問題
南海トラフ地震,首都直下地震や日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震といった甚大な被害を与えると想定される大規模地震の発生確率が高まっている。また,気候変動の影響によって土砂災害や河川氾濫などによる災害の増加も懸念されている。一方で,我が国には既設の地盤構造物(盛土,切土,擁壁,構造物基礎等)が多数存在しており,災害に対するリスク評価を踏まえて対策を講じていく必要がある。このような背景の中で,土質及び基礎を専門とする技術者の立場から以下の設問に答えよ。
( 1 )既設の地盤構造物の災害に対するリスク評価を行ううえで,多面的な観点から3つ以上の技術的な課題を抽出し,それぞれの観点を明記したうえで課題の内容を示せ。
( 2 )前問( 1 )で抽出した課題のうち最も重要と考える技術的な課題を1っ挙げ,その課題に対する複数の解決策を,専門技術用語を交えて示せ。
( 3 )前問( 2 )で提示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対策について,専門技術を踏まえた考えを示せ。
参考:日本技術士会
解答
1.リスク評価の際の技術的課題
1)地盤情報の高度化
地盤構造物の災害に対するリスク評価を実施する場合,自然由来の地盤材料は不均質であり,評価が困難である.また,地盤構造物は線状構造物として長距離に渡り存在しており,土質力学的な脆弱部が点在することから,正確な地盤情報を把握するのが難しいことが課題である.
2)マンパワー不足
建設業従事者は高齢化・減少の一途をたどっており,熟練技術者不足が深刻である.また,新規入職者も少なく,次世代の建設業を担う若手技術者が不足していることが課題である.
3)財政難
高度経済成長期以降に整備された大量の社会資本は建設から50年以上が経過し,老朽化が進んで集中的に更新時期を迎えている.一方,公共事業の予算は増大しておらず,従来の事後保全に基づく対症療法的な維持補修は困難で,費用の捻出が課題である.
4)想定外の外力
異常気象による想定外の降雨量,外力,地震動は,地盤構造物の防災能力を大幅に上回ることが危惧される.しかし,ハード対策は時間が必要であり,次の自然災害に間に合わないことも多いので,想定外の外力に対する備えを拡充することが課題である.
2.最も重要な課題,解決策
地盤情報を高度化できれば効率的にリスク評価ができることから,地盤情報の高度化が最も重要と考える.
以下に,4つの解決策を示す.
1) 地形情報の高度化
地盤構造物は線状構造物として大規模ネットワークを構築している.昨今は技術者が減少していることから,全線に渡って維持管理を目視で行うことは,困難を極める.そこで,UAVを使用して地盤構造物を点群情報化すれば,三次元BIM/CIMに落としこむことができ,効率的にリスク評価を実施できる.
2) モニタリング高度化
アセットマネジメントによる選択と集中で,リスクを内包する箇所をあらかじめ選定できる.リスクが高い場所において,IoTを活用すれば,有事の際に予兆を捉えることができる.危機管理型水位計があれば増水時の水位を監視できる.GNSS・SARを適用すれば,リアルタイムかつ面的な地表面変状モニタリングが可能となる.
3) 地盤内の情報
表面波探査やレーダー探査を使えば,地盤構造物内部の健全性を定量評価できる.その結果,リスク評価を重点的に実施しておくべき箇所を可視化でき,合理的なリスク評価につながる.
4)新技術の採用
光ファイバによるモニタリング技術は数kmでも可能であり,線状構造物である地盤構造物のヘルスモニタリングと親和性が高い.地盤構造物内に光ファイバを敷設することで,変形,温度,振動,パイピング検知が可能となり,広域での地盤構造物のリスク評価を容易かつリアルタイムに実施できる.
5) 情報統合の自動化
最新技術による計測結果はビッグデータであり,人力ではその評価が難しい.そこで,AIによるリスク評価を活用し,統合的にリスク評価を行う.
3.新たなリスクと対策
AIで統合的に地盤構造物のリスク評価を自動でできるようになれば,膨大な計測データを合理的かつ迅速なリスク評価が可能となる.一方,AI機能はブラックボックスであることが多く,技術者によるリスク評価技術が失われることが新たなリスクである.対策として,ナレッジマネジメントや熟練技術者から若手技術者への技術伝承を推進することが肝要である.
また,AIを導入する場合,システムやソフトウェアの導入に膨大な費用がかかる.中小企業にとっては建設費用増大に直結し,施工品質の確保がおろそかになる可能性が顕在化することも新たなリスクである.対策として,PFIやコンセッションで,民間のノウハウと予算を活用することが重要である.
以上
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