試験制度上すでに証明されています。それなのに、机に向かってキーワードをノートにまとめたり、専門書を最初から最後まで読み込んだりする「インプット偏重」の勉強を続けるのは、試験の目的に矛盾しています。
二次試験で求められているのは、「豊富な知識を持っていること」ではなく、「目の前にある課題に対して、自分が持つ知識や経験をどう応用し、論理的に解決策を導き出せるか」という思考力・説明能力です。
極端な話、論文に書かれた専門用語の定義が多少曖昧であっても、文脈が論理的で、技術士としての資質(コンピテンシー)が示されていれば合格判定(A判定)は出ます。逆に、どれだけ最新の専門用語を散りばめても、設問に対する答えになっていなければ容赦なく不合格になります。
【改善策】
インプットは「自分が論文を書くために、どうしても足りないパーツを補う」という目的意識を持って行ってください。「覚えるための勉強」から「使うための勉強」へと意識を切り替えることが重要です。
アウトプットの勉強をしない
技術士二次試験は、筆記試験(論文)と口頭試験で構成されています。どちらも、自分の考えを「文字」または「言葉」にして相手に伝える、純然たるアウトプットの試験です。
「まだ知識が十分に蓄えられていないから、論文を書くのは時期尚早だ」と言って、いつまでも白紙の答案用紙と向き合わない人がいます。しかし、人間の脳は「出そう(アウトプットしよう)」と格闘して初めて、自分に何が足りないのか(インプットすべき情報)を認識するようにできています。
採点官は、あなたの頭の中にある知識を透視することはできません。答案用紙に書かれた文字、口頭試験で発せられた言葉だけがすべてです。
■制限時間内に、指定された文字数の論文を論理的に書き上げる記述力
■骨組み(構成案)を瞬時に組み立てる論理的思考力
■専門外の人が読んでも一読して理解できる平易で明確な文章表現力
これらの能力は、実際に手を動かし、脳に汗をかきながら文章を書く訓練(アウトプット)を繰り返すことでしか絶対に身につきません。
【改善策】
勉強時間の比率を「インプット3:アウトプット7」に変えてください。まずは不完全でも構いません。時間を計って過去問の論文を実際に書いてみる。そして、書けなかった部分の悔しさを原動力にして、ピンポイントで知識を補強するサイクルを回しましょう。
平日は何もしないで、休日にまとめて勉強する
「平日は仕事が忙しくて残業もあるから、勉強は土日にまとめて10時間やろう」 このような学習スタイルを計画している方は、今すぐ見直してください。技術士に求められる資質(問題解決、リーダーシップ、コミュニケーション、マネジメント、評価、技術者倫理など)は、単なる暗記物ではなく、「技術者としての思考の習慣」そのものだからです。
習慣を身につけるプロセスは、いわば「下りのエスカレーターを逆向きに登る」ようなものです。 平日の5日間、まったく思考を動かさずにサボってしまうと、エスカレーターの勢いで一気に一番下まで流されてしまいます。週末にいくら10時間登ったとしても、平日に落ちた分を取り戻すだけで精一杯になり、いつまで経っても頂上(合格)には辿り着けません。
大切なのは、毎日エスカレーターを登り続ける「継続性」です。 平日は1日30分〜1時間でも構いません。毎日技術士の視点で物事を考える時間を確保し、脳の「技術士回路」を維持し続けることが、最も効率的な合格へのアプローチです。
【改善策】
学習計画を立てる際、まずは「サボる日(完全に休む日)」を先にスケジュールに組み込んでください。 人間はロボットではないため、張り詰めすぎると燃え尽き症候群に陥ります。平日は毎日コツコツと最低限のルーティン(30分〜1時間の論文構成案作成など)をこなし、休日はあらかじめ決めた「サボる日」に全力でリフレッシュして疲れを癒す。このメリハリこそが、長期にわたる受験生活を勝ち抜くためのモチベーション管理術です。
まとめ:正しい軌道修正が合格への最短ルート
技術士二次試験は、がむしゃらな努力や根性論だけで突破できるほど甘い試験ではありません。しかし、試験の本質を見抜き、正しい方向に向かって正しく努力を積み重ねれば、決して恐れるに足らない試験でもあります。
もし、今回ご紹介した「7つのやってはいけない勉強法」に1つでも心当たりがあったなら、それはこれからの勉強の伸び代(チャンス)です。気づいたその瞬間から、アプローチを是正していけば問題ありません。
仕事をしながら限られた時間の中で合格を勝ち取るためには、「合格するための技術(ノウハウ)」を身につけることが不可欠です。時間とエネルギーを無駄にしないためにも、自分の現在地を客観的に見つめ直し、戦略的な受験対策へとシフトしていきましょう。
あなたの努力が正しい形で実を結び、技術士としての栄冠を掴み取ることを心より応援しています。


