4.2 緊急時の情報管理
事故や天災などに代表される緊急事態が発生した緊急時には、情報管理の観点からは次のような特徴がある。つまり、①情報連絡の当事者や手段が機能不全に陥る、②情報の確からしさに問題が生じる、③時間的制約が生じる、④通常時とは異なる社会からの要求があるといったことである。緊急時には、これらの特徴に留意して対応していかなければならない。もちろん、通常業務の業務プロセスや業務遂行において培われる有形無形のネットワークが、緊急時においても基盤となるのは当然であるが、上述したような特徴に配慮した管理技術も必要となってくるのである。
4.2.1 緊急時の特徴と情報収集
組織において緊急事態が発生した場合には、通常業務とは異なる状況において活動することになる。通常とは異なるということは、情報管理を行う上での前提も異なるということであり、必要な情報が入手できない可能性がある、切迫した状況で情報の確からしさに問題があるといったことを念頭に置く必要がある。また、一般的に緊急事態は頻繁に起こるものではないため、通常ではあり得ない行動をとってしまうといった心理的な影響も考慮する必要がある。
このような緊急時の情報収集では、緊急事態をできるだけ早く発見して認知し、あらかじめ検討した必要十分な情報内容項目に関して、適切な収集方法によって収集することが重要となる。
(1)緊急事態の早期発見
具体的な緊急事態となる事象を検討し、その事象をできるだけ早く発見するための仕組みを構築することが重要である。
(2)情報内容の整理
具体的に必要となる情報の種類や内容について、事前に検討しておくことが有効となる。
(3)情報の収集方法
緊急時に確実に機能し迅速な情報収集が可能な方法を検討しておく必要がある。
4.2.2 緊急時の情報処理と情報伝達
緊急時には、迅速な情報収集を前提としながらも、限られた情報の中で可能な限り正確で迅速な情報処理(分析・判断)が求められる。特に、緊急時における被害拡大防止及び被害低減のためには適切な初期対応が重要となるが、緊急時の初期段階では限られた情報を基に多くの判断を行うことが予想される。このため、緊急時の情報処理においては、以下の点に注意して検討を行う必要がある。
(1)判断事項の把握
あらかじめ緊急事態となる事象を整理し、時系列の進展シナリオを基にどの時点で、どのような判断が必要となるかを把握する。
(2)優先順位の明確化
緊急時には、判断の迷いや意見対立を極力避ける必要がある。そのためには、守るべきものの優先順位を明確にすることが求められる。
(3)判断材料の明示
緊急時には、確実な情報だけで判断することは難しく、入手可能な情報から判断するための材料を明示しておく必要がある。
(4)判断基準の明確化
判断すべき事項について、判断基準を明確にすることである。時間的な制約などを伴う場合には、制約事項も明確にする。
(5)必要な情報の整理
判断基準に照らし合わせるための情報について、その項目や入手方法をあらかじめ定めておくことである。
(6)情報分析の視点の明確化
信じたくなる報告を鵜呑みにするのではなく、常に情報の確からしさを分析して判断する視点を持つことが必要である。
(7)役割分担の事前設定
重要な問題はトップ層が関わる必要があるが、時間など様々な制約がある中では、適切な役割分担を行う。
(8)代替者の明確化
判断すべき人間が判断不可能な場合(例:不在、負傷)を想定し、代わりに判断を行う人間を順位付けして明確にしておく。
緊急時には、人的被害や物的被害が発生している場合もあり、混乱の中で通常の連絡手段が利用できないことや、人を経由する連絡方法では関係者に連絡できないことが考えられる。例えば、地震発生時には、電話回線網の被害や輻輳によって電話が繋がらなかったり、関係者が被災して連絡がつかない可能性がある。また、通常時の情報伝達では複数の人間を介して意思決定者に情報が伝達されることが多いが、緊急時には決定者に対して迅速に情報が伝達される必要があり、通常の連絡経路では時間的に間に合わない可能性がある。
以上のような理由から、緊急時の情報伝達では、まずは短時間で情報が伝えられる連絡経路や連絡網を検討する必要がある。その際には、通常の連絡経路における段階を飛び越えることや、どこからでも情報を一元的に受け付ける部署や人を定めることなども行われる。また、緊急時に利用可能な伝達手段を確保することも必要である。そのためには、情報伝達が困難となる場合を想定して、連絡経路や回線の多重化及び代替伝達手段についても検討を行っておくことになる。
4.2.3 緊急時の広報
緊急時には、組織内部における情報伝達とともに、外部に対する広報も重要となる。
特に、プラント施設などの被害により周辺住民への被害が心配される場合には、迅速な広報とともに避難誘導などを実施することも場合により必要となる。緊急時の広報の目的には、大別して2つの目的がある。近年注目されている危機広報という言葉もあるが、根底にある考え方は共通するものである。
1つ目は安全のための広報活動であり、従業員や周辺住民の安全を守り人的被害低減のために行われる広報である。
2つ目は安心のための広報であり、具体的な被害が発生していなくても、誤解や不安感を与えないようにして社会的信頼性を守るために行われる広報である。
参考:日本技術士会
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