日本の科学技術分野における「最高峰の国家資格」と称される技術士。その資格を得るための最大の難関が「技術士第二次試験(二次試験)」です。
「技術士二次試験の受験資格は?」「筆記試験と口頭試験では何が問われる?」「合格率はどれくらい?」
このような疑問を抱いている受験生の方に向けて、本記事では技術士二次試験の概要から、詳細な日程、複雑な受験資格のルート、筆記・口頭試験の科目と配点、そして合格に必要な「コンピテンシー(資質能力)」までを、徹底的に網羅して解説します。
長丁場となる技術士試験を勝ち抜くためのロードマップとして、ぜひ最後までお読みください。
技術士二次試験の概要と全体スケジュール
技術士二次試験は、申込から最終合格発表まで約1年間におよぶ長期戦の試験です。まずは、試験全体の流れと具体的なスケジュールを押さえておきましょう。
技術士二次試験の年間スケジュール(例年)
技術士二次試験は、毎年春の申込受付から始まり、翌年春の合格発表で締めくくられます。例年の標準的なスケジュールは以下の通りです。
| プロセス | 時期(例年) | 実施内容・詳細 |
| 受験申込書等の配布 | 4月上旬~中旬 | 日本技術士会のホームページや窓口で配布されます。 |
| 受験申込受付期間 | 4月上旬~中旬 | 受験申込書類一式を、公益社団法人日本技術士会へ書留郵便で提出します。 |
| 試験会場の公告 | 6月中旬頃 | 官報にて具体的な試験会場が公告されます。 |
| 筆記試験(記述式) | 7月中旬 | 全国主要都市で実施される、技術士二次試験の最大の山場です。 |
| 筆記試験 合格発表 | 10月下旬 | 日本技術士会HP等で合格者の受験番号が公表されます。 |
| 口頭試験 | 12月上旬~1月中旬 | 筆記試験合格者のみを対象に、東京で実施されます(約20分間)。 |
| 最終合格発表 | 3月下旬 | 官報および日本技術士会HPにて最終合格者が発表されます。 |
試験地および試験会場
筆記試験は、以下の12都道府県で実施されます。
- 北海道、宮城県、東京都、神奈川県、新潟県、石川県、愛知県、大阪府、広島県、香川県、福岡県、沖縄県
受験者はあらかじめ希望する試験地を選択でき、具体的な会場は受験票等で個別に通知されます。なお、口頭試験については「東京都」のみでの実施となりますので、地方在住の方は移動や宿泊の計画を早めに立てておく必要があります。
非常に複雑!技術士二次試験の受験資格と3つのルート
技術士二次試験を受験するためには、受験申込の時点で「技術士補となる資格」を有しており、かつ「規定の実務経験(業務経歴)」を満たしている必要があります。
この実務経験の算定やルートは非常に複雑なため、自分がどのルートに該当するのかを正確に把握しましょう。
受験資格の基本要件
まずは大前提として、次の(1)と(2)の両方を満たさなければなりません。
- (1)技術士補となる資格を有していること
- 技術士第一次試験(一次試験)に合格していること
- または、文部科学大臣が指定した「指定教育課程(JABEE認定コースなど)」を修了していること
- (2)規定の実務経験(業務経歴)を満たしていること
- 受験する部門(総合技術監理部門を除く一般部門 or 総合技術監理部門)に応じ、以下の3つの経路(ルート)のいずれかを満たす必要があります。
実務経験の3大ルート(経路①~③)
実務経験は、指導者の有無や技術士補登録の有無によって、必要な「期間」が異なります。
【A】総合技術監理部門を除く「一般部門」を受験する場合

- 経路①:技術士補登録ルート
- 技術士補の登録日以降、技術士補として「指導技術士」を補助した期間が4年を超えること。
- 経路②:監督者下での実務ルート(技術士補登録は不要)
- 技術士補となる資格を有した日(一次合格日等)以降、職場の「優れた監督者」の下で、科学技術に関する業務に従事した期間が4年を超えること。
- 経路③:実務経験合算ルート(技術士補登録不要・指導者不問)
- 科学技術に関する業務に従事した期間が通算で7年を超えること。
- ※このルートの最大のメリットは、「技術士補となる資格を得る前(一次試験合格前)の業務期間」も算入できる点です。また、指導者や監督者の有無も問われません。長年エンジニアとして働いてから一次試験に合格した方は、このルートを使うことで即座に二次試験を受験できます。
【B】総合技術監理部門(総監部門)を受験する場合
総監部門は、さらに高度な管理能力が求められるため、必要とされる実務期間が長くなります。
- 経路①:技術士補登録以降、指導技術士を補助した期間が7年を超えること。
- 経路②:技術士補の資格取得後、監督者の下で業務に従事した期間が7年を超えること。
- 経路③:科学技術に関する業務に従事した期間が10年を超えること。(※すでに他の一般部門の技術士第二次試験に合格している場合は、合格後の期間を含めて7年を超える期間となります)
受験申込書に記載する「業務経歴票」は、口頭試験でも厳しくチェックされます。期間の計算ミスや業務内容の書き方次第で受験資格が認められないケースもあるため、慎重に準備しましょう。
筆記試験の科目構成・配点・出題内容
技術士二次試験の第一関門であり、最も多くの受験生が苦しむのが「筆記試験」です。すべて記述式(論文形式)であり、膨大な文字数を制限時間内に書き上げる論理的思考力と体力が求められます。
総合技術監理部門を除く一般部門の筆記試験は、「Ⅰ 必須科目」と「Ⅱ・Ⅲ 選択科目」で構成されています。
筆記試験の科目・配点・時間まとめ
| 科目 | 試験時間 | 解答形式・ボリューム | 配点 | 出題内容の概要 |
| Ⅰ 必須科目 | 10:00~12:00 (2時間) | 記述式 600字詰用紙 × 3枚 【2問出題、1問選択】 | 40点 | 技術部門全般にわたる専門知識、応用能力、問題解決能力、課題遂行能力 |
| Ⅱ 選択科目 (専門&応用) | 13:00~16:30 (※Ⅲと合わせて 3時間30分) | 【Ⅱ-1】 600字 × 1枚 【4問出題、1問選択】 【Ⅱ-2】 600字 × 2枚 【2問出題、1問選択】 | 30点 (10点 +20点) | 【Ⅱ-1】 選択科目に関する専門知識 【Ⅱ-2】 選択科目に関する応用能力(業務遂行手順など) |
| Ⅲ 選択科目 (問題解決・課題遂行) | 記述式 600字詰用紙 × 3枚 【2問出題、1問選択】 | 30点 | 選択科目に関する問題解決能力及び課題遂行能力(複合的なエンジニアリング問題) | |
| 合計 | 5時間30分 | 計9枚(5,400字分) | 100点 | 合格基準:Ⅰで60%以上、かつⅡ・Ⅲの合計で60%以上 |
各科目の詳細と出題コンセプト
■ Ⅰ 必須科目(技術部門全般)
- 概念: 受験する「技術部門」全般にわたる汎用的な専門知識、応用能力、問題解決能力、課題遂行能力を問います。
- 出題内容: 現代社会が直面している多様な問題(例:脱炭素、インフラ老朽化、DX、防災・減災など)に対し、技術部門全般の観点から多面的に課題を抽出し、その解決策やリスク、波及効果を提示するエンジニアリング能力が問われます。
- 評価コンピテンシー: 専門的学識、問題解決、評価、技術者倫理、コミュニケーション
■ Ⅱ 選択科目(専門知識・応用能力)
- Ⅱ-1(専門知識): 選択科目における重要なキーワード、新技術、原理などの「汎用的な専門知識」を的確に説明できるかを問われます。短時間で過不足なくキーワードの本質を論述するスキルが必要です。
- Ⅱ-2(応用能力): 与えられた具体的な業務条件やシチュエーションに合わせて、これまでの知識や経験ベースで「業務遂行手順」「留意すべき点」「工夫を要する点」を論理的に説明できるかを問われます。マネジメントやリーダーシップの視点が必要です。
■ Ⅲ 選択科目(問題解決能力・課題遂行能力)
- Ⅲ(問題解決・課題遂行): 選択科目の分野における、社会的ニーズや技術の進歩に伴う「複合的なエンジニアリング問題」が対象となります。多面的な視点から課題を抽出し、複数の解決策を提起した上で、それぞれのメリット・デメリット、将来的なリスクや波及効果までを論理的かつ合理的に提示できるかを深く問われます。
口頭試験の科目構成と試問内容
筆記試験を見事突破した受験生に待ち受ける最終関門が「口頭試験」です。口頭試験は「落とすための試験」ではなく、「受験生が本当に技術士としての資質を備えているかを確認する場」です。
試験時間は約20分(場合により10分程度延長あり)で、試験官2名に対して受験生1名で実施されます。
口頭試験の評価項目と配点
口頭試験は、事前に提出した「業務経歴票」および「筆記試験の再現答案」をベースに試問が行われます。配点と評価項目は以下の通り完全にパッケージ化されています。
| 評価項目(大項目) | 具体的な試問内容(コンピテンシー) | 配点 | 合格基準 |
| Ⅰ. 技術士としての実務能力 | ① コミュニケーション、リーダーシップ ② 評価、マネジメント | 60点 (各30点) | 各項目で60%以上の得点 (すべてで18点以上) |
| Ⅱ. 技術士としての適格性 | ③ 技術者倫理 ④ 継続研さん(CPD) | 40点 (各20点) | 各項目で60%以上の得点 (すべてで12点以上) |
口頭試験を突破するための注意点
口頭試験の合格率は例年約90%と高めですが、対策を怠ると容赦なく不合格になります。特に注意すべきは以下の点です。
- 「技術士としての定義」を理解した回答をする: 単なる作業者や技術的なマニアとしての回答ではなく、経営的視点、公益の確保、チームの統率といった「技術士コンピテンシー」に沿った回答が求められます。
- 技術者倫理の理解: 「公衆の安全、健康及び福利を最優先する」という技術士法第45条(あるいは技術士倫理綱領)の精神について、自身の業務経験と紐付けて語れるようにしておく必要があります。
- 継続研さん(CPD)の具体計画: 合格後、どのように最新技術を学び続けるか(論文発表、講習会参加、資格取得など)の具体的な計画を説明できるようにします。
技術士に求められる資質能力「コンピテンシー」を徹底解剖
2019年度(令和元年度)の試験制度改正以降、技術士試験は「コンピテンシー(資質能力)を評価する試験」へと完全にシフトしました。
筆記試験の論文を書く際も、口頭試験で発言する際も、このコンピテンシーの定義を正しく理解し、文脈に組み込むことが最大の合格への近道です。日本技術士会が定義する8つのコンピテンシーを分かりやすく解説します。
8大コンピテンシーの定義と試験での見られ方
- 専門的学識(Professional Expertise)
- 定義: 技術部門全般および選択科目に関する専門知識を理解し、応用できること。また、関連する法令、社会・自然条件等を理解していること。
- 試験での見られ方: 論文内でキーワードを正しく使えているか、前提となる原理原則を誤解していないかチェックされます。
- 問題解決(Problem Solving)
- 定義: 複合的な問題に対し、背景にある要因や制約条件を抽出し分析すること。相反する要求事項(必要性、安全性、経済性など)を考慮し、複数の選択肢を提起して、合理的な解決策を提案・改善すること。
- 試験での見られ方: 主に「必須科目Ⅰ」や「選択科目Ⅲ」の課題抽出・解決策の提示部分で最も重視されます。
- マネジメント(Management)
- 定義: 業務のPDCAサイクルの過程において、品質、コスト、納期(QCD)、生産性、リスクなどを満たすために、人員・設備・金銭・情報などの資源(リソース)を配分すること。
- 試験での見られ方: 「選択科目Ⅱ-2」の業務計画や、口頭試験でのリソース管理の経験談で評価されます。
- 評価(Evaluation)
- 定義: 業務遂行の各段階の結果や成果、波及効果を評価し、次の段階や別の業務の改善に活かすこと。
- 試験での見られ方: 解決策を提示した後に生じる新たなリスクや副作用、それに対する対応策を考察できているかを見られます。
- コミュニケーション(Communication)
- 定義: 口頭や文書を通じて、顧客、上司、同僚、クライアント等の多様な関係者と明確かつ効果的な意思疎通を行うこと。海外業務では語学力や社会的・文化的背景の理解も含みます。
- 試験での見られ方: 筆記試験においては「読みやすく論理的な構成の論文が書けているか」、口頭試験においては「質問に対して的確かつ簡潔にキャッチボールができているか」が評価されます。
- リーダーシップ(Leadership)
- 定義: 業務遂行にあたり、明確なデザインと現場感覚を持ち、多様な関係者の利害関係を調整し、取りまとめることに努めること。
- 試験での見られ方: 利害が対立する関係者(発注者、住民、他部門の技術者など)の間に入り、どのようにプロジェクトを前進させたかの調整力が問われます。
- 技術者倫理(Engineering Ethics)
- 定義: 公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮し、地球環境の保全や持続可能性の確保に努め、法令遵守のもと、責任の範囲を明確にして行動すること。
- 試験での見られ方: 筆記・口頭ともに極めて重視されます。「利益優先で安全を軽視していないか」「リスクを隠蔽しないか」といった技術者としてのモラル・倫理観が厳しく問われます。
- 継続研さん(Continuous Professional Development / CPD)
- 定義: 業務履行に必要な知見を深め、技術を修得し、資質向上を図るために十分な継続研さんを行うこと。
- 試験での見られ方: 主に口頭試験で、現在のCPD実施状況と合格後の学習計画がチェックされます。
技術士二次試験の合格率・難易度と受験者のリアルなデータ
技術士二次試験の難易度はどの程度なのでしょうか。合格率や受験者の傾向から、そのリアルな姿を紐解きます。
データで見る技術士二次試験の壁
- 総合合格率: 例年 約10% 前後
- 筆記試験の合格率:約12%~15%
- 口頭試験の合格率:約90%
- 合格者の平均年齢: 約40歳
- 隠れた重要データ:「受験率」は約75%
技術士二次試験の最大の特長の一つとして、「申込者の約25%が、当日に試験会場に来ない(受験しない)」という点が挙げられます。

なぜ4人に1人が受験をあきらめるのか?
技術士二次試験の準備には、数百時間に及ぶ論文執筆の練習や業務経歴票の推敲が必要です。しかし、仕事が忙しい働き盛りのエンジニア(平均年齢40歳前後)にとって、その勉強時間を捻出するのは容易ではありません。
結果として、「圧倒的に準備が不足している」「論文がまともに書けない」と直前になって自覚し、試験を欠席してしまう人が4人に1人もいるのです。
つまり、「最後まであきらめずに準備をし、当日会場に行ってすべての解答用紙を文字数いっぱいに埋める」だけで、実質的なライバルは大きく減るということになります。
まとめ:技術士二次試験合格への第一歩
技術士二次試験の概要について詳細に解説してきました。改めて重要なポイントを振り返りましょう。
- 長期的な計画が不可欠: 4月の申込(業務経歴票の作成)から始まり、7月の筆記試験、12月~1月の口頭試験、3月の合格発表まで、約1年間のモチベーション維持が必要です。
- 「受験資格」の事前確認: 実務経験のルート(経路①~③)を正しく算定し、必要な年数を満たしているか必ず確認してください。
- コンピテンシー主体の対策: 暗記型の知識だけでは合格できません。「専門的学識」「問題解決」「技術者倫理」などのコンピテンシーを、論文や口頭試問でどう表現するかを意識したトレーニングが必要です。
合格率10%という数字に圧倒される必要はありません。試験の評価基準(コンピテンシー)を正しく理解し、客観的な添削を受けながら正しい方向性で努力を続ければ、必ず突破できる試験です。
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参考資料: 公益社団法人 日本技術士会 ホームページ



